近年,理学療法領域において,低強度経頭蓋電気刺激(low intensity transcranial electrical stimulation:以下,tES)をはじめとする非侵襲的脳刺激(non-invasive brain stimulation:以下,NIBS)を用いた研究が急増している。tESは神経可塑性を修飾し得る有望な手法であり,簡便かつ低コストで応用可能な点が注目される。一方で,適切な知識・訓練を欠いた使用は安全性や倫理面での問題を伴う。国内では日本臨床神経生理学会がNIBSの安全指針を公表しており,本委員会でもこれを踏まえ,理学療法領域におけるtESの安全で効果的な利用を啓発するために声明を発出した。本声明では,tESの定義や作用機序,刺激条件,リスク管理,倫理的留意点を整理するとともに,教育・トレーニングの体系化の必要性を提言した。今後は,理学療法士が責任ある実施者としてtESを安全に運用できるよう,国内外の学術団体と連携し,標準化された教育体制と実施指針の整備が求められる。
【目的】本研究は,要介護認定高齢者の歩行練習中に振動触覚フィードバックシステムを用いることで,歩行機能に及ぼす効果を検討することを目的とした。【方法】対象は要支援・要介護認定を受けた高齢者10名とし,週2回,4週間の歩行練習を実施した。歩行速度,ケイデンス,ストライド長,日本語版-改定Gait Efficacy Scale,1歩行周期中の障害側の各期の割合を介入前後で評価し解析を実施した。【結果】歩行速度とストライド長が有意に改善し,1歩行周期中の立脚期割合,遊脚期割合,日本語版改定Gait Efficacy Scaleにも有意な変化を認めた。【結論】振動触覚フィードバックシステムを用いた歩行練習は,要介護認定高齢者の歩行機能と歩行に対する自己効力感の改善に有効であることが確認された。しかしながら,対照群との比較は未実施であるため有効性を示すには不十分と考えられる。今後は,無作為化対照試験による検証を実施していきたい。
【目的】本研究の目的は,歩容評価表と在宅脳卒中者の転倒との関連を明らかにすることであった。【方法】回復期病棟を退院した在宅脳卒中者106名を対象とした。退院時に歩容評価表を評価し,6カ月間の転倒の有無との関連をロジスティック回帰分析により検討した。Receiver Operating Characteristic(以下,ROC)解析で転倒予測精度を検討した。【結果】転倒者は36名であった。歩容評価表を説明変数,転倒の有無を目的変数,年齢とBody Mass Index,Functional Independence Measureを交絡因子としたロジスティック回帰分析の結果,歩容評価表が転倒と関連する因子として抽出された。ROC解析では,歩容評価表のArea Under the Curveは0.755,Berg Balance Scale(以下,BBS)は0.771であった。【結論】歩容評価表は,在宅脳卒中者の転倒と関連しており,BBSと同程度の予測精度を示すことが明らかになった。
【目的】高齢外来患者を対象に,30秒椅子立ち上がりテスト(30-second Chair Stand Test:以下,CS-30)の年齢・性別別5段階評価(以下,CS-30グレード)を構築し,基本チェックリスト(Kihon Checklist:以下,KCL)との関連から妥当性を検証する。【方法】みなみ野循環器病院外来を受診した65歳以上の高齢者1753名を対象に,年齢・性別別パーセンタイルに基づいて5段階のCS-30グレードを設定し,KCL分類との関連性をχ2検定およびCochran-Armitage検定で分析した。【結果】構築したCS-30グレードでは,中央値帯(Grade 3)が最も多く,加齢に伴い低グレードの割合が増加した。KCL分類とは有意な関連が認められた。グレード上昇に伴いKCL分類におけるFrailの割合は段階的に減少した。【結論】CS-30グレードは現代高齢者の身体機能水準を反映し,フレイルの層別評価や初期スクリーニングにおける指標として有用である可能性が示唆された。
