2026 Volume 53 Issue 3 Pages 159-167
【目的】本研究の目的は理学療法士が患者の看取り経験から自己成長感を得るまでのプロセスを明らかにすることとした。【方法】対象は,患者の看取り経験から自己成長感を得た理学療法士5名である。方法は,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach)とし,質問紙によるアンケートと2回の半構造化面接を実施した。【結果】自己成長感を得るまでのプロセスは,第1期:看取りにかかわる基本的な理学療法知識や技術を習得するまでの学びのプロセス,第2期:看取り期に適切な理学療法を実践するまでのプロセス,第3期:看取り期に適切な理学療法の実践から成長感を得るまでのプロセスから構成されていた。そのなかで価値観・信念は「緩和ケア的自立支援の視点から理学療法を実践する」を確立させていた。【結論】理学療法士が患者の看取り経験から自己成長感を得るプロセスから提案された支援・教育方法ならびに職場・学習環境整備の提案は実践的指針となると考えられる。
Objective: This study aimed to clarify the process through which physical therapists develop a sense of self-growth based on their end-of-life care experiences.
Methods: This study included five physical therapists who experienced self-growth through end-of-life care. The trajectory equifinality approach was used, comprising a questionnaire and two semi-structured interviews.
Results: Self-growth development consisted of three stages: (1) acquiring fundamental knowledge and skills related to end-of-life physical therapy, (2) practicing appropriate physical therapy for patients at the end of life, and (3) recognizing personal growth through such practice. During these stages, participants developed core values characterized by “providing physical therapy from a palliative care-based independent living support perspective.”
Conclusion: Support and educational methods, along with suggestions for improving workplace and learning environments derived from this process, may serve as practical guidelines for promoting self-growth of physical therapists involved in end-of-life care.
医療専門職はキャリアの各段階で知識・教訓・技術・能力を獲得し続ける生涯的学習者である1)。経験から熟達に至る理論枠組みには,Kolbの経験学習理論2),Dreyfusらの技能熟達モデル3),Bennerの「初心者から達人へ」4),臨床現場での暗黙知と非形式学習を強調したErautらの議論5)などが国際的に蓄積している。国内では松尾の経験学習プロセスの枠組みが広く用いられ,看護師6),保健師7),診療放射線技師8),救急救命士9),救急医10),公衆衛生医師11)などで明らかにされてきた。加えて,近年は理学療法領域でも,池田らが理学療法士(Physical Therapist:以下,PT)のキャリアと経験学習プロセスの解明を進め,キャリア段階ごとの成長を促す経験と学習内容を報告している12)13)。