甲殻類の研究
Online ISSN : 2433-0108
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北海道南部の砂質海岸に生息するナミノリソコエビ科端脚類の繁殖生態
上平 幸好
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1990 年 19 巻 p. 13-26

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抄録

ナミノリソコエビ科端脚類の繁殖生態を明らかにするため,函館市大森浜で繁殖期に連続採集を行った。また,飼育観察を行って産卵回数を調べた。さらに岩内町大浜・瀬棚町三本杉海岸・伊達有珠海岸および鵡川町汐見浜で採集した繁殖期の標本を観察して以下のような結果をえた。(1)Haustorioides japonicusの繁殖期は函館で6月中旬から8月上旬までであり,この間に雌は通常1回の産卵をする。繁殖最盛期は6月下旬にあって,繁殖期に生息地個体群として4回(1980年)ないし5回(1977年)の産卵ピークを記録した。(2)産卵ピークは半月周期と一致しており,この同調は配偶子の放出時期をあわせることによって受精の機会を促進するためと考えられた。しかし観察した年によって同調には強弱があったので,H.japonicusでその意義を特に強調することは未だ研究の余地がある。(3)繁殖期前半の標本には,体長10.25mm以上の大型な成体雌の占める割合が高く(56.38%),後半の標本には小型な成体雌の占める割合が高かった(72.11%)。これは早い時期に大型雌個体が繁殖活動に入り,幼体の誕生後に死亡するためであった。(4)繁殖期前半の6月上旬から7月上旬までH.japonicusの体長と抱卵数との間には高い正の相関関係が認められたが(r=0.766〜0.795),繁殖期後半(7月中旬より8月上旬)にはやや相関が低くなり抱卵数は減少していて(r=0.462〜0.660),その抱卵数は繁殖最盛期の77・1%であった。(5)繁殖最盛期の一腹あたりの抱卵数はH.japonicusで,函館の雌の平均体長が9.75±0.25mmのとき77.6±20.4個であった。有珠の第1世代(8.98±0.53mm)では69.9±14・0個で,第2世代(6.68±0.50mm)では35.2±9.1個であった。岩内の第1世代(9.10±0.62mm)では80.4±14.3個で,瀬棚の第1世代(9.74±0.44mm)では86.5±9.63個であった。また,H.munsterhjelmiの抱卵数は平均体長13.43±0.68mmで105.50±15.04個であった。ナミノリソコエビ科は既知の端脚類に比べて,一腹あたりの抱卵数は非常に多いことが特徴的である。(6)H.japonicusの生活史は各生息地で微妙な違いが知られているので繁殖力に注目し観察したところ,第1世代で抱卵数に違いはなかったが,第2世代で顕著な違いが認められた。

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© 1990 日本甲殻類学会
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