イノベーション・マネジメント
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最新号
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論文
  • 梅崎 修, 島貫 智行, 佐藤 博樹
    原稿種別: 論文
    2024 年 21 巻 p. 1-14
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    本稿の目的は、中堅・中小企業における人事施策の導入効果について企業調査を用いて探索的に検討することである。特に人事施策を導入してから効果をもたらすまでの時間に差がある可能性を議論したい。従業員のキャリア形成、労働時間管理、労使関係に関する人事施策を取り上げ、その導入時期を考慮して、従業員の労働意欲と改善提案に与える影響、さらに経営業績に与える影響を統計的に検討した。分析結果によれば、導入後に比較的短期で効果を発揮する人事施策も一部にあるものの、多くの人事施策は導入から一定の期間を経て効果を発揮することが確認され、人事施策の遅効性の存在が示唆された。その背景として、遅効性のある人事施策は導入された後、労使双方がすぐに使いこなすことができないが、人事施策の使い方に慣れることで徐々に効果を発揮したと解釈できる。加えて本稿では、遅効性のある人事施策であっても、なぜ導入が進まないかを考察した。一つの解釈は、中堅・中小企業が人事施策について長期的な展望を持てていないというものである。もう一つの解釈は、人事施策の効果は把握していても、資金も人材も長期的な計画を立てる余裕がないというものである。最後に、企業がこれらの改善を検討することで得られる潜在的な利益を示すことを提案した。

  • ―電通創業者光永星郎が構想したパーパス経営―
    片山 郁夫
    原稿種別: 論文
    2024 年 21 巻 p. 15-34
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    現代はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と呼ばれ、社会全体の先行きが不透明で予測困難であるとされる。そのため、社会全体として持続可能性(サステナビリティ)が課題とされ、企業にはパーパスを起点とした企業価値創造が期待されている。

    本稿では、電通の創業からの発展と創業者光永星郎の企業家活動にフォーカスすることで、現代企業におけるキーワードであるパーパス経営について考察する。光永は1901(明治34)年に電通(日本広告・日本電報通信社)を設立し、通信社と広告会社の兼業ビジネスを開始した。当時は、通信社も広告会社も事業経営が不安定で、特に広告会社は営業手法の未熟さゆえに社会的地位が低かった。そのような時代に創業した電通の発展プロセスと光永の経営哲学である「臥薪嘗胆」、「広告会社の近代化を目指した社是」、「信条『健・根・信』」を踏まえると、光永が志向したパーパスは「通信・広告の力で世界に正確な情報を迅速に届ける」ことだったと考えられる。

    現代企業にとって、パーパス経営は企業経営上の重要な概念であり、企業は自社の存在意義を問い直し、パーパスを社会的な関わりの中でしっかりと位置づける必要がある。今後多くの企業が本質的な意味でのパーパス経営を実践するためには、電通で見られたように経営理念や経営哲学など創業以来の歴史的背景を踏まえて、従業員をはじめとするステークホルダーの共感を得ることが重要であろう。

  • ―制度・組織革新とシステム形成の視点から―
    河村 哲二
    原稿種別: 論文
    2024 年 21 巻 p. 35-70
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    1990年代に顕著となったグローバリゼーションの潮流は、アメリカの経済グローバル化を最大の震源として進んだ。それは、第二次大戦後、1950・60年代に全盛期を迎えた、アメリカを筆頭とし、西ヨーロッパ、日本等の先進諸国・地域を中心として高い水準の経済成長が続いた「持続的成長」のシステムが、1960年代末から機能不全に陥ったことに対応して、企業の経営革新・金融革新の模索と、それと相互促進的にIT技術革新が大きく誘発されたことを基本動因として進んだものであった。アメリカの国内企業システムや金融システムの転換と並行しながら、企業・金融・情報のグローバル化と、それを促進する政府機能の新自由主義的転換が進み、西ヨーロッパ、日本など先進諸国・地域と並んで、BRICs諸国や「成長するアジア」を巻き込んで、経済グローバル化が大きく進んだ。その結果、アメリカを中心としてグローバルに経済成長を加速する新しい経済システムとして、「グローバル成長連関」―「グローバル・シティ」の都市機能とそのネットワークの重層的発展およびニューヨーク金融ファシリティをグローバル・センターとするグローバルな資金循環構造(「新帝国循環」)が複合した関係―が出現した。それは、企業・金融の制度・組織革新・情報技術革新、および政府機能の革新による経済システムの転換として捉えることができる。

査読付き投稿論文
  • ―サイモンの人工物論の観点から―
    今川 智美, 中川 功一
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2024 年 21 巻 p. 71-85
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    日本企業において、DXを推進するための組織要件は何か。本研究では、サイモンの人工物論を用い、組織のインフォーマルな側面がその鍵ではないかと試論し、検証する。いわゆる日本的経営では組織のフォーマルな構造からは抜け落ちる、インフォーマルな側面が濃く存在していることが知られている。マニュアル・ルールにはない、ジョブ・ディスクリプションに書かれていない仕事や部門間でのヨコの調整である。そうしたものがあって日本企業の経営は成立しているとされる。

    しかし第4次産業革命を引き金とした変化のなかで、この日本の経営の特徴が不適合を引き起こしている可能性が想定される。サイモンの人工物論に拠れば、組織のかたちと、そこから生み出される人工物のかたちは基本的に一致していることが求められる。ITシステムという人工物の要求する組織のかたちは、インフォーマルな側面が最小化された組織だと想定される。それゆえ日本企業はDXを進めづらいと考えられるのである。