その成長を促す経験のひとつに『患者の死を見守った経験』,つまり「看取り経験」がある12)。看取り経験による成長は,国内の看護師6),保健師7),救急医10)でも報告されており,海外でも医師・看護師・ソーシャルワーカー14–16)で報告されている。ただし,これらの研究において看取り経験の解釈や射程は必ずしも一致していない。そこで本研究では,看取り経験を「緩和ケア的なかかわりを通して,死に至るまで対象者のその人らしさを支える経験」と定義することとした。一方,看取り経験は成長を停滞させる側面もある。例えば,PTでは心理的ストレス17)や意欲低下・無力感18)につながること,看護師では二次的外傷性ストレス19)や苦悩・葛藤20)につながることが報告されている。海外でも,医師・看護師の怒り・無力感・負担感21),救急看護師の二次的外傷性ストレス症状22),緩和ケア・腫瘍ケアに従事する医療従事者の心理的苦痛やバーンアウト23)が報告されている。すなわち,看取り経験は,成長と停滞(負荷)の相反する効用を併せ持つと考えることができる。しかし,これら2つの効用がどのように生起し,いかなる条件,分岐を経て異なる帰結(成長・停滞)に至るかのプロセスは不明である。身体,生活機能の改善を主領域として発展してきた理学療法は,看取り経験と一定の距離をおいてきた歴史があるため,特に不明と考えられる。また,近年の悲嘆24)やバーンアウト25)に関するスコーピングレビューでは,看取り経験後の適切な支援や環境整備の必要性を示している。これらより,看取り経験を自己成長へと接続する方策を提示するためには,単に出来事を列挙するのではなく,「どのような経路で」「何が分岐点となり」「どの条件下で」「どのような相互作用を経て」成長・停滞に至るのかというプロセスの可視化が不可欠である。
複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:以下,TEA)は,個人が多様な分岐を経ながら複数の等至点(Equifinality Point:以下,EFP)に至りうることを前提に,ライフイベントの時間的展開を図示・記述する分析手法であり,プロセスを可視化できる。理学療法分野でのTEA適用報告は乏しいが,作業療法分野では複数の報告がなされており26–28),臨床実践に根ざしたプロセス研究として一定の妥当性を有するアプローチと考えられる。したがって,看取り経験から自己成長感に至る過程の多様性と分岐・転回点を理論的に捉えるには,TEAが最も適した方法と考える。TEAにより,看取り経験から自己成長感を得るプロセスを明らかにできれば,適切な支援方法の開発が期待できる。
本研究では,PTが看取り経験から自己成長感を得るまでのプロセスをTEAにより明らかにし,支援・教育方法および職場環境整備の具体的示唆を導出することを目的とする。
本研究デザインは質的研究法である。分析手法はTEAを採用する29)。これは,時間を捨象せずに人生の理解を可能にしようとする文化心理学のアプローチであり,1)複線経路等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:以下,TEM),2)歴史的構造化ご招待(Historically Structured Inviting:以下,HSI),3)発生の三層モデル(Three Layers of Genesis:以下,TLMG)の3つの理論的構成からなる。
1)TEMは,研究協力者らが等しく至ると考えられる経験や地点のことを示すEFPに至る複数の経時的な径路をモデルとして描く方法である。EFPに到達するための必須の経験である必須通過点(Obligatory Passage Point:以下,OPP),経路が複線化する分岐点(Bifurcation Point:以下,BFP),EFPに向かう促進的な力である社会的助勢(Social Guidance:以下,SG),抑制的な力である社会的方向付け(Social Direction:以下,SD)といった特有の概念ツールを用いて記述する。これにより,どの時期にいかなる支援が求められるかを把握できる。2)HSIは,研究協力者選定のための枠組みであり,EFPを経験した人を調査にお招きすることで構成される。これは質的研究にある理論的サンプリングに相当する。本研究では「看取り経験から自己成長感を得たPT」を対象とする。3)TLMGは,人間の内的変容過程を個人活動レベル(第1層),記号レベル(第2層),価値観・信念レベル(第3層)という3層構造として理解する理論である。これにより,臨床経験によって仕事観がどのように変容し,深層的な価値・信念へどのように影響を及ぼすのかを捉えることが可能となる。
