2026 年 53 巻 5 号 p. 358-366
【目的】人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:以下,THA)前後の運動機能に関する報告は散見されるが,退院時期と術後早期の自己効力感との関連は明確でない.本研究ではTHA後の退院時期と運動機能,自己効力感との関連を検討することを目的とした.【方法】THA後84関節を退院日数により18日以内/19日以上群に分け群間比較を行い,独立して関連する因子を抽出するためロジスティック回帰分析を実施した.【結果】術前モデルでは年齢・2ステップ値・Timed Up and Go Test(以下,TUG),術後1週モデルでは年齢・Modified Falls Efficacy Scale(以下,MFES)・TUGを独立変数とした.有意な関連は術後1週モデルのMFESのみで認めた.【結論】術前指標による退院時期予測は限定的であり,術後早期の自己効力感評価の有用性が示された.自己効力感は退院調整や心理的介入の検討に有用な指標となりうる.
Objective: While numerous studies have examined physical function before and after total hip arthroplasty (THA), the relationship between discharge timing and early postoperative self-efficacy remains poorly understood. This study aimed to investigate the associations among discharge timing after THA, perioperative physical function, and self-efficacy.
Methods: A total of 84 joints undergoing THA were divided into two groups based on length of hospital stay: a short-stay group (≤18 days) and a long-stay group (≥19 days). Intergroup comparisons were performed. Logistic regression analyses were then conducted to identify independent factors associated with discharge timing.
Results: The preoperative model included age, the 2-step test score, and the Timed Up & Go (TUG) test score as independent variables, whereas the 1-week postoperative model included age, the Modified Falls Efficacy Scale (MFES) score, and the TUG test score. No significant factors were identified in the preoperative model. However, in the 1-week postoperative model, the MFES score was significantly associated with discharge timing.
Conclusion: Predicting discharge timing based solely on preoperative indicators is limited, suggesting that assessment of early postoperative self-efficacy may be valuable for predicting discharge timing. The association between self-efficacy and discharge timing may serve as an important indicator for optimizing discharge planning and informing interventions to enhance postoperative self-efficacy.
人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:以下,THA)は,インプラントの改良,手術手技の進歩によって,術後早期の機能回復が可能となり1),除痛と生活の質(Quality of Life:以下,QOL)の向上に著しい成果が得られる手術となってきた2).一方,近年,社会保障費の増加に伴う医療財政の枯渇が問題視されており,全国的に入院期間を短縮することが喫緊の課題となっている2).急性期一般入院基本料1では平均退院日数16日以内などの要件が改訂され基準が見直された3).入院期間の短縮は,限られた医療資源の適正活用を促すとともに,患者の生活機能回復や社会復帰を早期に支援する観点からも重要と考えられる.
愛媛県立新居浜病院(以下,当院)では,THA後の平均入院期間が以前は約4週と比較的長期であったため,機能回復が得られた時点での早期退院を目指す取り組みを進めてきた.しかし,日常生活動作(activities of daily living:以下,ADL)が自立し歩行能力も回復しているにもかかわらず,退院に際して不安を訴え入院が長期化する症例も少なくなかった.このことから,退院時期の決定には身体機能のみならず自信や不安感といった心理的要因も関与している可能性が考えられた.
先行研究では,THA後の退院時期や転帰に影響する因子として,身体機能や個人因子の重要性が報告されている.室伏ら4)は術前患側股関節外転筋力が自宅退院に影響を及ぼす因子と述べている.一方で,退院時期の決定には身体的要因に加えて心理的側面の関与も考慮すべきとの報告もある5).また,手術後の回復過程に疑問や不安を感じる心理状態が歩行や身体活動などの自己効力感の低下につながることも報告されているが6),術後早期の自己効力感評価が退院日数の予測に独立して寄与するかを検討した研究は見当たらない.
Bandura7)の自己効力感理論によれば,行動の達成,代理体験,言葉による説得,生理的フィードバックの4つの要因が行動への自信を高め,行動継続を促進するとされる.THA後の患者においても,疼痛軽減や歩行能力の向上といった成功体験が自己効力感を高め,退院準備を促進する要因となる可能性がある.しかし,術後早期の自己効力感や運動機能が実際の退院時期とどのように関連するかを明らかにした報告は限られている.
