イノベーション・マネジメント
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論文
  • ―社会リスクの変化とビジネスオポチュニティ:三好武夫・後藤康男―
    片山 郁夫
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 1-38
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本研究では、日本の損保業界にあって積極経営で知られた安田火災の二人の企業家、三好武夫と後藤康男の戦略行動を分析する。三好は、モータリゼーション勃興期における極めて不確実性の高い環境にあった自動車保険事業への積極的な転換を図り、交通事故による社会的損害を軽減することに注力した。その際、彼はエフェクチュエーション理論に相当する意思決定を行い、限られた資源を活用しながら不確実性をコントロールする戦略を実行し、業界の大多数の企業がリスクを脅威であると捉える中で、機会と捉えることに成功した。一方、後藤は、CSV概念に通じる手法により、経済的価値と社会的価値をともに実現するべく、総合金融機関化、CSR活動、環境問題への取組みなどの戦略を実行し、企業としての長期的成長に貢献した。これらの戦略行動は、安田火災の企業価値向上に寄与したと考えられる。本研究は、企業家の戦略行動を読み解く上で、エフェクチュエーション理論とCSV概念の有効性を示すとともに、両者のプロセスを統合したモデルによる新たな解釈を提示する。

  • ―制度・組織革新とシステム形成の視点から(続・完)―
    河村 哲二
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 39-79
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    企業・金融・情報のグローバル化と政府機能の新自由主義的転換を主要なダイナミズムとして展開した経済グローバル化は、IT・ITC技術革新、金融革新を含む幅広い制度・組織革新を誘発し、アメリカを軸として「グローバル成長連関」という新たなグローバルな経済成長のシステムを出現させた。しかし、とりわけその金融メカニズムの制度不備・システム欠陥が最大の原因となって、アメリカ発のグローバル金融危機・経済危機が発生したことを最大の転機として、「ディグローバリゼーション」の趨勢が現れ、「グローバル成長連関」の変質と再編が進むこととなった。危機対応で異例に大規模な財政・金融その他の政府機能の発動により国家が再び前面に現れ、市場主義と新自由主義的理念は大きく後退した。主要国で国内成長連関を重視する動向が現れ、なかでも中国の成長戦略の転換は、アメリカの政治・軍事・経済覇権に挑戦するものとなったため、中国の「デカップリング」・「デリスキング」と先端技術の対中国流出規制などアメリカの国家戦略的対応によって、「ディグローバリゼーション」の構造的趨勢を生じた。そこに新型コロナのグローバル・パンデミック、ロシアのウクライナ侵攻が加わり、「地政学的リスク」などグローバルリスクと不確実性が拡大し、GSC/GVCの再編など、中長期的にも「グローバル成長連関」の分断化や再編と、ディグローバリゼーションの趨勢を促している。そうした動向は、複雑な要因が関係するが、再び大きな制度・組織革新とシステム転換をもたらすものである。

  • ―ネットワーク形成とロールモデル効果に着目したアクションリサーチから―
    姜 理惠, 戸田 江里子
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 81-99
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本研究は、従来の座学中心の女性起業家支援プログラムの限界を克服するため、「伴走サークル型支援プログラム」という新しいアプローチを提案・実施し、その効果を検証した。特に、帝国データバンク(2023)の調査で日本の女性経営者比率が全国平均(8.3%)を下回る北陸地方(7%)において、ネットワーク形成とロールモデル効果の観点から、女性起業家の成長促進要因を実証的に明らかにすることを目的とする。

    同プログラムは、座学とイベント出店や異業種交流会参加といったビジネス実践体験教育を取り入れた点が特徴の起業家支援プログラムである。このプログラム参加者を研究対象とし、2022、2023年度参加者88名のうち45名と、メンター2名に対して期中の参与観察と約3ヶ月後に定性調査を実施した。結果、「自発的・中期的なネットワークの形成」、「ロールモデル効果」が機能し、女性特有のキャリア中断やビジネス経験の不足を補って、プログラム終了後の自発的な起業家行動と継続へ繋がったことが明示された。結論として、ネットワーク理論の「弱い紐帯の強み」を生成し、ロールモデル効果を併用した「伴走サークル型支援」が、女性起業家育成に資する可能性を発見した。本研究の新規性は、①実践的な体験学習の効果の実証、②メンターによる伴走支援の効果の実証、③参加者間の相互学習を統合した支援モデルを提示する、の3点である。