2. 研究協力者2025年2~9月の期間に,HSIに基づき5名のPTを研究協力者ABCDEとして選定した。この際,PTとしての経験を振り返る必要があることから,医療職としてのキャリアが熟達し,回顧が可能になるとされる臨床経験10年以上を追加条件とした30)。サンプリング方法には,身近なものから紹介を続けるスノーボールサンプリングを用いた。なお,TEMには,サンプリングにおける特有の理論として,1名では個人の径路を深く探ることができ,4±1名では経験の多様性を把握でき,9±2名では径路の類型を抽出できるという「1・4・9の法則」がある31)32)。本研究では看取り経験における個々の多様性を把握することを目的としたため,対象者数を5名と設定した。5名の研究協力者ABCDEの内訳は,男性5名,平均年齢37.8±1.5歳,平均臨床経験年数16.2±1.3年であり,各研究協力者の詳細情報は表1に記した。
| 研究協力者 | 主な臨床経歴の概要 | 現在の勤務先 |
|---|---|---|
| A | 急性期・回復期・生活期リハビリテーションを経験後,訪問看護ステーションに転職 | 訪問看護ステーション |
| B | 博士前期課程修了後,現職にて小児医療に従事 | 一般病院 |
| C | 超急性期・回復期・スポーツリハビリテーションを経験後,訪問看護ステーションへ転職 | 訪問看護ステーション |
| D | 通所・訪問リハビリテーションを経験後,複数の訪問看護ステーションを経て現職 | 訪問看護ステーション |
| E | 現職にて回復期を経て,がんリハビリテーションを担う急性期病棟に異動 | 一般病院 |
各研究協力者に対して,アンケート調査ならびにオンライン会議システムGoogle Meetを用いた2回の半構造化面接によるインタビュー調査を実施した。アンケート調査では,本研究の目的に合わせて独自に作成したアンケートを配布し,回答を依頼した。アンケートは次の6項目で構成した。1)PTとして看取りを経験するまでの過程,2)看取りを経験するまでの看取りに対する印象や考え方,3)はじめて看取りを経験したときの苦労した点やその対処方法,4)看取り経験のなかで自己成長感につながった事例とそのときの職場や関連職種等からの支援,5)看取り経験を自己成長感につなげるために必要であった自己学習や学会参加等の自己研鑽,6)看取り経験から自己成長感を得たことで生じた看取りを行ううえでの変化であった。加えて,PTとしての経歴,経験,年数,性別といった基本情報も聴取した。
第1回インタビュー調査は,アンケート項目をインタビューガイドとし,必要に応じて看取り経験に関連する状況や条件についての質問を追加した半構造化面接とした。追加した項目は,「看取りに関する職場の方針はどのようなものでしたか」や「看取りの経験が豊富なPTや他職種とは一緒に働いていましたか」などである。インタビュー内容はICレコーダーに録音し,録音データは逐語録としてテキスト化し,精読した。なお,研究協力者の負担を考慮し,所要時間は約60分とした。その後,本研究代表者と研究分担者らが協議し,逐語録の内容を概念ツールに照合しながら,PTとして働きはじめた時点から看取り経験を通じて自己成長感を得るまでの過程を解釈・ラベリングした。これらを非可逆的時間に沿って整理し,研究協力者ごとにTEM図を作成した。
第2回のインタビュー調査では,作成したTEM図を研究協力者に提示し,TEM図の修正・補足・追加を共同で行った。この過程において各TEM図に対する研究協力者との合意形成が得られたため,TEAにおけるトランスビュー的飽和が達成されたと判断した29)。最終的に,すべての研究協力者のTEM図を統合し,統合図においても研究協力者に依頼して確認する機会を設けることで,妥当性の向上に努めた。
4. 倫理的配慮本研究は,医療法人春秋会城山病院倫理委員会の承認(承認番号:2024-023)を得た。研究協力者らには研究の目的・方法・撤回等について書面ならびに口頭にて説明を行い,同意を得たうえで実施した。