そこで本研究では,THA後患者を対象とし,術前後の運動機能指標,自己効力感,および退院時期との関連を明らかにし,退院時期を予測する臨床的指標を検討することを目的とした.
2022年4月から2025年5月の間にTHAを施行した99関節のうち,1)認知症および発達障害が既往にある者,2)術後荷重制限を設けた者,3)術後運動麻痺を認めた者,4)術前より頻脈所見を認めた者,5)創部感染により一定期間安静度制限を設けた者,6)術後脱臼を認めた者を除外基準とした.THA適応疾患の内訳として,形成不全性変形性股関節症(65関節),大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(6関節),一次性変形性股関節症(6関節),大腿骨頭壊死症(4関節),外傷後変形性股関節症(1関節),関節リウマチに伴う一側性続発性変形性股関節症(2関節)であった.進入法について,前側方進入法はAnterolateral Supine Approach(62関節)とOsteo-capsular Minimally invasive approach(18関節),側方進入法はDirect Lateral Approach(4関節)であった.
2. 倫理的配慮本研究は,愛媛県立新居浜病院倫理委員会に承認(承認番号:07010)され実施した.対象者には紙面および口頭にて研究内容を説明し,同意を得た.さらに,情報公開文書を当院ホームページにて公開し,拒否権についても明記した.個人情報は匿名化し,情報の取扱いには十分な配慮を行った.
3. 研究デザイン本研究は後ろ向きコホート研究である.THA後患者を対象とし,術前と術後1週での運動機能,および疼痛,自己効力感について評価し,退院時期との関連性を調査した.
4. 測定項目調査項目は,診療録より後方視的にデータ抽出を行った.対象者の基本属性として,性別,術側の左右比,年齢,Body Mass Index(BMI)の項目を入院時の診療録情報より抽出した.機能評価に関し,検者は3人で行い,事前に評価手順の標準化トレーニングを実施した.さらに各検者間で測定方法,判定基準,および評価に用いる物品は同一の物を使用し,評価方法を統一した.その上で,術前と術後1週時点の握力と2ステップテスト,Timed Up and Go Test(以下,TUG),立ち上がりテスト,片脚立位時間,歩行速度を計測した.患者立脚型評価として,Visual Analog Scale(以下,VAS),転倒自己効力感を測定する尺度にはModified Falls Efficacy Scale(以下,MFES)日本語版を使用した.
退院日数は術当日を0日目とし,術翌日から自宅退院となった日数で計算した.また,形成不全性変形性股関節症における診断群分類包括評価の特定入院期間II(2024–2025年度)を基準に退院日数を18日以内群と19日以上群の2群に分類して解析を行った.18日以内での退院可否は,急性期病院における退院調整や地域医療連携を検討する上で重要であるため,本研究の従属変数として設定した.
1)握力デジタル握力計(竹井機器工業株式会社,グリップ-Dスメドレー式)を用い,上方ハンドルから女性は1.5メモリ,男性は2メモリの位置に設定した.測定肢位は,厚生労働省の体力測定マニュアル8)に準じ,両足を開いて安定した基本的立位姿勢9)をとり,表示画面を外側にして,体に触れないように肩を軽く外転位とした.最大握力で測定し,握力計にデジタル表示された数値を記録した.立位姿勢で身体に握力計が触れない状態で,両側で計測した.
2)2ステップテスト日本整形外科学会のロコモ度テストの方法10)に従い,開始地点のつま先から着地点のつま先まで最大2歩幅間の距離をメジャーで計測した.2歩幅を身長で除し,2ステップ値を算出した.歩行補助具,および装具を使用している場合は,装具のみ装着は許可し実施した11).2回測定し,最大値を測定値として採用した12).
3)TUGTUGは転倒リスクの高い者を抽出するために有用な評価法とされている13).岡持14)の方法に習い,肘掛け椅子に座った姿勢から立ち上がり,3 m先の目印点で折り返し,元の椅子まで戻り,椅子に座るまでの時間を測定した.測定は背もたれおよび,座面に身体を接地させ体重がかかった状態から開始した.測定時間は身体が動き出した時点から殿部が椅子に接するまでの時間とした.デジタルストップウォッチを使用し,最大速度15)で実施した.術前後は同様の補助具を用い,術前が独歩の場合は安全面を考慮し,術後の杖使用を許可した.
