甲殻類の研究
Online ISSN : 2433-0108
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いわがに科2種の後期幼生の外部形態について
村岡 健作
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1971 年 4.5 巻 p. 225-235

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抄録

本邦産いわがに科の後期幼生については相川(1929,1937),石川・八塚(1948),蒲生(1958),村岡(1967),倉田(1968)等によってすでに報告されている。これらのうちいそがに亜科に属するイソガニHemigrapsus sanguineus(DE HAAN)の幼生については相川によってゾェアの第1期を,また倉田によって孵化したゾェアを実験室で飼育することによって,ゾェアの5期とメガロパの1期をそれぞれ報告している。またヒライソガニGaetice depressus(DE HAAN)の幼生については相川によって,ゾェアの第1と最後期を,そしてメガロパの1期を報告している。筆者はイソガニとヒライソガニの両種のメガロパを相模湾から採集した。このうちイソガニのメガロパは1967年の夏から秋にかけての期間,沿岸の表層から,またヒライソガニのメガロパについては1968年の夏に転石海岸の潮上帯付近からいずれも得た。これら両種のメガロパは実験室で飼育し,幼蟹に変態させることに成功した。これら2種のメガロパ及び幼蟹の外部形態を観察したところ,若干の知見が得られたので報告するとともに,従来報告されている本邦産のいそがに亜科のメガロパの外部形態との比較も合わせておこなった。イソガニHemigrapsus sanguineus(DE HAAN) メガロパの甲殻背面には棘や毛は認められない。甲長1.5mm,甲幅1.1mmで,甲長がわずかに長い。第2触角は10節からなり,第7〜第9節の各節には2〜3本の長い剛毛が認められる。末節末端には2本の長い剛毛と1本の短かい剛毛とをそなえる。第3顎脚は内外肢に分かれ,内肢には5節,外肢には2節それぞれ認められる。鉗脚の大きさは左右ともほぼ等しい。第4歩脚の末節には3本の長い感覚毛が認められる。腹部は7節で,第2〜第5腹筋にはそれぞれ1対の二叉'した腹肢をそなえ,その外肢には17〜20本の羽状毛を,内肢には2〜3本の鈎毛が認められる。第6腹節には1対の尾肢をそなえ,その基節の外縁には1本の羽状毛を,末節の側縁には10〜12本の長い羽状毛が認められる。第1幼蟹は甲長1.7mm,甲幅1.8mmで,外部の形態は成体とほゞ類似している。ヒライソガニGaetice depressus(DE HAAN) メガロパの甲殻背面は前種と同様,棘や毛は認められない。甲長は1.9〜2.2mm,甲幅は1.5mmである。第2触角は10節からなり,第7〜第9節の各館末端には3本の長い剛毛が認められる。末節末端には1本の長い剛毛と短かい剛毛とをそなえる。第3顎脚は,内肢に5節,外肢に2節それぞれ認められる。鉗脚の大きさは左右ともほぼ等しい。第4歩脚の末節には末端に4本の長い感覚毛をそなえる。腹部は7節認められる。第2〜第5腹筋にはそれぞれ1対の二叉した腹肢をそなえ,その外肢には20〜23本の羽状毛を,内肢には3本の鈎毛が認められる。第6腹節には1対の尾肢をそなえ,その基節の外縁は1本の羽状毛を,末節の側縁には12〜13本の羽状毛が認められる。第1幼蟹は甲長2.2mm,甲幅2.3mmで,外部の形態は成体とほぼ類似している。イソガニのメガロパはヒライソガニのメガロパと外部の形態において類似している点が多い。しかし甲殻の大きさ,第2触角の末節の剛毛数,尾節側縁の剛毛数,腹肢及び尾肢の羽状毛数,第4歩脚末節の感覚毛の数などにおいては両種のメガロパの間で明確な相違が認められる。またイソガニのメガロパの形態はすでに報告されているモクズガニEriocheir japonicus DE HAANのメガロパ(石川・八塚,蒲生)と比較して,甲殻の大きさや,第2触角の形態などの点では類似している。しかし腹肢や尾肢の羽状毛数はこの両種の間で明らかに差異が認められるので,これらの形態を観察することにより,両種のメガロパを簡単に識別することができる。

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© 1971 日本甲殻類学会
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