TEAを用いて分析した結果を図1に示す。第1層の活動レベル(個人の出来事・経験)では,経験した出来事や行動・感情・思考等を記載した。研究協力者らが実際に経験した経路は実線で示し,選択しなかったがあり得た仮想経路は点線で示した。第2層の記号レベル(意味づけの形成)では,研究協力者らの行動変容に影響を与えた思考を示した。第3層の価値観・信念レベル(仕事観や信念,価値観の形成)では,思考の基盤となるものを示した。図における概念ツールの用語と定義,それぞれに対する本研究における意味づけを表2に示す。なお,本研究における概念ツールの意味づけは,その定義に合致するものを研究代表者と分担者が協議したうえで決定した。

| 用語 | 定義 | 本研究における意味づけ |
|---|---|---|
| Equifinality Point(EFP) 等至点 | 研究協力者らが等しく至ると考えられる経験や地点 | 患者の看取りの経験から成長感を得る |
| Polaryzed Equifinality Point(P-EFP) 両極化した等至点 | 研究協力者らが等しく至ると考えられる経験や地点の対極に位置づけられる経験や地点 | 患者の看取りの経験から成長感を得ない |
| Obligatory Passage Point(OPP) 必須通過点 | EFPに到達するための必須の経験 | OPP-1:担当患者の死を初めて経験する OPP-2:担当患者の死を繰り返し経験する OPP-3:看取り期に適切な理学療法を実践するための知識・技術・考え方を現場・書籍・研修からを習得する OPP-4:看取り期における適切な理学療法を実践しはじめる |
| Bifurcation Point(BFP) 分岐点 | 経路が複線化する分岐点 | BFP-1:看取りに関する基本的な理学療法知識・技術を習得する BFP-2:看取り期まで理学療法を提供できるような職場へ転職,配置転換する |
| Social Guidance(SG) 社会的助勢 | EFPに向かう促進的な力 | 看取りの経験から成長感を得ることに促進的に作用する環境からの影響 |
| Social Direction(SD) 社会的方向づけ | EFPに向かう抑制的な力 | 看取りの経験から成長感を得ることに抑制的に作用する環境からの影響 |
以下では,各研究協力者がEFPに至るまでのプロセスをその特徴から,第2層の記号レベルと照らし合わせ,第1期:看取りにかかわる基本的な理学療法知識や技術を習得するまでのプロセス,第2期:看取り期に適切な理学療法を実践するまでの学びのプロセス,第3期:看取り期に適切な理学療法の実践から成長感を得るまでのプロセスの3期に分け,各期の結果を説明する。なお,TEM図における活動レベルを〈 〉,記号レベルを《 》,価値観・信念レベルを『 』で示した。図1と結果の本文中にあるアルファベットABCDEは研究協力者を意味する。
1. 第1期:看取りにかかわる基本的な理学療法知識や技術を習得するまでのプロセス研究協力者らは〈PTとして働きはじめ(ABCDE)〉,〈OPP-1:担当患者の死を初めて経験する〉を経験していた。そこで〈SG-1:看護師における患者の死の受け止め方(A)〉を受け〈患者の死の受け止め方を知る(A)〉や〈看取り期に提供した理学療法に疑問を抱く(B)〉を経て,〈OPP-2:担当患者の死を繰り返し経験する〉に至っていた。その後,〈SG-2:周囲のPTとのかかわり(BCD),看取り経験ある他職種とのかかわり(BCDE),理学療法介入が中止とならない(B),多様な疾患・病態像の患者の経験(AC),職場内の研修体制,研修支援体制(DE),自己研鑽ができる時間的余裕(D)〉の後押しを得て,〈BFP-1:看取りに関する基本的な理学療法知識・技術を習得する〉に至っていた。一方,〈SD-1:理学療法中止指示(ACD),終末期理学療法の教育の乏しさ(CD)〉が抑制的に働いていた。
このプロセスでは,第2層の記号レベルとして《看取りにかかわる基本的な理学療法技術の習得(ABCDE)》と《担当患者の死の経験(ABCDE)》という意味づけが形成されていた。また,この時期の基本的な理学療法技術は,疾病の予防,治療,心身・生活機能の維持・改善といった自立支援と位置付けられる内容であり,第3層の価値観・信念レベルとしては,『自立支援の視点から理学療法を実践する』という仕事観や信念が形成されていた。