  • ―支配、補完、共創による外部資源の獲得・活用と提携マネジメント―
    佐藤 拓
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 101-126
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    外部環境の変化が激しく、不確実性が高まり、国内外の競争が苛烈になる中、内部資源だけで持続的な競争優位性を獲得するのが困難となり、外部資源の獲得・活用が必要となってきている。外部資源を獲得・活用する手段として、80年代後半から「グローバルで」「戦略的な」提携、すなわち、国際戦略的提携で「協調」するケースが増えてきている。

    本稿では、日本の製薬企業が国境を越えた戦略的提携を、どのように活用しているのか、その成功に必要な要素は何か、について、提携類型別、戦略類型別に定量的、定性的に分析を行った。

    その結果、日本の製薬企業は、国際戦略的提携を通じ、内部資源の「補完」「拠出」よりも、知識等の内部資源を相互に持ち寄り、組織間学習を行い、新たなイノベーション創出を目指す「共創」に取り組んでいる。また、国際戦略的提携を通じた「協調」は、国境を越えた内部資源による「支配」に比して、企業の持続的競争優位性の獲得に寄与している。

    国際戦略的提携を成功に導くためには、信頼関係、相互の能力把握、組織間学習、経営陣のコミットメント、パートナー間多様性の活用などに加え、適切に提携を形成、マネジメントする能力と、提携相手にとって魅力的な内部資源・ケイパビリティ、「創薬力」が必要となる。

  • ―国防総省とパートナーの協働―
    鈴木 滋
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 127-145
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    米国では、軍事即応性と自然環境保護の両立を図る目的で、基地周辺の土地を保全する政策プログラムが運用されている。それらのプログラムには、REPIやセンチネル・ランドスケープス・パートナーシップなどがあり、国防総省と軍が主導しながら、その他の連邦政府機関、州や自治体、民間団体がパートナーとして協力する形で進められている。ランド・トラストは、それらパートナーの中でも注目すべき役割を果たしており、基地周辺の土地をエンクローチメントから防護し、軍の任務と適合した用途とするため、地権者からの購入や受贈により保全地役権を設定している。それらのプログラムは、明確な法的根拠と継続的な予算措置によって、所期の成果を挙げているものと見られる。また、基地周辺の土地保全はイノベーションをもたらす政策プログラムとしても認識されており、気候変動問題への対処という新たな目的を導入することで、政策的な「視界」を広げている。軍と自然環境保護の結びつきは、一見奇異な構図のようにも映るが、米国における基地環境問題を理解する上で有益な論点と言えよう。

  • ―降水量による林道災害の定量的分析―
    竹内 秀樹, 小林 靖和
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 147-173
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    森林は多くの利益を私たちに提供している。昨今、気候変動が深刻化するなかで、特に自然災害は森林や付随する林道設備等に対して多大な影響を与えるものであり、これとの関連を分析しておくことは、インフラとして重要な役割を担っている林道を考察する上で必須の課題であると考えられる。そのためには自然災害の種類、発生頻度、災害規模などについて過去からの傾向を調べる必要がある。本稿では62年間にわたる自然災害の推移、林道災害復旧工事歳出額などについて調べ、その相関関係を示した。それは降雨量に強い傾向があることが示唆された。また、林野庁の提供資料から、14年間にわたる国有林林道災害リストの林道のほぼ中央位置を割出し、災害発生日の降水量を調べ、その傾向を調査した。その結果、日降水量の合計50mmから150mmに対して、1時間降水量の最大は、特に10mmから35mm付近に集中し、このような要因の降雨イベントから林道災害の危険が高まり、近年の林道災害復旧工事歳出額が大規模化する可能性を示唆している。

