2026 年 53 巻 1 号 p. 44-48
【目的】本研究の目的は体表から測定したQ角の級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下,ICC)および最小可検変化量(95%Minimal Detectable Change:以下,MDC95)を算出し,検者内および検者間再現性や誤差の範囲を明らかにすることとした。【方法】膝疾患のない10名の両膝を対象に,西宮回生病院の理学療法士4名(臨床経験年数1, 5, 10, 13年目)が体表からQ角を3回ずつ測定した。検者内および個々の検者間ICC・MDC95を算出した。【結果】検者内ICCは平均0.94±0.05,検者間ICCは平均0.34±0.02であった。個々の検者間比較では5・13年目のICCのみ0.92±0.02と高かった。MDC95は,ICCの高かった5・13年目は0.90±0.88°であり,その他は3.00±0.46°–7.09±3.59°であった。【結論】本研究では,体表から測定したQ角の再現性を高めるためには1°単位での測定が必要であり,各ランドマークをより正確に捉えるために触診技術の練習が必要である可能性が考えられた。
Objective: This study aimed to evaluate the reproducibility and measurement error of Q-angle assessments performed using surface anatomical landmarks by calculating intra-class correlation coefficients (ICCs) and the minimal detectable change at the 95% confidence level (MDC95).
Methods: Ten healthy individuals without knee pathology were assessed bilaterally. Four physical therapists with 1, 5, 10, and 13 years of clinical experience each measured the Q-angle three times. Intra- and inter-rater ICCs and MDC95 values were calculated.
Results: The mean intra-rater ICC was 0.94±0.05, which indicates high consistency within raters. In contrast, the average inter-rater ICC was 0.34±0.02. Notably, the pair with 5 and 13 years of experience demonstrated a high inter-rater ICC of 0.92±0.02. Their corresponding MDC95 was 0.90±0.88°, while other rater combinations ranged from 3.00±0.46° to 7.09±3.59°.
Conclusion: High reproducibility of Q-angle measurements appears to require a measurement precision of ≤1°, which emphasizes the importance of accurate palpation of anatomical landmarks.
膝関節のアライメント異常は,Takeuchiら1)によると,疼痛・大腿四頭筋の筋力低下・変形性膝関節症(Osteoarthritis:以下,OA)などに影響するとされる。Q角は,上前腸骨棘(Anterior Superior Iliac Spine:以下,ASIS)と膝蓋骨中央を結ぶ線と膝蓋骨中央と脛骨粗面を結ぶ線のなす角度として,1964年にBrattstromによって定義され2),膝蓋骨の外方偏位や亜脱臼リスクを評価する目的で使用される3)。しかし,近年ではQ角が膝関節外旋偏位や4),前十字靭帯再建術(Anterior Cruciate Ligament Reconstruction:ACLR)後の膝前面痛(Anterior Knee Pain:AKP)の危険因子に関連するという報告もある5)。このように,Q角は膝関節疾患に関連する重要な評価指標であることが知られている。
Q角の計測方法については,体表からゴニオメーターを用いて1°単位で計測することが一般的だが,検者の目線や測定肢位・ゴニオメーターの当て方には技術が必要と言われており6),検者間で測定結果にばらつきが生じると考えられている。この要因としては,骨形態特性が報告されている。Wilsonら7)は,109名の健常人と18歳から90歳の膝OA患者81名を対象に膝蓋骨のFacetの形状を評価し,内側Facetの形状において健常な男女間や健常な男性とOAのある女性患者間などで差が存在することを報告している。また,Yooら8)は,163名の172膝を対象に膝蓋骨や膝蓋腱の形状を評価した。その結果,膝蓋骨における厚さが異なり,膝蓋腱の長さや付着部および短軸における厚さに男女差や左右差があると報告している。さらにEdamaら9)は,男女計50体の日本人Cadaver100膝を対象に膝蓋骨尖の形状を評価した結果,膝蓋骨尖の形状にも個人差があることを報告している。こうした背景から,Q角計測には,解剖学的特性を踏まえ高い触診技術の習得が不可欠であることも知られている。
一方で,体表から測定したQ角に関する検者内および検者間の再現性や測定誤差の範囲は明らかにされておらず,西宮回生病院(以下,当院)でも臨床上Q角計測を実施しているが検者間および検者内再現性については未検討であった。
そこで,本研究では,体表からプラスティックゴニオメーターを使用して測定したQ角の級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:以下,ICC)および95%信頼区間である最小可検変化量(95%Minimal Detectable Change:以下,MDC95)を算出し,検者内および検者間再現性や測定誤差の大きさを定量的に明らかにすることを目的とした。
