2025 Volume 52 Issue 5 Pages 267-275
【目的】急性期脳卒中患者に対して発症後48時間以内に立位を開始し,14日間頻回に実施する高頻度リハビリテーションの有効性および安全性について検証することとした。【方法】対象は急性期脳卒中患者397名とし,高頻度群と対照群に分けた。主要アウトカムは退院時のmodified Rankin Scale(以下,mRS), Functional Ambulation Categories(以下,FAC)とした。副次項目は不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象とした。【結果】高頻度群121名,対照群93名であった。mRS(<2)に両群間で有意差は認めなかったが,FAC(>2)は対照群と比較して高頻度群で有意に多かった。不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象は両群間で有意差を認めなかった。【結論】発症後48時間以内に立位を開始し,14日間のリハビリテーションを頻回に実施することは,脳卒中患者においてテント上病変ならびに保存的治療例で安全に実施可能で,歩行自立度を良好にする可能性がある。
Objective: This study evaluated the safety and efficacy of high-frequency rehabilitation for patients with acute stroke between the first 48 h after stroke onset and 14 days following stroke onset.
Methods: A non-randomized controlled trial was conducted at Kansai electric power hospital between August 2017 and December 2019. This study included 397 patients with acute stroke who were divided into the high-frequency rehabilitation (HF) and control groups. The primary outcomes were modified Rankin Score (mRS) and Functional Ambulation Categories (FAC) at discharge. The secondary outcomes were immobility-related complications and neurological adverse events.
Results: The HF and control groups included 121 and 93 patients, respectively. The mRS (<2) was not significantly different between the two groups. The FAC (>2) was significantly higher in the HF group than in the control group. Immobility-related complications and neurological adverse events were not significantly different between the two groups.
Conclusions: Frequent rehabilitation for 14 days, starting with standing within 48 h of onset, can be safely performed in patients with stroke and supratentorial lesions and in conservatively treated patients and may improve ambulatory independence.