  • ―事業停止が生んだスピンオフにおける刷り込みの分析―
    田路 則子, 福嶋 路, 五十嵐 伸吾
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 175-205
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本研究は、アルプス電気の盛岡事業部によるリストラと事業停止によって輩出されたスピンオフ現象を取り上げる。40社超のスピンオフのほとんどが生存をし続け、その中のいくつかは成長をしている。本研究は、それらスピンオフが20年超に渡って形成してきたスピンオフ・ネットワークを、過程追跡法に従って分析した。そのネットワーク形成と発展のプロセスは、アンカー企業の事業と組織文化(前提)、リストラによる一期スピンオフ出現(第一段階)、事業停止による二期スピンオフ出現(第二段階)、スピンオフ間インタラクション(第三段階)、スピンオフネットワークの発展(成果)であった。アンカー企業時代に刷り込まれた能力やルーチンをスピンオフが活用するという二次的刷り込みが起こり、分業や共同製品開発の際には、その能力やルーチンが更新されていった。

  • ―将来不安、顕示欲求を鍵として―
    樋口 広喜, 中村 文亮, 中川 功一
    原稿種別: 論文
    2025 年 22 巻 p. 207-218
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本研究は、日本の若者(Z世代)がX(旧Twitter)などのSNSにおいて「裏アカウント」を利用する理由と、その心理的背景を探求することを目的としている。裏アカウントの利用は、現代の若者がSNSを介してコミュニケーションを行う際に見られる典型的な行動であり、主な理由は、オンラインでの批判や誹謗中傷といった公的な監視を避けるためであると考えられる。我々は、若者が持つ特有の心理的状態が、こうしたオンラインでの批判への回避行動に影響を与えているという仮説を立てた。関東および関西地方の大学生581名を対象に実施した調査に基づき、将来に対する不安や自己顕示欲が、裏アカウントの利用に影響を与えていることが確認された。さらに、SNSの利用時間が長いユーザーやインターネットリテラシーが高い若者ほど、裏アカウントを利用する傾向が強いことも明らかとなった。これらの結果は、将来に対する期待や不安といった若者特有の心理的状態が、裏アカウントの利用につながっていることを示しており、彼らがインターネット社会においてある程度のストレスを抱えていることを示唆している。

査読付き投稿論文
  • ―王子ホールディングスによる共創的製品開発と事業転換―
    石﨑 啓太
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2025 年 22 巻 p. 219-235
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本稿の目的は、企業合併・統合後における、製品イノベーションを促進し、成長につながる企業再編に関する示唆を得ることである。企業は合理化の過程で検索範囲を限定させることにより、製品イノベーションの機会が低下する。しかし、企業合併・統合によって検索範囲を拡大することは、持続的競争優位性を高める有効な手段である。一方で、経営統合に関する調整コストの増加が阻害要因となる。そこで、本稿のリサーチクエスチョンを「同業種間での企業合併・統合を実施した垂直統合企業が、効率的に外部知識を導入し、製品イノベーションによる企業成長を促すには、どのような企業再編があるのだろうか」と設定し、王子ホールディングスの事例分析を行った。

    分析の結果、以下の示唆を得た。異なる出身企業の人材が「混ざり合う」組織体制を構築することで、合併企業および被合併企業の強みを活用した共創的な製品開発が行われ、製品イノベーションが促進される。また、川上と川下のバリューチェーンを伸ばし、それぞれで顧客に製品やサービスを提供する企業再編により、外部知識の導入が促進される。同時に、同一資源を活用したバリューチェーンを構築することで、社内のベクトルの一体化が進む。これらの手法を組み合わせることで、調整コストを低減しつつ、価値獲得と価値創造を通じた持続的競争優位性が高まる。

  • 海邉 健二, 大友 順一郎
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2025 年 22 巻 p. 237-259
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本論文では、①木質バイオマスを燃料とするバイオマス発電が持続的にコスト競争力を有するために必要となる炭素価格(Carbon Price; CP)の設定額と技術改善/技術革新の関係、②CPが導入された場合の設定額とバイオマス発電が一定のコスト競争力を有するために必要となる技術改善策と条件を技術シナリオに基づいて定量的に明らかにした。現状では木質バイオマス発電がコスト競争力を有するためには世界で最も高い北欧並みの100USD/t-CO2以上のCPを設定する必要がある。同発電コストに最も大きな影響を与える燃料・バイオマス自体のコストが現状の3割まで低減し、次世代の発電技術の1つである化学ループ法を用いた場合には発生するCO2を利活用することでCPを導入することなく設定した発電コスト目標(27.3JPY/kWh。CO2分離・回収コストを含む)と同等のコスト競争力を有することを定量的に明らかにした。