膝疾患のない健常成人10名の両膝の計20膝を対象とした。内訳は男性7名・女性3名,年齢(平均±標準偏差)30.8±9.6歳,身長(平均±標準偏差)169.9±8.7 cm,体重(平均±標準偏差)64.8±8.1 kgであった。
2. 方法検者は当院の理学療法士(Physical Therapist:以下,PT)4名で実務経験1年目(以下,PT1)・5年目(以下,PT5)・10年目(以下,PT10)・13年目(以下,PT13)から1名ずつ抽出した。
背臥位でのQ角測定は立位での測定と比較して,大腿骨の回旋にかかわらず左右の対称性が保たれると報告されている10)。このため,本研究では背臥位での計測を実施した。方法は短尺プラスティックゴニオメーターを用いて体表からQ角をそれぞれ3回ずつ連続で計測した。
計測結果は検者が記録し,被検者の計測順序はランダムで実施した。Q角の測定方法は,被検者を安静背臥位(解剖学的肢位)にて股関節屈曲伸展および内外転・内外旋中間位,膝伸展位とした。検者はASIS・膝蓋骨中央・脛骨粗面の最突起部を触診し,ASISと膝蓋骨中央を結ぶ線と膝蓋骨中央と脛骨粗面を結ぶ線のなす角度を1°単位で計測・記録した11)。
3. 統計学的解析本研究に必要なサンプルサイズは,Walterらの先行研究12)を基に,n=(Z1−α+Z1−β)2·(k−1)·(1−ICC0)2÷k·(ICC1−ICC0)2の式を用いて算出した。本研究では検者数(k)=4名,帰無仮説ICC(ICC0)=0.6,期待ICC(ICC1)=0.8,片側有意水準(α)=0.05,検出力(Power)=0.80と設定した。このとき,Z1−α=1.645・Z1−β=0.8416・ICC1−ICC0=0.16と計算され,必要なサンプルサイズは19膝と算出された。
再現性の統計学的分析はR version4.3.1を用いた。検者内信頼性にはICC(1,1),検者間信頼性はICC(2,1)を用いた。検者内および検者間再現性の判断は,Imaiらの先行研究13)に基づきICC0.8以上を再現性ありとし,ICCの95%信頼区間も算出した。ICCによる再現性計数の評価基準を表1に示す。なお,ICCの値は0から1の範囲をとり,1は完全な一致を示す。また,各検者の結果から,MDC95を算出し検者間で比較した。MDC95の計算式は先行研究14)よりMDC95=SEM×1.96×
で算出した(1.96は95%信頼区間のz値・
は正規化された2つの測定値群の分散の和の標準偏差)。また,SEMについても先行研究15)よりSEM=標準偏差÷
で算出した。
| 0.9: | great | 優秀 |
| 0.8: | good | 良好 |
| 0.7: | ok(fair) | 普通 |
| 0.6: | possible | 可能 |
| <0.6: | re-work | 要再考 |
本研究は西宮回生病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:第83号)。また,参加者にはヘルシンキ宣言に則り十分に説明と同意を得て実施した。
| PT1 | 0.91 |
| PT5 | 0.99 |
| PT10 | 0.88 |
| PT13 | 0.96 |
| 平均 | 0.94 |
| 標準偏差 | 0.05 |
ICC: Intraclass Correlation Coefficient, PT: Physical Therapist.
PT1–13:PT以後の数字は臨床経験年数を表す.
| 1回目 | 0.33 |
| 2回目 | 0.34 |
| 3回目 | 0.36 |
| 平均 | 0.34 |
| 標準偏差 | 0.02 |
ICC: Intraclass Correlation Coefficient.
検者内ICC(表2)は,平均0.94±0.05と高かったが,検者間ICCは,平均0.34±0.02で低かった(表3)。
検者個人別で比較してみると,PT5とPT13の間でのみICCは高かった(表4・5)。
| ICC | PT1/PT5 | PT1/PT10 | PT1/PT13 | PT5/PT10 | PT5/PT13 | PT10/PT13 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 0.39 | 0.24 | 0.35 | 0.18 | 0.93 | 0.35 |
| 2回目 | 0.52 | 0.29 | 0.42 | 0.22 | 0.93 | 0.25 |
| 3回目 | 0.52 | 0.31 | 0.5 | 0.22 | 0.89 | 0.26 |
| 平均 | 0.48 | 0.28 | 0.42 | 0.21 | 0.92 | 0.29 |
| 標準偏差 | 0.08 | 0.04 | 0.08 | 0.02 | 0.02 | 0.06 |
ICC: Intraclass Correlation Coefficient, PT: Physical Therapist.
PT1–13:PT以後の数字は臨床経験年数を表す.
| ICC | PT1/PT5 | PT1/PT10 | PT1/PT13 | PT5/PT10 | PT5/PT13 | PT10/PT13 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1回目 | −0.01~0.70 | −0.10~0.60 | −0.05~0.67 | −0.12~0.53 | 0.69~0.98 | −0.05~0.67 |
| 2回目 | 0.13~0.77 | −0.11~0.65 | 0.02~0.71 | −0.11~0.56 | 0.84~0.97 | −0.11~0.59 |
| 3回目 | 0.13~0.78 | −0.11~0.67 | 0.07~0.77 | −0.11~0.56 | 0.74~0.95 | −0.10~0.60 |
ICC: Intraclass Correlation Coefficient, PT: Physical Therapist.