4)立ち上がりテスト立ち上がりテストは,転倒リスクの予測に有用な指標となることが示されている16).検査はShort Physical Performance Battery(SPPB)17)より採用した.その方法に準じ,肘掛けのない椅子を用いて行い,最初に胸の前で腕を組み,椅子から立ち上がるプレテストを行った.その後,プレテストと同様に腕を組んだまま,素早く椅子から立ち上がる,座る動作を5回繰り返した時間をデジタルストップウォッチで測定した.
5)片脚立位時間胸部前で腕組みした姿勢で片側下肢を浮かせ,非支持側下肢が床に接地するまでの時間をデジタルストップウォッチで測定した12).片脚立位時間は術側および非術側の両側で計測した18).
6)歩行速度5 m歩行テスト15)19)を採用した.助走距離を2 mとし,デジタルストップウォッチにより5 mの歩行時間を最大速度20)で測定し,速度を算出した.術前後は同様の補助具を使用した.ただし,術前が独歩の場合は,安全面を考慮し術後の杖使用を許可した.
7)VAS厚生労働省21),およびMelzackら22)が示している方法を用い,白紙上に100 mmの直線を引き,左端を「痛みなし」,右端を「これまで想像しうる最大の痛み」と設定した上で,対象者に現在感じている痛みの強さを線上に記入させ,検者が定規で測定した.
8)MFES対象者のADLにおいて自己効力感を定量的に評価する患者立脚型の指標であり,転倒することなく遂行可能な自信の程度を表している.14項目からなり,0点(全く自信がない)から10点(完全に自信がある)の範囲で数字を選択し,紙面による質問形式にて実施した23).点数が低いほど,転倒恐怖心が高いということを示している.また,MFES日本語版は,国内高齢者を対象とした先行研究において,高い内部一貫性および再検査信頼性,さらに構成概念妥当性が確認されている24).
5. 統計解析各測定項目において,実施不能であった症例は,当該項目を欠損値として扱い解析を行った.
連続変数の正規性はShapiro–Wilk検定により確認した.正規分布を示さない変数が多かったため,連続変数は中央値[四分位範囲],カテゴリ変数は人数(%)で示した.
対象者を18日以内群と19日以上群の2群に分類した(診断群分類包括評価の特定入院期間IIを基準とした).2群間比較には連続変数にMann–WhitneyのU検定,カテゴリ変数にFisherの正確確率検定を用いた.さらに,退院日数およびMFESについて各連続変数との関連を検討するため,Spearmanの順位相関係数を用い解析を行った.
そして,退院時期と独立して関連する因子を同定し,退院時期の予測に寄与するかを検証するため,多変量解析としてロジスティック回帰分析を実施した.従属変数は退院日数(18日以内/19日以上)とし,独立変数には単変量解析において退院日数との関連を認めた項目に加え,交絡因子として年齢を投入した.術前項目について,先行研究を踏まえて選択した.具体的には,2ステップ値は小林ら12)によりTHA後退院日数の独立関連因子として報告されており,臨床的妥当性を考慮して術前モデルに採用した.術後1週モデルでは,自己効力感を反映する指標について,術後の運動機能との関連が報告25)26)されていることを踏まえ,臨床的妥当性を考慮して選択した.加えて,単変量解析で有意な相関を示した指標を年齢と組み合わせて構築したものを独立変数とした.術前項目と術後1週項目は同一モデルへ同時投入せず,術前モデルと術後1週モデルをそれぞれ構築した.モデルについては,運動機能指標を組み合わせた複数のモデルを構築し,感度解析として解析結果の一貫性を検討した.モデル全体の適合度はモデルχ2検定により評価し,共線性の有無は分散拡大係数(variance inflation factor:VIF)を用いて確認した.判別能はreceiver operating characteristic (ROC)曲線下面積(area under the curve:以下,AUC)を算出して評価した.
統計処理には,フリー統計処理ソフトEasy R(version 1.61,自治医科大学)を用い,有意水準は5%未満とした.