研究ノート
  • 佐野 竜平
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 261-272
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    シンガポールの障害者による労働および雇用政策は多岐に渡るが、障害者に関する基幹法による明確な障害の定義が存在するわけではない。シンガポール政府は「第4次イネーブリングマスタープラン(2022–2030))」を推進しており、障害者の労働および雇用にも力を入れている。国連・障害者人権条約に関する総括所見が2022年に発出され、労働および雇用政策のさらなる整備やシェルタードワークショップから開かれた労働市場への移行が勧告されている。

    障害者雇用を促進する手立てには、イネーブリングマークを利用した実践やオープンドアプログラム(ODP)等がある。シェルタードワークショップの事例としては、MINDS(シンガポール知的障害者運動)やレインボーセンターの実践を分析し、議論している。今後のシンガポールにおける障害者の労働および雇用政策については、シェルタードワークショップが運営上の課題に直面するなど、同じく2022年に採択された「障害者の労働及び雇用の権利に関する一般的意見第8号」に沿った対応が求められている。

  • 渋瀬 雅彦
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 273-289
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    成長の続くインフルエンサーマーケティングにおいて、企業からのスポンサーシップを受けたことを投稿内に開示することが義務付けられている。一方で、スポンサーシップを開示することによって、投稿の効果を抑制することがこれまでの先行研究で示されており、消費者保護の観点でスポンサーシップ開示の正の影響に関する研究知見が乏しい。本研究では、商業的意図を含む投稿であることが全面的に露見した場合に、スポンサーシップを開示することによる影響を明らかにすることを目的とした。情報源(メガ・マイクロ)と適合性に着目したシナリオ実験からデータを収集して、分散分析を用いて仮説検証を行った。分析の結果、マイクロインフルエンサーにおいて、(1)スポンサーシップを開示することにより、露見時の態度悪化が抑制されること、(2)適合性知覚が低ければ、スポンサーシップ非開示の場合に、露見時の態度悪化が促進されることなどが明らかとなった。本研究の意義は、商業的意図の全面的な露見時において、特定の情報源においてスポンサーシップ開示の効果を示したことである。

  • ―M&Aコンピタンスの視点から―
    丹下 英明
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 291-307
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    先行研究では、M&Aを成功させるための組織能力である「M&Aコンピタンス(M&A competence)」を獲得する企業の存在が明らかにされている。しかしながら、中小企業においてもこうした概念が適用できるのかについては、明らかにされていない。

    そこで本稿では、中村(2003)が示したM&Aコンピタンスの概念を援用して、M&Aを実施した中小企業の特徴を、質問票調査から探索的に分析した。その結果、以下の5点を明らかにした。

    第一に、M&Aを実施した中小企業の多くが戦略目標を策定している。また、戦略目標を達成する手段としてM&Aを選択している企業も多い。

    第二に、中小企業では主に経営者がM&Aを推進している。

    第三に、M&A推進体制の構築やM&Aプロセスのシステム化が十分でない企業が多い。

    第四に、経営者は、戦略目標達成の手段として、M&Aを重要な戦略として認識しているものの、社内に対してはM&Aを重視する意識を浸透できていない企業が多い。

    第五に、M&Aを実施する能力が競争優位の源泉となっている企業は多くはないものの、ポストM&A(買収後の経営統合)に必要な能力を有するとする企業が比較的多い。

  • ―GUESSS2021-2023 調査結果における日本のサンプル分析―
    松本 修平, 柳 淳也, 山田 仁一郎, 玉井 由樹, 藤村 まこと, 山田 裕美, 鹿住 倫世, 田路 則子
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 309-326
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本研究は、Global University Entrepreneurial Spirit Students’ Survey(GUESSS)における2021年調査と2023年調査の日本データを体系的に比較分析し、日本の大学生における起業意識の変化を明らかにすることを目的としている。分析結果は、日本の大学生における三つの特徴的な傾向を示している。

    第一に、安定志向の強化が観察され、大企業志向が強まる一方、創業希望者は減少している。第二に、起業に向けた具体的な行動を起こす学生が著しく減少している。特に、起業準備活動を「何もしていない」学生の割合が57.8%から95.8%へと急増している。第三に、女性の起業意思は男性の約3割という水準で推移しており、この男女差は世界的に観察される現象ではあるものの、日本の場合は特に顕著である。