2. 第2期:看取り期に適切な理学療法を実践するまでの学びのプロセスA・C・D・E氏は〈BFP-1〉を経験したものの,〈患者の看取り期までかかわらない(ACDE)〉状態であった。A氏は〈看取り期まで患者にかかわれない疎外感や悔しさを抱く(A)〉が,〈SG -5:ライフイベント(A)〉の影響を受け,〈BFP-2:看取り期まで理学療法を提供できるような職場へ転職,配置転換する(ACDE)〉に至る。D氏においても同じく〈BFP-2〉に至るが,〈在宅医との協働体制のある職場への転職を検討する(D)〉なかで〈SG-6:偶発的な出会い(D)〉から影響を受けるという経路であった。C・E氏においても同様に,〈SG-4:ライフイベント(C),体制上の配置要請(E)〉の影響を受け〈BFP-2〉に至っていた。
その後,A氏は〈SG-8:職場の方針や風土,看取り経験あるPTや他職種の実践(A)〉から後押しを得て,〈OPP-3:看取り期に適切な理学療法を実践するための知識・技術・考え方を現場・書籍・研修からを習得する〉に至った。C・D氏は〈SG-7:看護師の考え方と実践(CD)〉の影響から〈看取り期の患者に理学療法が通用しない実感(CD)〉を抱き,〈看取り期の理学療法に新たな学びの必要性を感じる(CD)〉。そして,〈SG-9:組織体制(D),他職種とのかかわり(CD),職場の方針や風土(C)〉という後押しを得て,〈OPP-3〉に至る。E氏は,〈看取り期の患者とのかかわりに心理的抵抗感を抱く(E)〉が,〈看取り期の理学療法の意義を模索しはじめる(E)〉なかで〈SG-10:情報共有が円滑な緩和チーム(E)〉からの後押しを得て,〈OPP-3〉に至っていた。
他方,B氏は,〈SD-2:看取り期の理学療法に対する上司の考え方〉と〈SG-3:周囲のPTの実践〉の影響を受け〈看取り期に提供した理学療法に疑問を抱き続ける(B)〉状態であったが,〈OPP-3〉に至っていた。
そして,すべての研究協力者らは〈OPP-4:看取り期における適切な理学療法を実践しはじめる〉が,このとき〈SG-11:患者家族からの肯定的な反応(A),現場での他職種の支援(D)〉といった影響を受けた者もいた。
このプロセスでは,第2層の記号レベルとして《看取り期の理学療法を実践するためのキャリアチェンジ(ACDE)》と《看取り期の理学療法を実践するための学び(ABCDE)》という意味づけが形成されていた。看取り期の理学療法を実践する学びとは,自立支援の理学療法に緩和ケアとしての理学療法を加えた,緩和ケア的自立支援の理学療法であった。ここでは第3層の価値観・信念レベルとして『緩和ケア的自立支援の視点から理学療法を実践する』という仕事観や信念が形成され,変容していくことが示唆された。
3. 第3期:看取り期に適切な理学療法の実践から成長感を得るまでのプロセス研究協力者らは〈OPP-4〉の後,それぞれに〈EFP:患者の看取り経験から成長感を得る〉に至っていた。A・B氏は〈経験の継承と発信への意欲が湧く(AB)〉ことで〈学術活動を通して経験を言語化して知識・技術・経験の継承と発信を図る(ABC)〉ようになり,〈EFP〉へと到達する。このとき,B氏は〈看取り期の患者に提供した理学療法への疑問が解消しはじめる(B)〉ことを経由し,A氏は〈SG-13:指導者との出会い(A)〉が後押しとなっていた。C氏も学術活動を通した発信を経由するが,〈SG-12:職場外のPTとの出会い(C)〉が後押しとなっていた。その後,〈看取り期の理学療法への考え方がまとまりはじめる(C)〉ようになり,〈看取り期における適切な理学療法の実践を繰り返し経験する(CDE)〉ことで〈EFP〉へと到達していた。D氏においても同様に実践を繰り返すことで〈EFP〉へと到達していた。他方,E氏は〈OPP-4〉の後,〈看取り期の理学療法の意義が明確になりはじめる(E)〉ようになり〈SG-14:責任が明確で信頼できる緩和チーム〉から後押しを得て,〈看取り期の患者とのかかわりに対する心理的抵抗の軽減〉に至っていた。そして,実践を繰り返すことで〈EFP〉へと到達していた。
このプロセスでは,第2層の記号レベルとして《看取り期に適切な理学療法の実践と深化(ABCDE)》と《看取り期の理学療法の継承に向けた発信(ABC)》という意味づけが形成され,第3層の価値観・信念レベルとして『緩和ケア的自立支援の視点から理学療法を実践する』という仕事観・信念を確立していく段階であることが示唆された。
本研究の目的は,PTが患者の看取り経験から自己成長感を得るプロセスを解明することであった。以下では,本研究で明らかとなったプロセスの特徴を踏まえ,その核心となるポイントを考察し,そこからPTの看取り経験を支える支援・教育ならびに職場環境や学習環境の整備に向けた示唆を提示することに焦点を置く。