本研究は,THAを施行した99関節のうち,除外基準に該当しなかった84関節を対象とした.退院日数に基づき対象者を2群に分類した結果,18日以内群は43関節,19日以上群は41関節であった.
退院日数による群間比較(18日以内群/19日以上群)の結果を表1・2に示す.術前および術後1週の両時点で有意差を認めた項目は,TUG,片脚立位時間(非術側),歩行速度であった.術前のみで有意差を認めた項目は握力(非術側)であり,術後1週のみで有意差を認めた項目は片脚立位時間(術側),MFESであった.
| 18日以内群(n=43) | 19日以上群(n=41) | p value | ||
|---|---|---|---|---|
| 性別【人(%)】# | 女性 | 34 (79.1) | 32 (78) | 1 |
| 男性 | 9 (20.9) | 9 (22) | ||
| 術側の左右比【人(%)】# | 右側 | 22 (51.2) | 23 (56.1) | 0.668 |
| 左側 | 21 (48.8) | 18 (43.9) | ||
| 年齢【歳】 | 69[65.5, 74] | 73[64, 78] | 0.137 | |
| BMI【kg/m2】 | 23.8[21.8, 28] | 24.9[22.3, 27] | 0.971 | |
連続変数:中央値[四分位範囲],カテゴリ変数:(%).
#:Fisherの正確確率検定 #以外の項目:Mann–WhitneyのU検定.
18日以内群と19日以上群における連続変数は中央値[四分位範囲]で示した.カテゴリ変数は人数(%)表示とした.群間比較にはMann–WhitneyのU検定およびFisherの正確確率検定を用いた.
| 18日以内群 (n=43) | 19日以上群 (n=41) | p value | |
|---|---|---|---|
| ①術前項目 | |||
| 握力(術側)【kg】 | 22.5 [20, 29.1] | 22.5 [18.8, 25.4] | 0.279 |
| 握力(非術側)【kg】 | 23.5 [20.9, 29.3] | 22.1 [18.8, 25.7] | 0.042 |
| 2ステップ値【2歩幅/身長】 | 0.96 [0.9, 1.1] | 0.89 [0.79, 1.02] | 0.205 |
| TUG【s】 | 9.72 [8, 11.5] | 12.13 [8.7, 19.9] | 0.025 |
| 立ち上がりテスト【s】 | 11.5 [10, 13.8] | 13 [10.6, 20.2] | 0.058 |
| 片脚立位時間(術側)【s】 | 10.7 [4.2, 21.5] | 7.7 [3.1, 14.3] | 0.147 |
| 片脚立位時間(非術側)【s】 | 17.1 [8.9, 24.9] | 6.6 [2.8, 14.3] | p<0.01 |
| 歩行速度【m/s】 | 1.1 [0.9, 1.4] | 1 [0.7, 1.3] | 0.041 |
| VAS【mm】 | 70 [58.5, 80] | 74 [56, 86] | 0.252 |
| MFES【点】 | 101 [80.5, 121.5] | 95 [55, 115] | 0.234 |
| ②術後1週項目 | |||
| 握力(術側)【kg】 | 22 [19.8, 28.9] | 22.2 [19.1, 24] | 0.33 |
| 握力(非術側)【kg】 | 22.2 [20.5, 28.7] | 22.4 [18.7, 24.1] | 0.369 |
| 2ステップ値【2歩幅/身長】 | 0.83 [0.73, 0.95] | 0.78 [0.5, 0.86] | 0.056 |
| TUG【s】 | 11.9 [10.1, 14.2] | 17.5 [14.3, 22.1] | p<0.01 |
| 立ち上がりテスト【s】 | 12.2 [9.3, 15.4] | 14.8 [11.4, 16.5] | 0.128 |
| 片脚立位時間(術側)【s】 | 7 [2.4, 14.3] | 1.6 [0.6, 7.1] | 0.019 |
| 片脚立位時間(非術側)【s】 | 16.9 [7.5, 26.9] | 5.9 [3.3, 18.1] | p<0.01 |
| 歩行速度【m/s】 | 1 [0.9, 1.2] | 0.8 [0.6, 0.9] | p<0.01 |
| VAS【mm】 | 32.5 [15, 50.3] | 48 [20, 66] | 0.073 |
| MFES【点】 | 99 [82.5, 121.5] | 68.5 [35.5, 86.3] | p<0.01 |
連続変数:中央値[四分位範囲].