急性期脳卒中患者に対する早期離床は,廃用症候群を予防し機能的予後に寄与することから多くの治療ガイドライン1)2)で推奨されている。過去の研究では,発症後24時間以内に座位や立位を開始し,リハビリテーション量を多くしても死亡率は同等であったと報告されている3)。一方,発症後24時間以内に離床した群において3か月後の転帰不良例の割合が多く,対照群(発症後24~48時間以内の離床)で有意な機能的改善を認めたとの報告もある4)。さらに,発症後24時間以内に離床を開始し,頻度および量ともに集中的なリハビリテーションの効果を検証した研究でも,介入群は対照群(発症後24~48時間以内に離床)と比較して3か月後の機能的予後が不良傾向で,死亡率ならびに非致死的有害事象は両群間で有意差は認めなかったとされている5)。また,死亡率については80歳以上および脳出血患者において介入群で有意にリスクが高かったと報告されている6)。他方,早期離床後のリハビリテーション頻度に着目した研究では,発症後48時間以内に離床し頻回なリハビリテーションを実施した群において,対照群と比較してmodified Rankin Scale(以下,mRS)ならびに神経学的有害事象に有意差は認めなかったと報告されている7)。このように,発症後24時間以内の超早期離床と頻回なリハビリテーションについては否定的な報告が散見される。しかし,大規模研究の二次解析8)において,少量頻回な介入の重要性が述べられており,発症後24時間以内であっても1回あたりのリハビリテーション時間を短く,頻回に介入することは転帰を良好にする可能性があると報告されている。現在では,改めて早期離床の開始時期に関する大規模な多施設研究が進められており,さらに頻度,強度などの検証も期待される9)。本邦においては,脳卒中急性期リハビリテーション診療の指針で,適切な離床時期は発症後24~48時間以内,量や頻度については不明であると述べられている10)。以上より,脳卒中患者の早期離床において発症後早期にリハビリテーションを開始することは推奨されているが,量や頻度が機能的予後や安全性にどのような影響を及ぼすかは不明である。そのため,本邦において高頻度リハビリテーションの効果を明らかにすることは,脳卒中急性期リハビリテーションを確立する上で重要な課題の一つである。
関西電力病院(以下,当院)では2015年8月より,急性期脳卒中患者に対する発症後48時間以内の立位を早期離床と定義したリハビリテーションを運用し,その後,2017年1月より発症後48時間以内に立位を開始し,14日間のリハビリテーションを頻回に実施する高頻度リハビリテーションを付加し運用した。本研究の目的は,急性期脳卒中患者における高頻度リハビリテーションが,急性期病棟退院時の機能的予後および神経学的有害事象に及ぼす影響について検証することである。また,高頻度リハビリテーションは80歳以上および脳出血患者においては,不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象のリスクを高める可能性があるため6),併せて比較検討を行った。
単一施設での後ろ向き非無作為化比較試験である。
2. 研究セッティング当院は400床,診療科31科の第2次救急指定病院である。介入と評価はリハビリテーションスタッフが実施し,データの抽出作業・集計は主任研究者が実施した。統計解析は本研究の趣旨を知らされていないリハビリテーションスタッフが実施した。
3. 対象2015年8月から2019年12月の間に当院へ入院し,リハビリテーション処方があった急性期脳卒中患者397名とし,以下の除外基準に該当する者は本研究の対象から除外した。除外基準は,一過性脳虚血発作,くも膜下出血,テント下病変の脳卒中患者,内科的治療の他に医学的管理を要する者(外科的手術,人工呼吸器管理,緩和医療,人工透析),データ欠損,および当院の早期離床中止基準に該当した者とした。また,発症前の日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)がmRSで4ならびに5に該当する者は,機能的予後に強く影響するため本研究の対象から除外した。高頻度リハビリテーションを導入した2017年1月を基準とし,高頻度リハビリテーション導入前(2015年8月から2016年12月)の脳卒中患者を対照群,高頻度リハビリテーション導入後(2017年1月から2019年12月)の脳卒中患者を高頻度群とし2群に群分けした。なお,関西電力病院倫理委員会(承認番号第22-020)の承認を受けるとともに,個人情報の取り扱いには十分に留意し検討を行った。
4. 必要サンプルサイズの計算G*power3.1(Heinrich-Heine-University, Free software)を用いて対応のあるMann–WhitneyのU検定を想定して算出した。本研究では参考となる先行研究のデータが無かったため,一般的に推奨されている効果量d=0.50,α=0.05,検出力80%を使用し11),各群67例であった。
5. 調査項目と調査方法調査項目は基礎的情報,早期離床に関する評価,機能的予後,不動関連の合併症,神経学的有害事象とした。データの抽出作業・集計は病院内の電子カルテより後方視的に行った。
