2020 年 17 巻 p. 89-100
本研究の目的は、QCA(質的比較分析)とMDSO-MSDOによる質的分析手法と、ソフトクラスタリングといった定量分析手法とを活用し、個々の顧客の差異を検討し、ブランドマネジメントに資する情報抽出方法を提案することにある。
QCAは、ブール代数をもとにした集合論的方法である。本研究では、個々人のブランド評価構造の多様性と因果条件を明らかにする目的で応用する。もう一つのアプローチであるMDSOおよびMSDOとは、Most Different cases, Similar Outcome/Most Similar cases, Different Outcomeの頭文字からなる手法である。MDSOは「結果が類似しているグループ内で評価基準が最も異なるケース」を特定し、MSDOは「結果が異なるグループ間で評価基準が最も類似しているケースを特定する」ために用いられる。本研究では、対象となる顧客データの中から詳細に検討すべき対象を特定する目的に応用する。
ただし、MDSO-MSDOアプローチでは、極端に変わった対象が抽出されてしまう可能性があり、特定された対象が深く検討すべき対象であるかという懸念が残る。この点に対しては、ソフトクラスタリングを用いて抽出された顧客と類似する個客がどれくらいいるかを確認することで対象の非特殊性を担保する手順についても提案する。
The purpose of this study is to propose methods that contribute to brand management by using qualitative analysis (QCA: Qualitative Comparative Analysis) and MDSO-MSDO approach) and quantitative methods (soft clustering).
QCA is set-theoretic methods based on Boolean algebra. In this study, it is applied to clarify the diversity of individual brand evaluation structures and causal condition.
MDSO and MSDO is an acronym for “Most Different cases, Similar Outcome/Most Similar cases, and Different Outcome”. MDSO is used to identify “the case with the most different evaluation criteria in groups with similar results”, and MSDO is used to identify “the case with the most similar evaluation criteria between groups with different results”. In this study, it applies to the purpose of extracting the subjects which should be examined in detail from the target customers.
However, in the MDSO-MSDO approach, extremely unusual targets may be extracted, and there remains concern that the identified targets should be considered deeply. Therefore, we also propose a procedure for cross examining the extremity of the targets by using soft clustering.
顧客がブランドをいかに知覚しているかを把握することは、ブランドマネジメントを考える際、欠くことのできないプロセスである。とくに、ブランドイメージの知覚状態とブランド選好との関係を明らかにすることは、目指すべきブランドの方向性を検討する上で基本的な情報知識であり、重要なリサーチテーマとして研究がなされている。たとえば、ブランドイメージ空間と選好との関係を定量的に把握する選好回帰分析などはこれらのテーマに対する定量的な方法として実際のブランドマネジメントに活用されてきた実績がある。
ただし、ブランドイメージの定量的な分析は、消費者に共通する平均的傾向を抽出するには有効であるものの、消費者個々人の評価構造の違いといった評価の多様性を明らかにするには必ずしも適した方法とは言い難い。選好回帰の例でいえば、個々人の選好傾向をそれぞれ線形モデルで推定することによって個々人間の違いについてはアプローチできるものの、個人の中で対象ブランドごとに評価構造を変えるといった違い(評価の多様性)については表現しづらいといった課題がある。これら個々人内での評価構造の多様性にいかにアプローチするかというのが本研究の一つ目の課題である。