18日以内群と19日以上群における連続変数を中央値[四分位範囲]で示した.群間比較にはMann–WhitneyのU検定を用いた.
退院日数における基本属性・項目ごとの相関係数を表3に示す.術前では,握力(非術側),TUG,片脚立位時間(非術側)において相関関係を認めた.術後1週では,2ステップ値,TUG,片脚立位時間(術側・非術側),歩行速度,VAS,およびMFESに相関関係を認めた.他の項目と比較し,術後1週のTUGは比較的強い正の相関を示し,術後1週の2ステップ値,歩行速度,MFESは,比較的強い負の相関を示した.
| 基本属性 | r値 | |
|---|---|---|
| BMI | 0.05 | |
| 年齢 | 0.12 | |
| 項目 | r値 | |
| ①術前 | ②術後1週 | |
| 握力(術側) | −0.09 | −0.03 |
| 握力(非術側) | −0.22* | −0.03 |
| 2ステップ値 | −0.13 | −0.40** |
| TUG | 0.23* | 0.42** |
| 立ち上がりテスト | 0.21 | 0.22 |
| 片脚立位時間(術側) | −0.16 | −0.33* |
| 片脚立位時間(非術側) | −0.27* | −0.30** |
| 歩行速度 | −0.20 | −0.40** |
| VAS | 0.15 | 0.25* |
| MFES | −0.09 | −0.60** |
*: p<0.05, **: p<0.01.
退院日数と基本属性・各連続変数との関連をSpearmanの順位相関係数を用いて表記した.有意差を認めた項目は,p<0.05(*)および,p<0.01(**)で相関係数(r値)に付して示した.
MFESにおける基本属性・項目ごとの相関係数を表4に示す.術前MFESは,握力(術側・非術側),2ステップ値,TUG,片脚立位時間(術側),歩行速度,VASと有意な相関を認めた.一方,術後1週MFESは,握力(術側・非術側),2ステップ値,片脚立位時間(術側・非術側),歩行速度,VASと有意な相関を認めた.特に,術前および術後1週の双方において,2ステップ値,および歩行速度,術後1週では片脚立位時間(術側)が他項目と比較して比較的強い正の相関を示した.
| 項目 | r値 | |
|---|---|---|
| ①術前 | ②術後1週 | |
| BMI | 0.12 | 0.12 |
| 年齢 | −0.14 | −0.06 |
| 握力(術側) | 0.39** | 0.30** |
| 握力(非術側) | 0.39** | 0.29** |
| 2ステップ値 | 0.46** | 0.48** |
| TUG | −0.36** | −0.13 |
| 立ち上がりテスト | −0.11 | 0.15 |
| 片脚立位時間(術側) | 0.32** | 0.42** |
| 片脚立位時間(非術側) | 0.21 | 0.32** |
| 歩行速度 | 0.43** | 0.50** |
| VAS | −0.37** | −0.33** |
*: p<0.05, **: p<0.01.
①:術前MFESとの相関係数,②:術後1週MFESとの相関係数.
術前MFES, 術後1週MFESおよび,基本属性・各連続変数との関連をSpearmanの順位相関係数を用いて表記した.表3同様に,有意差を認めた項目は,p<0.05(*)および,p<0.01(**)で相関係数(r値)に付して示した.
相関解析で退院日数との関連が示された項目について,交絡因子を調整した上で独立した関連を検討するため,術前モデルと術後1週モデルに分けてロジスティック回帰分析を実施した.
術前モデルにおけるロジスティック回帰分析(表5)では,従属変数を退院日数とし,年齢(オッズ比1.01, 95%信頼区間(confidence interval:以下,CI)0.96–1.07),2ステップ値(オッズ比1.58, 95%CI 0.07–35.8),およびTUG(オッズ比1.14, 95%CI 0.97–1.35)を独立変数としたモデルにおいて,有意な関連を確認できず,モデルχ2検定においても有意差は認めなかった.また,補足解析としてTUGを片脚立位時間(非術側・術前)および歩行速度(術前)へ置換したモデルを作成したが,いずれのモデルにおいても有意な関連を示す因子は認められなかった.術前モデルの判別能はAUC 0.60(95%CI:0.47–0.73)であり,術前項目のみでは退院日数を十分に判別できる水準には至らなかった.
| オッズ比 | 95%CI | p value | |
|---|---|---|---|
| 年齢 | 1.01 | 0.96–1.07 | 0.722 |
| 2ステップ値 | 1.58 | 0.07–35.8 | 0.774 |
| TUG | 1.14 | 0.97–1.35 | 0.108 |
従属変数:退院日数(18日以内/19日以上),独立変数:年齢,2ステップ値,TUG.