基礎的情報に関する項目は年齢,性別,病型,脳卒中既往歴(初発・再発),病巣部位(脳梗塞;前大脳動脈領域・中大脳動脈領域・後大脳動脈領域・多発性脳梗塞,脳出血;被殻・視床・皮質下),病巣側,脳卒中危険因子(高血圧・脂質異常症・糖尿病・不整脈),発症時National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS),発症前mRS,アルテプラーゼ静注療法(Recombinant Tissue Plasminogen Activator:以下,rt-PA)施行の有無,在院日数を調査した。
早期離床に関する評価の項目は,過去の研究5)より機能的予後に影響を及ぼすとされる発症から離床開始までの時間として,発症から立位開始までの時間を調査した。発症から立位開始までの時間は,当院に入院し主担当医による脳卒中の確定診断後,理学療法士,作業療法士,看護師いずれかの職種により初回に立位を開始するまでの時間を調査した。理学療法士,作業療法士はリハビリテーションでの立位課題を,看護師は病棟ADLで立位を開始するまでの時間とした。また,リハビリテーション量や頻度は機能的予後に関連するとされ,過去の研究で14日間のリハビリテーション実施時間が用いられている5)。そのため,発症から14日間の理学療法および作業療法実施時間(分),発症から14日間の1回当たりのリハビリテーション時間(分),発症から14日間の1日当たりのリハビリテーション頻度(回)を調査した。
機能的予後に関する項目は機能的自立度,歩行能力とし,いずれも急性期病院退院時に調査した。機能的自立度はmRS,歩行能力はFunctional Ambulation Categories(以下,FAC)を調査した。また,脳卒中片麻痺者を対象とした過去の研究を参考にmRS(<2)12),FAC(>2)13)を機能的予後良好と定義した。
不動関連の合併症に関する項目は,過去の研究を参考に長期臥床により心身の活動性が低下したことによって生じる精神を含めた全身の部位に起きるものとし,肺炎,尿路感染症,深部静脈血栓症,肺塞栓症,褥瘡,うつ病を調査した5)。神経学的有害事象に関する項目は,病変拡大ならびに神経学的所見の増悪,新規脳卒中の再発,死亡を調査した。病変拡大は,梗塞巣面積の拡大または血腫量の増大,スライス数の増加と定義した。神経学的所見の増悪は,Scandinavian Stroke Scale14)を用いて評価し,発症後7日以内の意識(conscious level),眼球運動(eye movements),上肢筋力(arm movements),下肢筋力(leg movements)のいずれかの項目で2点以上の増悪,または言語(speech)の項目で3点以上の増悪と定義した3)15)。
6. 早期離床1)早期離床中止基準早期離床中止基準を表1に示す。早期離床中止基準は,過去の早期離床に関する研究3)5)を参考に脳神経外科医,脳神経内科医,リハビリテーション科医の監修で作成し,2015年8月より運用を開始した。初回のリハビリテーション介入時に表1に記す早期離床中止基準のいずれかに該当する者は本研究から除外した。
| 全身状態に関わる項目 |
| 38.5度以上の発熱 |
| 安静時心拍数が40bpm未満または120bpm以上 |
| 深部静脈血栓症やその疑い |
| 血小板減少(50000/µL以下) |
| 未治療ならびに運動によって増加する不整脈 |
| 重度の大動脈弁狭窄症 |
| 播種性血管内凝固症候群 |
| 消化管出血の併発 |
| 脳循環動態に関わる項目 |
| 収縮期血圧が脳梗塞患者で220 mmHg以上,脳出血患者で160 mmHg以上 |
| 脳出血患者における発症後24時間以内の血腫増加や水頭症の発生 |
| 主幹動脈の高度狭窄ならびに閉塞 |
| 心内血栓ならびに浮遊性のある頚動脈プラーク |
| 急性心筋梗塞の併発 |
| 神経学的所見の進行 |
| 起立性低血圧 |
対照群における早期離床は,理学療法士または作業療法士によって発症後48時間以内の立位を目標に開始した。なお,当院では意識障害や重度片麻痺により介助下で立位が困難な脳卒中患者に対しては,Tilt tableを用いて他動的な立位課題を行っている。早期離床後のリハビリテーションは脳卒中治療ガイドライン16)に基づき,理学療法士は早期から歩行練習を介して身体に運動負荷を与え,急性期から積極的に機能の向上を図った。一方,作業療法士はADLの早期獲得や社会復帰を目的に更衣,整容,排泄動作などのADL練習のみならず理学療法士と協力して積極的に立位・歩行練習を行った。また,リハビリテーション実施単位数,リハビリテーション頻度は規定を設けなかった。
