2025 年 74 巻 2 号 p. 157-167
放射線がん治療の際の副作用の一つである二次がん発生のリスクを推定するための方法として,DNA損傷がPolymerase Chain Reaction(PCR)を阻害することを利用した,DNA損傷評価手法を開発した。PCRで増幅される注目領域内にDNA損傷が生じるとPCRは阻害される。一方で,放射線によるDNA損傷は,鎖切断,脱塩基,酸化損傷があり,DNA鎖切断だけでなく,酸化損傷および脱塩基も突然変異を誘発する可能性がある。したがって,放射線による二次がん発生のリスクを推定するために鎖切断,脱塩基,酸化損傷の収率を求める手法が必要である。TE(Tris-EDTA)緩衝液に溶解させたDNAサンプルにγ線を照射し,照射したサンプルに対してFormamidopyrimidine-DNA glycosylase(Fpg)やEndonuclease(III)を用いて酸化損傷や脱塩基した部位をそれぞれ鎖切断に変換し,その後,PCRによってDNA損傷の収率を評価した。酵素反応との組み合わせによって求めた鎖切断,脱塩基,酸化損傷の比率は,約1.0 : 2.8 : 2.4となった。アガロースゲル電気泳動を用いた先行研究では,塩基損傷の方が鎖切断よりも起こりやすいことが報告されており,本研究の結果は先行研究の結果と一致した。