加えて、個々人の違いを詳細に検討しようとした場合、デプスインタビューや追加の定量調査を実施することがあるが、すべての対象を深く検討するのは難しい。そのため、得られた対象から深く検討すべき対象を抽出する方法を構築するのが、本研究での二つ目の課題である。
これらの点に鑑み、個々人の多様性を加味して、ブランドマネジメントに資する情報を得る方法を構築し、これら課題の解決を試みるのが本研究の主たる目的である。
具体的には、質的分析法の二つの手法を応用することで課題の解決を試みる。一つ目の課題に対しては、個々人内での評価構造の多様性を抽出するためにQCA(質的比較分析)を適用する。もう一つは、特徴的な顧客を抽出するためにMDSO-MSDOアプローチを活用する。MDSOおよびMSDOとは、Most Different cases, Similar Outcome/Most Similar cases, Different Outcomeの頭文字からなる手法である。その方法については後述するが、MDSOは「結果が類似しているグループ内(Similar Outcome)で評価基準が最も異なるケース(Most Different cases)」を特定し、MSDOは「結果が異なるグループ間(Different Outcome)で評価基準が最も類似しているケース(Most Similar cases)を特定する手法である。
これらの課題に対して、本研究では、コーヒーチェーン9社を対象とするイメージ調査データをもとに、分析方法の構築と適用から手法の提案と課題の解決を試みる。
なお、これら研究ではブランドマネジメントに資する具体的な分析手順を提案するとともに、従来の量的分析と質的比較分析の関係を、結果系変数による対象の分類と分析視点の違いからの整理、体系化も試みることとした。
本研究の位置づけを確認するために、今回用いる2つの質的分析手法の簡単な概要と、従来手法との関係性を整理する。
QCA(Qualitative Comparative Analysis:質的比較分析)とは、C. Ragin(1987)によって提案された分析手法である。その特徴は、ブール代数を基礎においている点にあり、この特徴から、①ある事象が起きる(Y=1やY=0となる)パターンを原因系(x)の組み合わせから解析できることといったメリットを持っている。
一つ目の「得られる結果が原因系変数の組み合わせパターンを複数抽出できる」という特徴は、線形モデルによる分析では得られない因果ルールの多様性を表現できる利点を持つ。
たとえば、店舗への満足度(y)の形成を4つの要因(x1:x4)から考えたとする。顧客によっては、4つの要因をほぼ均等に重視するものもいれば、特定の要因にのみ重視する顧客もいるであろう。その際、顧客がそれぞれ異なる評価ルールを持っていたとしても、個々人ごとにはその因果ルールが一つであると仮定できれば、統計学で多用される線形結合(y=β0+Σβiなど)を基本としたモデルで分析できる。その際、個人の多様性は、個人ごとのβの違いで評価することになる。ただし、現実には、個々人の評価行動では、評価する店舗ごとに異なる評価ルールを使い分けることもありえるだろう。たとえば、「立地が悪いのであれば品揃えを重視するが、立地が良いのであれば、接客を重視する」といった具合である。このような場合に線形モデルを前提とすると、多面的な交互作用を組み込む必要があり、推定方法が複雑化すると同時に、得られる結果の解釈も難しくなってしまう。それに対して、QCAはそもそも線形モデルなどの数式によるモデル表現ではなく、xの組み合わせを因果ルールとして出力とするため、「立地が悪いのであれば品揃えを重視するが、立地が良いのであれば、接客を重視する」といった具体的なパターンを表現することを得意としている。また、ブール代数を用いることで、得られる因果ルールをより簡易な要素(PI:主項)の形に整理でき、Y=1(またはY=0)となるための十分条件や必要条件を明らかにできる点も特筆すべき点である。これらの利点については、実際のデータ分析の結果とともに確認することとする。
二つ目の特徴は、QCAは集合論を基礎としてルール抽出を行うことによって、少数のデータからでもルールを抽出できるといった点にある。ルール抽出系の分析手法としては、アソシエーションルール分析などデータマイニング系の手法もあるが、データマイニング系の分析では、ルール評価に確率論的な基準を用いるため、基本的には分析に大量のデータを必要とする。ただし、顧客の評価ルールを顧客ごとに分析しようとした場合には、一顧客から収集できる評価対象(ブランド)数は限られ、大量のデータを分析するという前提は満たしにくい。これらの点からも、ブランドイメージと選好調査データをもとにした顧客の評価構造を明らかにする分析場合、QCAは非常に適した特徴を持っている。