モデルχ2検定(尤度比検定):p=0.107, 判別能(AUC):0.60(95%CI: 0.47–0.73),共線性(VIF):1.24.
術前モデルでは,従属変数を退院日数(18日以内/19日以上)とし,年齢,術前の2ステップ値,および術前のTUGを独立変数として投入し,ロジスティック回帰分析を行った.モデル適合度はモデルχ2検定(尤度比検定),判別能はROC曲線下面積(AUC)により評価し,共線性は分散拡大係数(VIF)により確認した.
術後1週モデルにおけるロジスティック回帰分析結果を表6に示す.従属変数を退院日数,年齢(オッズ比1.02, 95%CI 0.96–1.08),MFES(オッズ比0.98, 95%CI 0.96–1.00),およびTUG(オッズ比1.06, 95%CI 0.98–1.15)を独立変数として投入した結果,モデルχ2検定は有意であった(p<0.001).さらにMFES(術後1週)のみが退院時期と有意に関連した(オッズ比:0.98, 95%CI:0.96–1.00, p=0.013).判別能はAUC 0.79(95%CI:0.68–0.90)と高値を示した.また補足解析として,TUGを片脚立位時間(非術側・術側),および歩行速度(術後1週)へ置換したモデルを作成した.その結果,いずれのモデルにおいてもMFES(術後1週)は有意な関連を示した.
| オッズ比 | 95%CI | p value | |
|---|---|---|---|
| 年齢 | 1.02 | 0.96–1.08 | 0.472 |
| MFES | 0.98 | 0.96–1.00 | 0.013 |
| TUG | 1.06 | 0.98–1.15 | 0.168 |
従属変数:退院日数(18日以内/19日以上),独立変数:年齢,MFES, TUG.
モデルχ2検定(尤度比検定):p<0.001, 判別能(AUC):0.79(95%CI: 0.68–0.90),共線性(VIF):1.15.
術後1週モデルでは,従属変数を退院日数(18日以内/19日以上)とし,年齢,術後1週のMFES, および術後1週のTUGを独立変数として投入した.モデル適合度はモデルχ2検定(尤度比検定),判別能はROC曲線下面積(AUC)により評価し,共線性は分散拡大係数(VIF)により確認した.
多変量解析の結果より,術前項目を用いた解析は補足解析として位置づけ,術後1週モデルを主解析とした.
本研究では,THA後患者における退院日数に関連する因子を分析した.群間比較および相関解析により,複数の因子が退院日数と関連を示したため,多変量解析により交絡因子を調整した上で独立因子を検討した.その結果,術前モデルでは有意な関連因子を認めず,十分な判別能も示されなかった.一方,術後1週モデルのMFESが退院日数と独立して関連する因子であることが示された.
また,本研究で用いた18日以内という基準は,診断群分類包括評価による制度上の区分である.加えて,この基準(18日以内)は,地域医療連携における転院判断や自宅復帰支援の適否を検討する際の重要な指標となりうると考えられる.本研究の結果より,術後1週という早期の段階でMFESを用い,18日以内の基準達成の適否を予測できることは,退院調整や心理的側面への介入の必要性を早期に検討する上で有用な臨床情報となる可能性が示唆された.
退院日数に関連する術前因子について,小林ら12)は,術後退院日数に影響を与える独立した関連因子として2ステップ値を報告し,退院日数の短縮には術前のバランス能力および移動能力が関与することを示している.本研究において,術前時点の2ステップ値は単独指標として退院日数との関連を示さず,他の術前運動機能指標を同時に投入したロジスティック回帰分析モデルについても,術前時点の2ステップ値は独立した関連因子としては抽出されなかった.術前機能における予測因子のシステマティックレビューでは,機能回復と術前予測因子との関連を示す高いエビデンスは得られていないという報告もあり27),術前因子のみを用いて退院日数を十分に予測することには限界があると考えられた.さらに,術前評価のみでは,術後の疼痛や心理的要因,回復過程といった要素を十分に反映できない可能性があり,退院時期の予測には術後の状態を含めた評価が重要であることが示唆された.