【目的】脳卒中患者の予後予測は重要なテーマであり,近年は統計学的解析に加え,人工知能(Artificial Intelligence:以下,AI)を用いた予測モデルが注目されつつある。本研究の目的は脳卒中患者の回復期リハビリテーション病棟退院時の機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:以下,FIM)の運動項目合計(以下,運動FIM)を予測するAIモデルと重回帰分析モデルの精度と誤差特性を検証することである。【方法】498名を対象として,退院時運動FIMを目的変数としたAIモデルと重回帰分析モデルを構築し,交差検証による誤差と精度の比較を行った。【結果】中央絶対誤差はAIモデルで有意に低く,特に残差5点以内の的中率はAIモデルにおいて約40%と重回帰分析モデルを約10%上回った。【結論】本研究で精度が良好であったAIモデルの優位性は非線形性の処理能力や多変量間の複雑な交互作用を自動的に学習できる特性にある。一方で,AIモデルの課題である変数の解釈,透明性などの特性を理解した上で,目的に応じてモデルを選択することが重要である。
【目的】地域包括ケア病棟に入院した高齢急性感染症患者のリハビリテーション時間(以下,リハ時間),非リハビリテーション時間(以下,非リハ時間)それぞれの入院初期の身体活動量が日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)改善に及ぼす影響を検討した。【方法】対象は急性期病院から地域包括ケア病棟に転棟した高齢急性感染症患者60名。身体活動量をリハ時間と非リハ時間に分類し,Functional Independence Measure(以下,FIM)利得を従属変数とした重回帰分析を行った。【結果】低強度身体活動はリハ時間(β=0.406, p=0.006),非リハ時間(β=0.331, p=0.031)ともにFIM利得と関連した。【結論】地域包括ケア病棟に入院した高齢急性感染症患者では,リハ時間,非リハ時間ともに入院初期の低強度身体活動が多いほどADL改善が大きいことが示唆された。
【目的】多発性硬化症の急性期治療後に,身体機能や日常生活動作が低下した症例の症状変化に沿った理学療法介入を検討する。【症例紹介】本症例は40歳代女性であった。急性増悪後1カ月で,左下肢運動麻痺や重度感覚鈍麻を有し,杖や装具で短距離歩行が可能も転倒恐怖感が強くみられた。また,疾患への自己管理能力が乏しく易疲労性は日によって異なる変化(日間変化)を呈した。【理学療法介入】症状変化に沿った運動課題の導入時期検討やBorg scaleでの負荷量調整,集学的教育や生活指導を含めた包括的介入を行った。また,歩行練習導入時には歩行補助ロボットでの練習を行った。【結果】増悪後2.5カ月で易疲労性が消失し,4カ月で歩行が再獲得となり,5カ月で復職が可能となった。歩行機能は歩行補助ロボット練習後に改善を認めた。【結論】本症例は増悪期~寛解期の症状変化に沿った,課題導入や負荷量設定が効果的であったと考えられた。加えて,歩行課題では積極的な歩行補助ロボット介入が有用であったと考えられた。
【目的】意思決定の葛藤があった回復期脳卒中片麻痺患者にShared Decision Making(以下,SDM)を実施した経験を通じて,SDMの効果と課題を報告すること。【症例】症例は初発の右視床出血にて片麻痺を呈した60歳代女性で,杖や装具を使用せずに歩行できることを目標に理学療法介入を行った。【経過】入院時から運動麻痺や歩行能力は徐々に改善を認めたが,目標達成のためには足関節背屈筋力の向上と痙縮の抑制が必要だったため,それらの治療方針に関してSDMを実施した。また,症例に合わせて意思決定に必要な情報の提供方法を適宜工夫した。SDM実施後にDecisional Conflict Scaleに改善がみられ,歩行の目標も達成した。【結論】回復期脳卒中片麻痺患者の治療方針の決定にSDMを適切に用いることで,意思決定の葛藤が軽減する可能性が示唆された。SDMのフォーマットの確立が今後の課題である。