一方の、MDSOおよびMSDOアプローチとは、Most Different cases, Similar Outcome/Most Similar cases, Different Outcomeの頭文字からなる手法である。MDSO-MSDOアプローチは、De Meur and Gottcheiner(2006)(2009)などによって提唱された手法である。ここで分析手順を簡単に確認することで、本手法の特徴を明確にする。主な手順は以下の通りである1。
① まずデータを結果系の変数(Y)および原因系の変数(X)についてすべてを2値変数化しておく2。
② 次にY=1またはY=0といった基準で対象をグループに分割する。ここでYが同じ値になる対象をSimilar Outcomeグループ(SO)とする。また、Yが異なる値となる対象グループ間をDifferent Outcome(DO)とする。
③ すべての対象間について、距離を測定する。MDSO-MSDOアプローチでは、この距離にハミング距離を用いる3。
④ これら対象間のハミング距離からSO内での対象ペアの類似性を、DO内での対象ペアの差異性を評価し、MDSOとMSDOとなる対象ペアを特定する。
今回のブランド評価の事例でいえば、MDSOは、あるブランドAについて選好あり:Y=1(または選好なし:Y=0)という顧客セグメントをSOとして、その中で最も異なる顧客のペアを探すことになる。このことによって、同じような選好を持っていても、異なるブランド評価の仕方をしている顧客を比較できることになり、ブランド評価の多様性を検討するために着目すべき顧客を得られることとなる。
一方、MSDOは、あるブランドAについて選好あり(Y=1)と選好なし(Y=0)のグループを比較するのが、DOへ着目する。通常、異なる結果をもつ対象(DO)を比較するには、対比という視点から分析し、グループ間の差異性から因果関係を考えていくことになるが、MSDOの視点は、あえて異なる結果を持つグループの比較を共通性の視点から分析する点が特徴である。これらの分析視点の違いを理解するために、以下のような二つの基準から分析方法を整理する。
2.2 分析フレームの整理ここで整理するのは、①モデル分析、②QCA、③MDSO、そして④MSDOの4つの分析視点である。これらは「結果系変数による対象の分類」と「分析視点の違い」から表1のように整理できる。
| 着眼点 | |||
|---|---|---|---|
| 類似点 | 差異点 | ||
| Y: Outcome |
同じアウトカムを持つグループ(Y=1またはY=0といった同じ結果を持つグループ)内での分析 | 類比:グループ内で共通する要因に着目し、そこでの共通性からルールの構成要因を特定する分析視点。QCAが得意とする領域であり、ブール代数など束論など組み合わせの視点を基本としている。 | MDSO:似たアウトカムのグループでの差異点を特定する分析視点。ブランド選好が同じ傾向といった似た評価をする顧客間で、ブランドイメージ評価は異なるといった同セグメント内での差異性に着目する。 |
| 異なるアウトカムを持つグループ(Y=1とY=0といった異なる結果を持つグループ)間での分析 | MSDO:異なるアウトカムを持つグループを比較し、類似点を特定する分析視点。ブランド選好が異なる評価をする顧客間での、ブランドイメージの共通性に着目する。 | 対比:違いを生じさせる要因の特定する分析視点。各種モデル分析が得意とする領域で、選好回帰などモデル分析系の手法はここに分類される。 | |
(出所)筆者作成。
第一の基準(縦軸)は、結果系変数(Outcome:Y)からの分類である4。上下の違いは、結果系変数が同じ値のグループ内での比較か、異なる値のグループ間での比較かといった違いである。また、第二の基準(横軸)は、比較する際に、共通性を抽出するための分析か、差異性を抽出するための分析かといった違いである。
〈対比(表1:右下)〉
まずは、右下を確認する。この組み合わせは、異なる結果を対比することで、結果の違い(差異性)を生じさせる要因の特定する視点からの分析である。モデル分析が得意とする領域で、回帰分析などモデル分析系の手法はここに分類される。
〈類比(表1:左上)〉
それに対し、左上は同じ結果を持つ対象を類比することで、結果を生じさせる共有要因を特定する分析である。QCAは真理表(Truth Table)をもとに類比を行い、その共通要因(類似性)を分析・整理することで、必要条件や十分条件を抽出するといった手法であり、この領域にあてはまる。
これら対比からの差異性、類比からの類似性といった分析手法に対して、いわば「対比すべき対象での類似性」と「類比すべき対象での差異性」を考えるというのが、MDSO-MSDOアプローチである。
〈MDSO(表1:右上)〉
右上は、MDSOが該当する領域で、似たアウトカム(SO)のグループでの差異点を特定する分析視点である。ブランド選好が同じ傾向といった似た評価をする顧客の中で、ブランドイメージ評価は異なる顧客を特定するために用いることができる。このことによって、対象ブランドが選好を得る際に、ブランド評価が大きく異なる顧客を特定でき、選好形成パターンの違いを検討することが可能となる。