3)高頻度群の早期離床高頻度群における早期離床は対照群と同様に,理学療法士または作業療法士によって発症後48時間以内の立位を目標に開始した。その後,過去の研究6)を参考にリハビリテーション実施単位数,リハビリテーション頻度が1–2単位/回,3–5回/日となることを目標に発症から14日間実施した。一方,発症後15日目から退院時まではリハビリテーション実施単位数,リハビリテーション頻度の規定を設けなかった。高頻度群のプログラムは脳卒中患者の歩行自立度によって作成しており,①歩行自立例は,脳卒中再発予防,ADL自立,自宅復帰を目的に階段昇降練習,有酸素運動,ADL練習,②歩行介助例は歩行自立,ADL自立を目的に下肢装具を使用した歩行練習,更衣,整容,排泄動作などのADL練習,③立位,歩行困難例は歩行再建ならびに不動関連の合併症予防を目的に座位練習,下肢装具を使用した立位練習,歩行練習とした。
7. 統計解析各検定に先立ち,各変数が正規分布に従うかについてShapiro-Wilk検定を行った。高頻度群と対照群の2群間において,正規分布に従う場合はStudentのt検定を用い,非正規分布の場合はMann–WhitneyのU検定,名義尺度はFisherの直接確率検定(両側)またはχ2検定を用いて解析した。また,サンプルサイズによって左右されない数値の指標として効果量rおよびクラメールのVを算出した。効果量の目安17)としてrは効果量小(0.10),効果量中(0.30),効果量大(0.50),クラメールのVは効果量小(0.10未満),効果量中(0.10–0.30),効果量大(0.30以上),とした。統計ソフトはIBM SPSS statistics ver. 22.0を使用し,有意水準は5%とした。
急性期脳卒中患者397名のうち,除外基準(一過性脳虚血発作またはくも膜下出血患者16名,テント下病変の脳卒中患者36名,内科的治療の他に医学的管理を要する者68名,mRS4または5に該当する者21名,データ欠損19名)および早期離床中止基準に該当した者23名を除き,解析対象者は高頻度群121名,対照群93名となった(図1)。基礎的情報の結果を表2に示す。年齢,性別,病型,脳卒中既往歴,病巣側,脳卒中危険因子,入院時のNIHSS,発症前のmRS,rt-PAの有無,在院日数は両群間で有意差を認めなかった。病巣部位は高頻度群が対照群と比較して視床出血が有意に少なかった(p=0.034)。その他の病巣部位に有意差は認めなかった。早期離床に関する評価の結果を表3に示す。発症から立位開始までの時間は,中央値で高頻度群5(1–25)時間,対照群11(3–27)時間であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.211)。発症から14日間の理学療法および作業療法実施時間は,高頻度群820(680–1020)分,対照群640(520–780)分であり,高頻度群は対照群と比較して有意に多かった(p<0.000)(r=0.365)。発症から14日間の1回当たりのリハビリテーション時間は,中央値で高頻度群25.7(21.2–28.7)分,対照群40.0(36.0–45.0)分であり,高頻度群は対照群と比較して有意に少なかった(p<0.000)(r=0.770)。発症から14日間の1日当たりのリハビリテーション頻度は,中央値で高頻度群3.3(3.0–3.5)回/日,対照群1.7(1.5–1.8)回/日であり,高頻度群は対照群と比較して有意に多かった(p<0.000)(r=0.830)。機能的予後の結果を表4に示す。mRS(<2)に該当する者は,高頻度群71名,対照群42名であり両群間で有意差を認めなかった(p=0.054)。FAC(>2)に該当する者は,高頻度群106名,対照群69名であり,対照群と比較して高頻度群で有意に多かった(p=0.013)(クラメールのV=0.172)。不動関連の合併症および神経学的有害事象の結果を表5に示す。不動関連の合併症は高頻度群5名,対照群5名であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.750)。神経学的有害事象は高頻度群4名,対照群2名であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.699)。80歳以上の不動関連の合併症は高頻度群3名,対照群4名であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.698)。80歳以上の神経学的有害事象は高頻度群3名,対照群2名であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.481)。脳出血患者の不動関連の合併症は高頻度群1名,対照群1名であり,両群間に有意差は認めなかった(p=1.000)。神経学的有害事象は高頻度群0名,対照群0名であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.450)。

