2017 年 66 巻 10 号 p. 385-393
放射線化学反応は,反応に影響を及ぼす物理定数やパラメータが多数にわたり,さらに放射線の種類によっても反応の初期の活性種の分布等が異なるため,その完全な理解のためには非常に複雑でかつ高度な知識が必要となる。そのため,この分野の研究者以外からみると,汚い科学という汚名を着せられたりもしてきた。しかし,放射線を使った産業,医療等への応用技術が大きく広がっている現在では,放射線化学の全知識を動員した反応への理解が極めて重要な状況を迎えている。放射線化学研究に求められる要請はますます深まるものと考えられる。本稿ではできる範囲で、この複雑な放射線化学の体系を概観した。