〈MSDO(表1:左下)〉
最後に、左下は、MSDOが該当する領域で、異なるアウトカム(DO)のグループでの共通点を特定する分析視点である。ブランド選好は異なるがブランド評価が似通った顧客を特定するために用いることができる。このことによって、選好の違いに関わらずブランドが共有されているイメージは何かといった点を検討することが可能となる。
ブランドマネジメントに資する情報をデータから導くためには、表1のような視点の違いから目的に応じて手法を組み合わせ、分析を行う必要がある。本研究では、とくにモデル分析には多くの研究実績がある点を踏まえ、表1の右下を除く3つの視点に着目し、MDSO-MSDOとQCAとを活用し、主に以下の3つのステップによって分析する。
ステップ1:MDSO-MSDOアプローチによる着目すべき顧客の特定
第一のステップは、顧客の中から、詳細に検討すべき顧客を特定するステップである。ここでは、MDSO-MSDOアプローチによって、選好が同じグループで異なる評価を持つ顧客(MDSO)の特定と、選好が異なるが類似の傾向を持つ顧客(MSDO)の特定を試みる。
ステップ2:QCAによる抽出した顧客の評価構造の特定
第二のステップは、第一のステップで得られたMDSOペアとMSDOペアの比較によって評価構造を分析するステップである。とくにMDSOペアに着目することで、評価の多様性を検討する。この評価の多様性を分析するために、QCAを用いて、抽出された顧客のカテゴリー評価の違いにアプローチする。
ステップ3:抽出した顧客の特異性の確認
第三のステップは、第一のステップで得られた顧客ペアの特異性の確認である。とくにMDSOでは同じアウトカムを持つ顧客群の中で最も異なる評価を持つ顧客が抽出されるため、その顧客が外れ値といえるほど、特異な評価を持っている可能性を否定できない。そこで、得られた顧客の特異性を評価するステップを加え、着目すべき顧客としてふさわしいといえるかを評価するステップを追加した。
以下、具体的な調査データを用いてより詳細な分析手順と結果の検討を行う。
3.2 調査概要と分析概要本研究では、表2のとおり、コーヒーショップ9ブランドについて、ブランド選好と10個のブランドイメージについてアンケート調査を行ったデータを分析対象とした。
| 対象ブランド | ブランド評価 | |
|---|---|---|
| 評価項目 | 値 | |
| B1:タリーズ | (Y)ブランド選好 | 5点満点→TOP2Box=1、それ以外=0 |
| B2:スターバックス | (A)飲んでいると自慢になる | 該当の有無(あてはまる=1、あてはまらない=0) |
| B3:ドトールコーヒー | (B)ゆっくり過ごせる | |
| B4:エクセルシオールカフェ | (C)値段が高い | |
| B5:サンマルク | (D)オシャレ感が高い | |
| B6:上島珈琲 | (E)コーヒーが美味しい | |
| B7:コメダ珈琲 | (F)コーヒー以外の飲み物が美味しい | |
| B8:マクドナルド | (G)食べ物が美味しい | |
| B9:ルノアール | (H)店員の対応が良い | |
| (I)カスタマイズしてくれる | ||
| (J)バリスタのレベルが高い | ||
(出所)筆者作成。
調査方法はネットリサーチ法を利用し、標本抽出は、均等割付法により、GMOモニターから「10代から50代×男女:10セグメント」を設定して実施した。予備サンプル分を含め有効標本数n=227人となった。
以下の例では、対象ブランドを「タリーズ」として分析するため、これら227サンプルのうち、タリーズのイメージ評価の評価がすべて0のサンプルを除き、分析対象数n=107とした。これらのデータに対して、主に以下の3つの調査から分析し、検討を行った。
〈ペルソナの設定〉
第一は、詳細な質的分析をすべき顧客を特定する分析である。この例では、タリーズに対する利用意向を持つグループの中で評価構造が最も異なる顧客ペアをMDSOによって特定する5。このことによって、同じくタリーズを選好する顧客の中でブランド評価に違いを持つ顧客を抽出し、次なる分析の対象とする顧客を選定することになる。なお、ブランドマネジメントを考える際には、しばしば典型的な顧客をペルソナとして設定することがあるが、仮に複数のペルソナを設定するとすれば、できるだけ異なるペルソナ像を考えるのが一般的である。その際、MDSOによって得られた顧客ペアは、まさに同じような選好をするが、異なるブランドイメージを持つ顧客であり、できるだけ異なるペルソナ像を考えるためのヒントとなるペアの抽出にも活用できると考えられる。
〈選好パターンの設定〉
第二の分析は、MDSOによって抽出した顧客のブランド選好形成パターンを特定することである。ブランドはあるブランド単独で評価されるというよりは、むしろ競合との関係の中で評価され、選好が決定される。そこで、第一の分析で抽出された顧客について、QCAを用いて、対象ブランド9コーヒーショップの選好が形成されるブランドイメージ評価パターンを抽出する。このことによって、対象ブランド(タリーズ)を同じく選好する顧客の中でのカテゴリー評価を評価パターンの違いから検討するための情報が得られることになる。