| 高頻度群 | 対照群 | P-value | |
|---|---|---|---|
| 121名 | 93名 | ||
| 年齢(歳) | 68.2±12.8 | 71.2±12.2 | 0.083 |
| 性別(名) | |||
| 男性/女性 | 78/43 | 59/34 | 0.887 |
| 病型(名) | |||
| 梗塞/出血 | 99/22 | 75/18 | 0.861 |
| 脳卒中既往歴(名) | |||
| 初発/再発 | 92/29 | 72/21 | 0.871 |
| 病巣部位(名) | |||
| 脳梗塞 | |||
| 前大脳動脈領域 | 4 | 5 | 0.507 |
| 中大脳動脈領域 | 78 | 53 | 0.322 |
| 後大脳動脈領域 | 12 | 9 | 1.000 |
| 多発性脳梗塞 | 5 | 8 | 0.248 |
| 脳出血 | |||
| 被殻 | 13 | 8 | 0.650 |
| 視床 | 3 | 9 | 0.034 |
| 皮質下 | 6 | 1 | 0.141 |
| 病巣側(名) | |||
| 左 | 59 | 36 | 0.166 |
| 右 | 55 | 48 | 0.409 |
| 両側 | 7 | 9 | 0.305 |
| 脳卒中危険因子(名) | |||
| 高血圧 | 79 | 63 | 0.771 |
| 脂質異常症 | 30 | 30 | 0.283 |
| 糖尿病 | 30 | 22 | 0.874 |
| 不整脈 | 21 | 23 | 0.232 |
| 発症時NIHSS(名) | |||
| mild (1–7) | 103 | 72 | 0.157 |
| moderate (8–16) | 16 | 16 | 0.444 |
| severe (>16) | 2 | 5 | 0.244 |
| 発症前mRS(名) | |||
| 0 | 83 | 55 | 0.195 |
| 1 | 20 | 21 | 0.296 |
| 2 | 10 | 9 | 0.810 |
| 3 | 8 | 8 | 0.609 |
| rt-PA(名) | 3 | 3 | 1.000 |
| 在院日数(日) | 19 (14–29) | 17 (13–24) | 0.106 |
平均値±標準偏差.中央値(第1四分位–第3四分位).
NIHSS: National Institute of Health Stroke Scale, mRS: modified Rankin Scale, rt-PA:アルテプラーゼ静注療法.
| 高頻度群 | 対照群 | P-value | r | |
|---|---|---|---|---|
| 121名 | 93名 | |||
| 発症から立位開始までの時間(時間) | 5 (1–25) | 11 (3–27) | 0.211 | |
| 発症から14日間の理学療法および作業療法実施時間(分) | 820 (680–1020) | 640 (520–780) | <0.000 | 0.365 |
| 発症から14日間の1回当たりのリハ時間(分) | 25.7 (21.2–28.7) | 40.0 (36.0–45.0) | <0.000 | 0.770 |
| 発症から14日間の1日当たりのリハ頻度(回/日) | 3.3 (3.0–3.5) | 1.7 (1.5–1.8) | <0.000 | 0.830 |
中央値(第1四分位–第3四分位).
| 高頻度群 | 対照群 | P-value | クラメールのV | |
|---|---|---|---|---|
| 121名 | 93名 | |||
| mRS (<2) | 71 | 42 | 0.054 | |
| 0 | 34 | 11 | ||
| 1 | 37 | 31 | ||
| 2 | 12 | 15 | ||
| 3 | 11 | 14 | ||
| 4 | 17 | 18 | ||
| 5 | 10 | 4 | ||
| 6 | 0 | 0 | ||
| FAC (>2) | 106 | 69 | 0.013 | 0.172 |
| 0 | 5 | 5 | ||
| 1 | 7 | 7 | ||
| 2 | 3 | 12 | ||
| 3 | 19 | 9 | ||
| 4 | 14 | 18 | ||
| 5 | 73 | 42 |
mRS: modified Rankin Scale, FAC: Functional Ambulation Categories.