    これらの知見は、日本の起業家育成における構造的な課題を示唆しており、実践的な起業家教育の充実、効果的な女性起業家支援枠組みの確立、そして段階的な起業支援基盤の構築など、より包括的な支援体制の必要性を示している。

査読付き研究ノート
  • ―「共豊潤縁」基軸パラダイムへの転換―
    池田 啓実, 齊藤 弘久
    原稿種別: 査読付き研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 327-347
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    本稿の目的は、資本主義経済では当たり前とされてきた経済成長を基軸とする生活の豊かさ実現パラダイムはすでに不適合状態にあるため、それに代わる新たな基軸パラダイムの特定とその体現手段を明らかにし、その手段の企業活動のあり方や社会的存在価値向上に対する効果を解明することにある。分析の結果、経済成長の基軸機能は、経済成長の3要素が、資本ストックは過剰、労働人口は低下、技術進歩もその動力源の物質的欲望の拡張限界からプラス成長が望めないためすでに不全状態にあること、新たな基軸は、我々が「共豊潤縁(Co-Flourishing Relationality)」と呼ぶ「自己が他者や自然と互いに豊潤となるつながり」にあることを見出した。さらに、「共豊潤縁」の醸成・拡大・多様化は、公富(public wealth)創造の基盤であるCo-Innovationコモンズ・エコシステムによって実現しうること、企業のCo-Innovationコモンズへの参画は、公富創造の貢献を通じた企業の社会的存在価値の上昇と、企業利益重視の経営では得られない、技術、経営、感性の3成分のイノベーション創発を体現し、かつ創発手段をエンクロージャーから共有資源(使用価値)の共創へ転換しうることを理論的に明らかにした。

  • ―タイ日系製造業のホワイトカラーとブルーカラーを対象に―
    桶川 理恵
    原稿種別: 査読付き研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 349-367
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    海外展開する多くの日系企業が日本とは異なる文化や人事制度などに相対し、現地人材のマネジメントにおいて様々な課題に直面していると言われるが、従業員エンゲージメントに影響を及ぼす心理的要因は何であろうか。本論文ではタイ日系製造業のホワイトカラーとブルーカラーを対象にオンラインの質問紙調査を実施し、重回帰分析によって従業員エンゲージメントに影響を及ぼす心理的要因を比較した。結論として、ホワイトカラーとブルーカラーでは共通点が多い一方で、相違点もあることが示された。共通点としては、共に意思決定への関与と自己成長への取り組み、ワークライフバランスが従業員エンゲージメントに正に影響を与える。一方、相違点としては、ブルーカラーのみ組織への一体化が従業員エンゲージメントに正の影響を与える。また、その結果を基に、タイの社会や文化、日系企業の特性が、両グループの従業員エンゲージメント向上の要因に影響していることを明らかにした。

  • ―三方よし理念の由来の視点から―
    三木田 尚美
    原稿種別: 査読付き研究ノート
    2025 年 22 巻 p. 369-383
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/03/31
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    企業経営に持続可能性が求められる昨今、企業のあり方の拠り所である経営理念の重要性が高まっている。近年では、持続可能性に関連する新しい概念、例えば持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)やステークホルダー資本主義、企業の存在意義としてのパーパスなどが導入され、それらの文脈において三方よしという言葉を目にする機会が増えている。一般的に近江商人の経営理念として見聞きすることが多い「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしは、現在では「近江商人の到達した普遍的な経営理念をごく簡略に示すためのシンボル的標語」と位置付けられている(末永, 2004)。一方で、「自分よし、相手よし、第三者よし」の三方よしはモラロジー(道徳科学)を由来とするものとして知られ、日本で最初の三方よしの表現者は廣池千九郎であり、1930年代には企業で使用されていた可能性が高いとされている(大野, 2011, 2012;末永, 2014, 2023)。三方よしという同じ言葉で表現される経営理念をもつ企業は数々存在する中、その言葉の由来による経営理念の特徴については着目されてこなかった。本論文では、三方よし理念を持つ企業の中から近江商人を由来とする企業とモラロジーを由来とする企業を対象として探索的研究を行い、新たな仮説を導出した。

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