〈顧客の特異性の確認〉
最後は、第一の分析で得られた顧客ペアの特異性の分析である。MDSOでは最も異なる評価を持つペアが抽出されるが、最も異なるという基準がゆえに、抽出される顧客ペアに、非常に稀な評価構造を持つ顧客同士が抽出されてしまう可能性が否定できない。そこで、抽出された顧客に類似する個客のサイズ(セグメントサイズ)を求めることで、深く検討するにふさわしい顧客か(稀すぎない顧客か)を判断する分析を行う。
3.3 具体的な手順と分析結果まずはY(OUTCOME)にあたるブランド選好の有無でデータをソートし、図1のようなデータを作成する。その上で表1のブランドの個別評価項目(10項目)を用いて対象間のハミング距離行列を計算する。

(出所)筆者作成。
ここでデータをYによってソートするのは、図2のように、対象間のハミング距離行列を3つのZONEに区分するためである。例えば、図2の左上は対象1から4がY=1のデータであり、その組み合わせのゾーンは、Zone1利用意向ありでSOのグループになる。このゾーンに含まれる対象の距離からMDSOを特定することになる。また、右下のゾーンは利用意向なしでSOのグループであり、ここをZONE2と呼ぶ。ZONE2に含まれる対象からもMDSOを特定していく。最後は、左下のゾーンは、利用意向ありとなしでDOのゾーンであり、Zone3と呼ばれ、MDSOを特定するために用いられる。なお、図の右上は、ZONE3と同じ組み合わせのため、図からは割愛されるのが一般的である。なお、Zone1と2ではSOでの最も異なるケースを特定するため、ハミング距離をそのまま採用して評価する。

(出所)筆者作成。
一方、Zone3では最も類似するケースを特定するためにハミング距離を評価項目数から弾いて近接度(類似度)に変換して評価する。図内で墨塗されている部分が近接度に返還されている部分である。
つづいて、ハミング距離をもとにZONE1、2から最も差異性が高い顧客ペアをMDSO、またZONE3からは最も類似性が高い顧客ペアをMSDOとして特定する。その結果、以下のような結果が得られた。
Zone 1:Similar Outcome(Y=1:利用意向あり)におけるDifferent levelが最大の組み合わせとしてID2とID45のペア一組が抽出された。
Zone 2:Similar Outcome(Y=0:利用意向なし)におけるDifferent levelが最大の組み合わせとして、以下、20ペアが抽出された。ここでは、ID74が一方の極となった対が得られていることがわかる。→(69, 74)(70, 74)(73, 74)(74, 76)(74, 80)(74, 81)(74, 82)(74, 86)(74, 88)(74, 90)(74, 91)(74, 92)(74, 94)(74, 95)(74, 96)(74, 97)(74, 102)(74, 105)(74, 106)(74, 107)
Zone 3:Different OutcomeにおけるSimilar levelが最大の組み合わせとして、以下、28ペアが抽出された。Zone3では多様な対が抽出されていることがわかる。→(25, 69)(59, 69)(3, 70)(9, 70)(33, 70)(38, 70)(61, 70)(55, 77)(42, 85)(6, 88)(36, 90)(49, 90)(57, 90)(50, 91)(50, 94)(36, 95)(49, 95)(57, 95)(6, 97)(60, 98)(22, 99)(24, 99)(65, 99)(14, 102)(25, 105)(59, 105)(25, 106)(59, 106)
これらMDSOならびにMSDOのペアを詳細に分析することでより多様な顧客のブランド評価構造を明らかにするステップに移る。表3はそれぞれのZONEから一ペアずつ抽出し、10個のブランド評価の該当の有無をまとめた表である。
| Zone1 | Zone2 | Zone3 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| ID | 2 | 45 | 69 | 74 | 25 | 69 |
| 選好 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 |