1. PTが看取り経験から自己成長感を得るまでのプロセス第1期では,すべてのPTは担当患者の死の経験(OPP-1, 2)から看取りにかかわる基本的な理学療法技術を習得しており(BFP-1),それは自立支援としての理学療法といえるものであった。このような知識や技術を有し,その実践を図ることは,看取り期のPTの固有の役割とされている33)。そのため,この経路を通過しなければ,看取り期に適切な理学療法を実践すること(OPP-4)にもつながらず,看取り経験から自己成長感を得ないこと(P-EFP)へと到達するものと考えられる。
しかし,この時期には,理学療法中止指示や終末期理学療法の教育の乏しさがSDとして認められた(SD-1)。2008年の国内における報告では,多くの医療機関でがん末期に至る前にリハビリが終了するため,治療的なアプローチが多く,患者とかかわるためのトレーニングや教育が不足していると指摘されている34)。また,近年でも緩和ケアにPTが介入できないことやその必要性を認識されていないことが指摘されている35)。したがって,研究協力者らが患者の看取りを経験できず,体系的な教育を受けられていなかったことには一定の妥当性が認められる。このような背景から,研究協力者らが看取りにかかわる自立支援の知識や技術を習得するために,SGとして多くの要因を必要としていたものと考えられる。
第2期では,研究協力者らは患者の看取りにかかわる職場への転職や配置転換に至っていた(BFP-2)。看取り経験から自己成長感を得る(EFP)には,実際に患者の看取りにかかわる必要があるため,この経路を通過しなければ,看取り経験から自己成長感を得ない(P-EFP)へと到達してしまうものと考えられる。しかし,転職や配置転換に至るまでの経路はそれぞれに意図しない環境からの影響を受けたものであった(SG-5, 6, 7)。職業人の非自発的なキャリアチェンジは多様かつさまざまな関係性の影響により深く形作られていることがあるが36),そのような機会によりキャリアは開かれるとされている37)。すなわち,研究協力者らはそのような機会を活用できたものと考えられる。ただし,B氏のみは患者の看取りを経験できる環境があり,転職や配置転換(BFP-2)を経由しなかった。このような経路も理解しておく必要があるだろう。
その後,研究協力者らは看取り期に適切な理学療法を実践するための知識・技術・考え方を習得する(OPP-3)。それは,自立支援としての理学療法に,緩和ケアとしての理学療法を取り入れた,緩和ケア的自立支援としての理学療法であった。緩和ケアとしての理学療法とは,ナラティブ(物語り)による受容,身体活動・睡眠・食事・排泄・コミュニケーション・感情表出の視点に基づく評価,新たな生活スタイルの提案,人生の振り返り支援,家族・介護者へのケアを柱とする実践と提唱されている38)。そして,緩和ケア的自立支援とは,自立支援と緩和ケアが相互に補完し合う理学療法として提唱された実践的枠組みである39)。研究協力者らは理学療法が通用しない実感や理学療法の意義を模索するといった一見すると否定的な経路を経由しながら内省を繰り返し,一方で緩和ケアにかかわりの深い職場や組織の環境,専門職種たちからの後押しを得ることで(SG-8, 9, 10),自らによって実践的枠組みを構築していったものと考えられる。
第3期では,研究協力者らは看取りの経験から成長感を得るに至り(EFP),緩和ケア的自立支援の視点から理学療法を実践するという価値観・信念を確立させていた。医療専門職はキャリア後期において難易度の高い経験から学習を深化させており40),PTでは多職種連携による介入経験や担当患者の死を見守った経験が該当する経験であると報告されている12)。すなわち,本研究結果で示したような経験が学習を深化させることは,新たな視点と考えられる。他方,第3期には学術活動を経由した者もいた。PTの省察的実践に関するスコーピングレビューでは,省察的実践としてブログ,日記,フィールドノートなどの書面が最も一般的と報告している41)。同論文のレビューがキャリア初期のPTに焦点を当てていたことを踏まえると,キャリアの後半では学術活動を活用していた点には一定の妥当性があるものと考えられる。
2. PTの看取り経験への適切な支援・教育方法,職場・学習環境整備に向けた提案PTが看取り経験から成長感を得るための支援には,現場で働く個々のPTを直接的に支援する提案と組織やシステムの改善を介して間接的に支援する提案が必要となる。