一方,術後1週モデルでは,MFESが年齢およびTUGを調整後も退院日数と独立して関連していた.MFESは,転倒恐怖感と関連する心理的指標であり,ADLを転倒することなく遂行できるという自己効力感を反映する23).そのため,術後早期のADLおよび退院に対する自信や不安といった心理的要因を包括的に捉えている可能性がある.また,下肢人工関節置換術患者を対象としたシステマティックレビューでは,術前自己効力感は回復アウトカムとの関連が不安定であるが,術後自己効力感は歩行能力や身体活動量などの機能的回復指標と一貫して関連することが報告されている28).この知見は,本研究において術後自己効力感が退院時期と独立して関連し,術前指標よりも高い予測能を示した結果を支持するものである.佃ら29)は自己効力感を含む心理的要因が早期歩行自立に影響することを報告し,沖井ら30)は下肢人工関節置換術後患者において,術前と比較して術後1週時点で自己効力感が低下することを報告している.本研究においても,術後自己効力感と運動機能との関連,および術後早期の自己効力感の低下という先行研究と同様の傾向が確認された.しかし,これらの先行研究は自己効力感を歩行自立やQOL,活動量といった機能的・主観的アウトカムとの関連において検討したものであり,術後早期の自己効力感が退院時期そのものを規定しうるかを直接検証した報告は見当たらない.本研究の新規性は,以下の3点にある.第一に,評価アウトカムの新規性である.本研究は,主観的回復や機能的指標ではなく,診断群分類包括評価に基づく退院日数(18日以内)という客観的かつ制度的なアウトカムを設定し,術後早期のMFESが,術前運動機能を上回る判別能をもって独立して予測しうることを示した.第二に,自己効力感指標の特性である.先行研究でもMFESをはじめとする自己効力感尺度は用いられているが,その関連づけの対象はQOLや活動量などにとどまっていた.MFESは転倒せずにADLを遂行できる自信を定量化する転倒関連自己効力感尺度である.歩行や運動そのものに対する自己効力感とは異なり,在宅生活での動作遂行と転倒回避に対する自信を反映するため,退院可否の判断とより直接的に対応する.第三に,対象者および文脈の特異性である.本コホートは対象者の約8割を形成不全性変形性股関節症が占め,退院日数の基準も同疾患の特定入院期間に準拠している.そのため,本知見は本邦のTHA対象疾患および医療制度的文脈に即した,疾患・状況特異的な所見といえる.また,本研究結果から,自己効力感は術前の固定的特性というよりも,術後の回復経験や活動参加を通じて変化し,機能回復と相互に影響し合う心理的側面である可能性が高い.加えて,一時的な失敗や挫折が自己効力感や行動に大きな影響を及ぼす可能性があり31),自己効力感が回復過程の中で形成・変化する心理的因子であることが考えられる.
本研究において,術後1週時点のMFESが退院日数と強く関連した背景には,術後早期の自己効力感と機能的回復プロセスが相互に影響し合い,最終的な退院時期を規定する一要因となった可能性が推察される.術後1週時点のMFESは,単なる身体機能指標とは異なり,患者自身の「できる」という認知を包含しているため,退院日数と独立して関連したと推察された.さらに,術後早期の運動機能は退院時期を規定する重要な要素であるが,歩行速度やTUG,片脚立位時間,2ステップテストなどの運動機能評価は,疼痛や術後反応の影響を受けやすく,患者への負担が比較的大きい.一方でMFESは質問紙で検査可能であり,身体的負担がなく,評価の標準化や実施の容易さの点で臨床導入しやすいと考えられる.