| 高頻度群 | 対照群 | P-value | 高頻度群(80歳以上) | 対照群(80歳以上) | P-value | 高頻度群(脳出血) | 対照群(脳出血) | P-value | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 121名 | 93名 | 27名 | 25名 | 22名 | 18名 | ||||
| 不動関連の合併症(名) | 5 | 5 | 0.750 | 3 | 4 | 0.698 | 1 | 1 | 1.000 |
| 肺炎 | 2 | 4 | 1 | 3 | 0 | 1 | |||
| 尿路感染症 | 2 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | |||
| 深部静脈血栓症 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | |||
| 肺塞栓症 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
| 褥瘡 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
| うつ病 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
| 神経学的有害事象(名) | 4 | 2 | 0.699 | 3 | 2 | 0.481 | 0 | 0 | 0.450 |
| 病変拡大ならびに神経学的所見の増悪 | 3 | 2 | 3 | 2 | 0 | 0 | |||
| 新規脳卒中の再発 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
| 死亡 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
今回,急性期脳卒中患者に対して発症後48時間以内に立位を開始し,14日間頻回に実施される高頻度リハビリテーションが,急性期病棟退院時の機能的予後および神経学的有害事象に及ぼす影響について検証した。mRS(<2)は両群間で有意差は認めなかったが,FAC(>2)は対照群と比較して高頻度群で有意に多かった。一方,不動関連の合併症ならびに神経学的有害事象は両群間で有意差を認めなかった。また,80歳以上および脳出血患者においても,不動関連の合併症および神経学的有害事象は両群間でそれぞれ有意差を認めなかった。
早期離床後の集中的リハビリテーションは,歩行自立までの期間を短縮すると報告されている18)。一方,通常の脳卒中ユニットケアを受ける群が発症後24~48時間以内に離床を開始した場合は,集中的リハビリテーションを実施しても発症3か月後の歩行自立度は変わらないが5),13.5分以内の頻回な離床は機能的予後を改善させる可能性があると報告されている8)。また,頻回な歩行練習は脳卒中患者の歩行速度や耐久性を改善するとされ19),システマティックレビューでは15~45分のリハビリテーションを1日に2~3回行うことが機能的予後を改善することが示唆されている20)。このように,リハビリテーションの用量(量・頻度)が機能的予後や歩行自立度に与える影響については未だ明らかにはなっていない。本研究においては,高頻度群は対照群と比較して14日間のリハビリテーション量は多く,1回あたりのリハビリテーション時間は少なく,リハビリテーション頻度は多く,歩行自立度が有意に高かった。頻回な離床の効果を検証した過去の研究5)では,看護師による離床を含んでいるが,本研究では全てのリハビリテーションが理学療法士および作業療法士により提供されており,歩行能力に応じた歩行練習を中心とした合目的的なプログラムを実施している。そのため,高頻度群においては,対照群と比較して短時間かつ頻回なリハビリテーションが歩行自立度の向上に寄与した可能性がある。また,歩行自立度は年齢,糖尿病の有無,脳卒中重症度の影響を受けることが分かっており17),本研究では軽症例が多かった(高頻度群121名のうち軽症は103名)ことも群間差が生じた理由として考えられる。脳卒中後運動麻痺の回復ステージ理論21)において,急性期は残存する皮質脊髄路を刺激し興奮性を高め,回復を促進する時期とされており,軽症例ではこの時期の頻回なリハビリテーションが下肢運動麻痺の回復を促進し,歩行自立度に寄与した可能性がある。
一方,病巣部位では高頻度群が対照群と比較して視床出血が有意に少なかった。視床は種々の感覚伝導路の中継地であり22),脳卒中患者の歩行能力には運動麻痺ならびに感覚障害,バランス機能が影響を及ぼすことが報告されている23)。そのため,感覚障害の有無がFACの改善に影響を及ぼした可能性がある。また,現在我が国では医療保険で疾患別リハビリテーション料は20分を1単位24)と定められているため,過去の研究で示された13.5分以内の頻回なリハビリテーションの効果検証は難しい。しかし,20分間のうち身体活動と認知活動の時間を区別し,それぞれの効果を検証するなど,今後更なる検討が必要である。