まず,現場で働く個々のPTの支援には,自立支援としての理学療法と緩和ケアとしての理学療法の両者に関する知識・技術・考え方等を習得できる支援・教育が必要である。しかし,緩和ケアとしての理学療法は近年にようやく提唱されたものであり38),理学療法分野の緩和ケアに対する研究が十分でないこと42),介入の不明瞭さがあること43)も報告されている。したがって,すでに看取り経験のあるPT,看護師や医師といった他職種の知識・技術・考え方等を取り入れていくことが必要である。具体的には,PTや他職種の看取り期の実践に同行すること,共に看取り期のかかわりを検討すること,研修や学術書などから学習することである。これらは本研究のSG-2, 3, 7, 8, 9に該当する支援である。また,PTの学術活動を支援することも重要であり,この点においても理学療法分野に加え,他職種が参加する緩和ケアや各疾患に関する学会参加や発表,論文投稿を促すことが必要と考えられる。これはSG-12, 13に該当する支援である。
つぎに,PTが所属する組織や取り巻くシステムの改善を介した間接的な支援には,看取り期における理学療法の実践的枠組みを確立することが必要と考えられる。それは,近年に提唱された緩和ケア的自立支援の知見を積み重ねていくことであり,SD-1の解消に該当する支援である。そして,組織体制の整備には,PTが緩和ケア的自立支援の実践を図れるような体制づくりを進めることが必要であり,それはPTが患者の看取り期まで理学療法中止とならずにかかわれるようにすること,医師や看護師などとの良好な多職種連携を推進することである。これらはSD-1, 2の解消ならびにSG-2, 9, 10, 11, 14に該当する支援である。
以上が,本研究結果から得られた支援・教育方法ならびに職場・学習環境整備に向けた示唆である。これらは実際に病院や訪問看護ステーションにて働くPTらから得られたものであるため,現場等への転用も可能であると考えられる。しかし,その検証はこれからの課題である。
3. 本研究の限界と課題本研究にはいくつかの限界がある。第一に,研究協力者が5名であり,看取り経験に至る個々の径路を深く検討することや径路の類型化には適していない。今後は,より多様な背景をもつPTを対象とし,複線的径路の比較や類型の抽出を行い,看取り経験から成長に至るプロセスをより包括的に明らかにする必要がある。第二に,本研究協力者は全員男性であったため,性別による違いを検討することはできなかった。今後は,性別・経験年数・専門分野などの属性差を踏まえた比較分析も必要である。第三に,本研究は過去の経験を想起して語ってもらう調査デザインであり,リコールバイアスの影響を受ける可能性がある。とくに看取り期の経験は感情的負荷が大きく,時間経過により記憶が再構成されやすい側面がある。今後は,縦断的データの収集や,観察・記録を併用する方法などを組み合わせ,より精度の高いプロセスの把握が期待される。
他方で,本研究で得られたPTが患者の看取り経験から自己成長感を得るまでのプロセスと考察から導かれた支援・教育の提案は,今後多くのPTが看取り経験に直面する際の一助となりうる。緩和ケア的自立支援という実践的枠組みの形成プロセスとの重なりを明らかにした点は,国内における緩和ケア領域の理学療法研究がまだ十分に蓄積されていない現状において,理論的・実践的意義を有すると考えられる。今後も本研究のような質的プロセス研究を重ねることで,看取り期における理学療法の学術的基盤がより強固になっていくことが期待される。
本研究では,PTが患者の看取り経験から自己成長感を得るまでのプロセスは,第1期:看取りにかかわる基本的な理学療法知識や技術を習得するまでのプロセス,第2期:看取り期に適切な理学療法を実践するまでの学びのプロセス,第3期:看取り期に適切な理学療法の実践から成長感を得るまでのプロセスから構成されていた。そして,価値観・信念は「自立支援の視点から理学療法を実践する」から「緩和ケア的自立支援の視点から理学療法を実践する」へと変化していた。これらから提案された支援・教育方法ならびに職場・学習環境整備の提案は実践的指針となると考えられ,今後はその検証が求められる。
本研究において,快く協力していただいた研究協力者の皆様に感謝を申し上げる。
本研究は自己資金にて行われており,活用した助成等はない。
本研究に開示すべき利益相反はない。