| 飲んでいると自慢になる | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| ゆっくり過ごせる | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| 値段が高い | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| オシャレ感が高い | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| コーヒーが美味しい | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| コーヒー以外の飲み物が美味しい | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| 食べ物が美味しい | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| 店員の対応が良い | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| カスタマイズしてくれる | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 |
| バリスタのレベルが高い | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
(出所)筆者作成。
ここでは、一例としてZONE1から得られたMDSOペアのID2とID45の顧客を見てみよう。ID2が「飲んでいると自慢になる」「おしゃれ感が高い」など周辺価値もしくは情緒的ベネフィット系の基準にてタリーズを評価している一方、ID45は「食べ物がおいしい、カスタマイズしてくれる」など機能的ベネフィット系の基準で評価していることがわかる。MDSOから週出される顧客ペアが必ずしもこのようにベネフィットのレベルが異なるというように結論は一般化できないが、MDSOにて両極として抽出されたペアは明らかに異なる評価基準を持っているペアとなる。
次なるステップとして、選好ありのMDSOペアであるID2とID45について、コーヒーショップカテゴリーの選好パターンを比較する。タリーズ以外の8ブランドを含めた選好とそれぞれのブランドについての10個の評価基準によるデータを分析対象としてQCA分析を行った結果、以下のような結果が得られた6。

(出所)筆者作成。
QCAによって得られたPI(Primary Implicants:主項)の組み合わせを見ると、ID2はBゆっくりすごせるか(or)+A、C、Eなど他の要因でもコーヒーショップを選択しており、ブランドによって選好評価ルールを使い分けていることがうかがい知れる。それに対して、ID45はB:ゆっくり過ごせるという項目のみが選好するコーヒーショップでの十分条件であり、これらの評価項目では、差別化が難しく、基準が競合が多いことがうかがい知れる。
このようにMDSOによって得られた顧客ペアというごく少数のサンプルに、QCAを組み合わせることで、より詳細なブランド評価の仕方にアプローチするといったことができる点が本手法の利点である。
ただし、MDSOによって特定した顧客ペアが例外的に特殊な顧客である可能性は否定できない。そこで、本分析では最後に得られた顧客の特異性を分析するステップを用意している。
この目的のために、クラスターへの所属確率を求められるソフトクラスタリング手法を利用した。表4はFuzzy Cmeans法を用いて、ID2ならびにID45と他の顧客との距離から、所属確率を求め、セグメントサイズを推定した結果である。なお、MDSOは両極にある顧客となるため、その中間にもう一つ中心点を置き、3セグメントとして所属確率を推定した。
| ID2 | 中間 | ID45 | 計 | |
|---|---|---|---|---|
| 該当数 | 51 | 147 | 29 | 227 |
| 構成比 | 22.5% | 64.8% | 12.8% | 100.0% |
(出所)筆者作成。
このケースでは、MDSOで得られた顧客ペアは、両極にある顧客ではあるものの、類似する顧客が一定数いることがわかる。この分布で両極に分類される顧客が少ない場合には、QCAの結果などを総合的に勘案し、深く検討するには、特殊すぎるケースではないかといった判断をすることとなる。
本稿では、個々人の多様性を加味して、ブランドマネジメントに資する情報を得る方法の構築を試みた。その中でも、深く検討すべき顧客を抽出し、評価する部分に特化し、MDSO-MSDOアプローチとQCAならびにソフトクラスタリングとの手法の組み合わせによる分析方法を提案した。これらの手法をさらに有効な手法とするために、分析事例の蓄積が必要となる。とくに、以下の点を加味した分析拡張の必要を今後の課題としてまとめておく。
第一は、xにあたる評価項目が多数に及ぶ場合の変数選択手法の検討である。MDSO-MSDOアプローチではブロックごとにハミング距離を求めそれらを合成するという方法でこれらの課題を克服しているが、QCAとの連結を考えると、少数基準を前提とするQCAに変数を縮約もしくは選択する工夫が必要となる。
第二は、定性調査との組み合わせである。本事例ではアンケート調査データのみを分析対象としたが、対象を深く検討するといった観点からは、定性調査を組み合わせたデータを分析対象とすることが可能である。混合研究法アプローチとしては、定量調査と定性調査とを組み合わせたデータへの適用について検討を行う必要がある。