不動関連の合併症および神経学的有害事象は両群間で有意差を認めなかった。また,80歳以上および脳出血患者を対象とした統計解析においても,両群間でそれぞれ有意差を認めなかった。脳血流量は脳灌流圧によって制御されており,脳灌流圧は「脳灌流圧≒平均血圧−頭蓋内圧」で表される。脳灌流圧が60~150 mmHgである場合,脳血流量は一定に保たれ,この機能は自動調節能と呼ばれる25)。脳灌流圧が低下すると脳血管が拡張して脳血管抵抗を減らし,逆に脳灌流圧が上昇すると脳血管は収縮し,脳血流量を一定に保つ。急性期脳卒中患者では,この自動調節能が破綻するため,血圧依存性に脳血流量が変動することが知られている26)。近年,早期離床の安全性に関する研究が進められており,急性期患者における発症後早期の立位は動脈狭窄の有無に関わらず中大脳動脈平均血流速度を低下させるが,機能的予後との関連性は認めなかったとされる27)。さらに,健常者と比較して有意差は認めなかったが,サブグループ解析では,前方循環の脳卒中患者で動脈閉塞がある患者については,動脈閉塞がない患者と比較して,発症後早期の立位は中大脳動脈平均血流速度を有意に低下させることが報告されている27)。脳卒中発症後早期は不安定な脳循環動態にあるものの,同様に発症後24時間以内に離床を開始し,集中的なリハビリテーションを実施した大規模な研究において,死亡率,非致死的有害事象に両群間で有意差は認めなかったとされる5)。しかし,追加解析では80歳以上,脳出血患者において,集中的なリハビリテーションにより死亡リスクが有意に上昇したと報告されている6)。本研究では,両群間(80歳以上および脳出血患者を対象とした統計解析を含む)で神経学的有害事象に有意差を認めなかったが,その理由として除外基準および早期離床中止基準を定めたことが,安全に早期離床および高頻度リハビリテーションを実施できた要因の一つとなった可能性がある。
神経学的有害事象である病変拡大ならびに新規脳卒中の再発は,脳血流量の変化により生じ,脳梗塞では虚血が増悪,脳出血では虚血性変化が起こる。そのため,発症後早期の座位や立位による血圧変化が,脳血流量を増加もしくは減少させ,病変拡大ならびに神経学的所見の増悪,新規脳卒中の再発をもたらす可能性が危惧される。本研究は循環調節メカニズムに影響を与えるテント下病変を除外基準に含み,早期離床中止基準においては立位負荷時の循環動態や脳血流量に影響を及ぼす因子である主幹動脈の高度狭窄ならびに閉塞,心内血栓ならびに浮遊性のある頚動脈プラーク,未治療ならびに運動によって増加する不整脈,重度の大動脈弁狭窄症,起立性低血圧を含んでいる。つまり,除外基準および早期離床中止基準で神経学的有害事象を惹起する因子を定め,安定した循環動態ならびに脳血流量を担保したことによりリハビリテーションを頻回に実施し離床頻度を多く提供する高頻度群においても安全な早期離床に繫がった可能性がある。本研究結果から脳卒中発症後早期の高頻度リハビリテーションの安全性が示唆されたが,単一施設での検討であること,除外基準および早期離床中止基準の影響を受けた可能性などを踏まえ,今後更なる研究が必要である。
本研究の限界として,第一に,単一施設での検討であるため,多施設のデータを用いて高頻度リハビリテーションの有用性は明らかにできないことが挙げられる。当院は第2次救急指定病院であり,入院患者の重症度に偏りがある可能性があり,地域特性なども踏まえ多施設での検討が必要である。第二に,非無作為化比較試験であり介入が同一時期ではないため,医学的治療や医学的管理が本研究結果に影響した可能性が否定できないことが挙げられる。第三に,リハビリテーション量が機能予後に与える影響については,練習時間により機能障害,ADLに差はなかったとの報告がある28)が,多くの報告では中等度以上の機能障害を認める患者に対し,早期から一日あたりの練習をより多く行うと機能障害やADLを改善させる29–31)と報告されている。そのため,高頻度群は対照群と比較してリハビリテーション量に有意差を認めたため,リハビリテーション量が機能的予後に寄与した可能性は否定できない。
今回,急性期脳卒中患者に対して発症後48時間以内に立位を開始し,発症後14日間のリハビリテーションを頻回に実施する高頻度リハビリテーションが,急性期病棟退院時の機能的予後および神経学的有害事象に及ぼす影響について検証した。急性期脳卒中患者に対して発症後48時間以内に立位を開始し,リハビリテーション頻度を多く提供する高頻度リハビリテーションは,安全で歩行自立度を良好にする可能性が示唆された。高頻度リハビリテーションの効果を明らかにすることは,本邦における脳卒中急性期リハビリテーションを確立する上で重要な課題であり,高頻度リハビリテーションはテント上病変ならびに保存的治療例で安全かつ有効であることが示された。
本研究に御協力いただいた当院リハビリテーション部の職員に御礼申し上げます。
本研究において開示すべき利益相反はない。