PT1–13:PT以後の数字は臨床経験年数を表す.
個々の検者間比較ではPT1/PT5でのMDC95は平均3.00±0.46°,PT1/PT10でのMDC95は平均7.09±3.59°,PT1/PT13でのMDC95は平均3.07±0.46°,PT5/PT10でのMDC95は平均6.35±3.14°,ICCの高かったPT5/PT13でのMDC95は平均0.90±0.88°,PT10/PT13でのMDC95は平均5.68±2.93°であった(表6)。
| PT1/PT5 | PT1/PT10 | PT1/PT13 | PT5/PT10 | PT5/PT13 | PT10/PT13 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3.00±0.46 | 7.09±3.59 | 3.07±0.46 | 6.35±3.14 | 0.90±0.88 | 5.68±2.93 |
ICC: Intraclass Correlation Coefficient, MDC95: 95%Minimal Detectable Change, PT: Physical Therapist.
PT1–13:PT以後の数字は臨床経験年数を表す.
本研究では,体表から測定したQ角の検者内・検者間の再現性および測定誤差について検討した。
Q角の信頼性についての報告は散見される。測定方法において,立位での測定と背臥位での測定が報告されており6)16)17),その再現性についても差異が報告されている。
横山ら6)は,ゴニオメーターを用いた立位測定における検者内ICC(1,1)は0.84~0.92,検者間ICC(2,1)で0.46と報告している。また,Caylorら16)も同様の方法で,検者内ICC(1,1)は0.84~0.90,検者間ICC(2,1)で0.83と報告している。
一方,Smithら4)はQ角の再現性におけるシステマティックレビューを報告している。方法はゴニオメーターを使用した背臥位での測定におけるICCを検討し,検者内ICC(1,1)は0.22~0.98,検者間ICC(2,1)で0.2~0.7と報告している。これらの先行研究から,Q角測定の信頼性は測定肢位などによって,ICCにばらつきが生じていると考えられる。
本研究の結果では,検者内ICC(1,1)は平均0.94±0.05であり,全体の検者間ICC(2,1)は平均0.34±0.02でSmithら4)の先行研究と類似したICC結果となった。また,MDC95は再現性が低かった全体および個々の検者間では3.00±0.46°~7.09±5.59°であった。再現性の高かったPT5・PT13におけるMDC95の平均は約1°であった。
Q角測定には触診技術の熟練度や正確なゴニオメーターの当て方および読み方が必要であることが報告されている6)16)。
本研究でも各ランドマークの形状を正確に捉える触診技術における難易度の高さなどが関与した可能性が考えられ,触診に必要な各ランドマークの形状について着目した。
Wilsonら7)は,膝蓋骨のFacetの形状に男女差が存在すると報告し,Yooら8)は,膝蓋骨における厚さが異なり,膝蓋腱の長さや付着部および短軸における厚さに男女差や左右差があると報告している。またEdamaら9)は,膝蓋骨尖の形状にも個体差があることを報告した。
加えて,脛骨粗面の形状において男性は女性と比較してより前方に位置している17)という報告や,Q角測定は膝蓋骨中央および脛骨粗面の触診誤差によって角度が優位に変化する18)という報告もあった。これらのことから,膝蓋骨や脛骨粗面などのランドマークを触診する能力がQ角測定の再現性に影響を与えた可能性が考えられた。
また,短尺ゴニオメーターによる関節可動域測定では,長尺ゴニオメーターと比較して検者内信頼性が低く,測定誤差も大きいことが報告されている19)。本研究では短尺プラスティックゴニオメーターを使用したため,この点がQ角の再現性に影響した可能性も考えられた。
最後に,本研究の課題は2つ挙げられる。1つ目は,足部の肢位が統一できていなかった点である。Olerudら20)は足部回内外の影響によってQ角が変化すると報告している。本研究では安静背臥位としているが,足部の肢位を統一できておらず,被検者のQ角が変化した可能性も考えられた。2つ目はプラスティックゴニオメーターのメーカーが統一できていなかった点である。Konorら21)によるとゴニオメーターの種類は測定誤差に影響しないと報告されている。一方で,ゴニオメーターの種類やデバイスの違いが測定誤差を大きくさせることも報告されており22),ゴニオメーターの種類を統一した検討が必要であった可能性がある。
本研究では,体表からのQ角測定において触診技術が高いほど測定誤差が1°単位で精密に計測できており,再現性も高かった。よってQ角測定の再現性を高めるためには1°単位での測定が必要であり,各ランドマークをより正確に捉える触診技術の練習が必要である可能性が考えられた。
開示すべき利益相反はない。