加藤ら32)は,THA後においてTUGが歩行速度や片脚立位時間と関連することを報告しており,総合的な移動能力の指標としての有用性を述べている.さらに,TUGは立ち上がり,歩行,方向転換,着座といった一連の移動動作を含む評価であり,歩行能力と平衡機能といった運動機能を確認することができる32)33).本研究では,TUGを用いた術後1週モデルは補足解析と同程度の判別能を示し,術後早期の運動機能を包括的に評価できる代表的指標であることから主解析に採用した.
術後1週時点におけるMFESが退院日数と関連したことからは,「活動への自信」や「退院後生活への見通し」といった心理的要因が,退院時期に影響しうることが推測される.したがって,術後早期における退院時期予測では,運動機能評価に加えてMFESのような患者負担が少なく,実施容易な指標を組み合わせることが有用である可能性が示唆された.
本研究の限界点として,第一に退院時期を規定しうる社会的要因(家族構成,居住形態,家屋構造,介護保険サービスの利用状況など)を十分に制御できていない点が挙げられる.
次に術前評価のみでは,術後の疼痛や心理的要因,回復過程を十分に反映できない可能性があり,術前単独での退院日数予測には限界があると考えられた.この結果の相違には,先行研究と比較して対象者数の違い,診断群分類包括評価の基準日数の差異,および統計解析手法の違いが影響している可能性がある.具体的には,小林ら12)はTHA患者46例を対象とした後ろ向き研究であり,術後在院日数21日以内群と21日超群に分類し,術前運動機能を中心に重回帰分析を用いて検討した結果,2ステップテストが独立した関連因子として抽出されたと報告している.このような結果の差異には,対象者数や群分けの基準に加え,小林らの研究では心理的要因を評価項目に含まず運動機能を中心に検討していた点,さらに統計解析手法が異なる点などが影響したと考えられる.
また,ロジスティック回帰分析に同時導入した歩行速度や片脚立位時間については,2ステップテストと評価対象とする運動特性が類似しており,多変量モデル内で各指標の影響が分散された可能性がある.
加えて,本研究は単施設研究であり,当院周辺地域の地域性についても自己効力感に差異が生じる原因となる可能性があるため,多施設共同研究も検討する必要がある.
さらにMFESの評価内容に関しては,自己記入式尺度であるため,質問項目の解釈の違いによって測定誤差が生じ,情報バイアスが影響する可能性も懸念される.そのため,認知機能や知能指数検査を併用して評価することも,今後の検討課題である.
また,複数の術式や原因疾患を含めて解析を行ったため,同一術式,もしくは原因疾患を統一した調査を行うことも今後検討すべきである.なお,MFES尺度内のADL項目を細分化して統計解析を行うことで,転倒自己効力感のより詳細な傾向を明らかにできる可能性がある.
Dohnkeら34)は,THA後の運動療法と自己効力感の関係性について,リハビリテーションプログラムが自己効力感を高めることを目的としていなくとも,患者の自己効力感は向上しうることを報告している.しかしながら,それとは異なる報告も認められるため,術後の自己効力感と理学療法介入との関係性については,今後さらに検討を重ねていく必要がある.
理学療法士として自己効力感を高めるための介入として,Bandura7)の提唱する自己効力感の情報源に基づくアプローチが有用と考えられる.具体的には,①達成体験(成功体験)として段階的な運動課題の設定と達成を繰り返し提供すること,②代理体験として同様の術後経過をたどった患者の回復例を共有すること,③言語的説得として退院後生活の具体的なイメージを提示しながら肯定的なフィードバックを行うこと,④生理的・感情的覚醒として疼痛のコントロールや不安の軽減を図ることが挙げられる.術後早期の理学療法において,これらの視点を意識したアプローチを組み合わせることで,自己効力感の向上ひいては退院時期の最適化に貢献できる可能性があると著者らは考えている.
本研究では,THA後患者における退院時期を予測する指標を明確にし,自己効力感および運動機能指標との関連性を検討することを目的とした.結果,術後1週時点のMFESが退院日数に関連する独立因子であることが確認された.術後の自己効力感は,身体機能と心理的側面を統合的に反映する指標として,退院時期の決定に関与し,早期退院支援や転院判断を行う上で重要な要因である可能性が示唆された.
本研究の実施に際し,ご協力賜った愛媛県立新居浜病院リハビリテーション部・整形外科の諸先生方に深く感謝する.
本研究において開示すべき利益相反はない.