    日本企業のいまを捉えようとした組織調査2020のデータを用いた分析からは、確かに組織のインフォーマルな側面が少ない:マニュアル・ルールが充実しており、またヨコのコミュニケーションの必要性が少ないほどに、DXが推進されやすいことが明らかになった。このことから、第4次産業革命の中、日本企業はその特徴でもある組織のインフォーマルな側面とどう向き合っていくのかを考えねばならないことが指摘される。

  • ―小原歯車工業事例研究―
    千葉 敦
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2024 年 21 巻 p. 87-106
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    歯車市場において、顧客は多品種少量生産を求める。短納期の多品種の製品提供を低コストにて実現するという本来矛盾する課題にあえて挑み、その課題解決をはかる企業を捉えた。本稿では、内部資源、組織外部のコンテクストや時間軸を考慮しつつ、企業がどのような戦略的な意思決定のもと、ビジネスシステムを変革することで、オリジナルのビジネスシステムをいかにつくったかを明らかにしようと試みた。過程追跡法の視点から、経営者の意思決定にまで立ち返ることで、ビジネスシステムの変革を成し遂げ、持続成長する企業の成功要因とその因果メカニズムを解明した。

  • ―文献レビューを通した課題と展望―
    宮後 圭佑, 佐藤 夏輝, 小村 亜唯子, 平井 裕久
    原稿種別: 査読付き投稿論文
    2024 年 21 巻 p. 107-125
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    2010年代以降、不正会計検知モデルの構築を目的として、財務指標を特徴量とする研究だけではなく、テキスト分析によって抽出されたテキストに関する要素を特徴量とする研究が進展している。このレビューでは、米国市場の上場企業のForm 10-Kのテキストを用いて不正会計検知モデルを構築した研究を対象として、特徴量の抽出過程や構築したモデルの検知精度などに焦点を当てながら、2010年から2020年までの8本の文献のサーベイを行う。レビューを通して先行研究の成果を整理した上で、次の5つの課題を提示した。1)“bag of words”アプローチによる研究は、抽出された特徴量(単語)がなぜ不正会計検知に寄与したのかについての解釈と理論化に課題がある。2)テキストに関する特徴量と、財務指標の特徴量の間には不正会計検知について補完関係がある。今後の研究では、どのような財務指標がテキストに関する特徴量と高い補完関係を有するのかを明らかにする必要がある。3)分析対象をForm 10-K全体とする場合と、MD&Aセクションなどの特定のセクションに限定する場合での不正会計検知モデルの精度比較がされていない。4)不正会計サンプルと非不正会計サンプルのサンプリングとしてマッチドサンプリング以外の方法を採用する研究蓄積と、5)時系列データによるモデリングを行う研究蓄積が必要である。

研究ノート
  • ―大隅テリトーリオの事例から―
    木村 純子, 二階堂 行宣, 佐野 嘉秀, 藤本 真
    原稿種別: 研究ノート
    2024 年 21 巻 p. 127-147
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    本稿は、農水産物をもとに食品の価値を生み出す流通プロセスをフード・バリューチェーンとして捉え、農水産物の生産を起点とする地域発展のモデルを導出する。フード・バリューチェーンの中で重要な役割をはたすアクター(当事者)として、地域の複数の農水産物生産者から直接、農水産物を仕入れ、加工等を行い、国内外の市場に向けた流通に乗せる事業者・組織に焦点を当てる。彼らは、農水産物の生産者である第一レイヤーと直接取引関係にある第二レイヤーに位置するアクターである。イタリアに見られるようなテリトーリオ戦略を日本にそのまま適用することは難しいが、2次産業の地元中小企業が中心となって、農家の自律を助け、農村の持続可能性を実現していることが考えられる。第二レイヤーのアクターは、地域の共有財である農水産物を活用したフード・バリューチェーンを自発的に力強く支える当事者となりうる。すなわち、第二レイヤーのアクターが、経済的利益の確保に向けて地域の農水産物生産者とのあいだに互酬的な取引関係を築くことで、国内外の消費者に向けて価値ある食品を安定的に流通させられる。また、フード・バリューチェーンの安定的な継続を背景に、第一・第二レイヤーの生産者や事業者・組織が、地域の農水産物資源の価値を再認識することで、互酬的取引関係がより強固となり、地域ブランドの価値向上や、商品を超えた地域アイデンティティの共有につながる場合もある。

  • 佐野 竜平
    原稿種別: 研究ノート
    2024 年 21 巻 p. 149-159
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    高度な経済成長を見せている東南アジアにおいて、多くの障害者が農林水産業に従事していると言われている。企業や団体による障害インクルーシブな事業に対して現地の投資家や消費者が関心を高めている中、農林水産業における慈善に留まらない障害者の役割の解明が必要となっている。一方、障害者はそのユニークな経験や生活スタイルから固有の知識である暗黙知があるとされるが、そこに焦点を当てた研究結果が集約されているとは言い難い。そこで、東南アジアの農林水産業に貢献する障害者が持つ暗黙知に関する調査を行い、イノベーションの源泉の検証を行った。障害者の事例を丁寧に掘り起こし、バリューチェーン上で現地に生きる障害者の暗黙知と各事業の主な論点の関係を明らかにする試みである。さらに分析の詳細を考察し、障害者の持つ知識の強みを明確にしつつある。本研究ノートでは、事例分析のポイント、カテゴリー等を整理した上で事例の概要を述べ、今次研究で明らかになった障害者の暗黙知と持続可能な農林水産業の要素を論じ、今後の整理につなげている。

査読付き研究ノート
  • ―なぜ、新薬市場は小規模化するのか―
    山崎 挙央
    原稿種別: 査読付き研究ノート
    2024 年 21 巻 p. 161-177
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    昨今開発される新薬は、バイオ薬や分子標的薬といった新しい類型の製品に移行している一方で、その新薬の適応市場は小規模化する傾向がある。バイオ/分子標的薬開発への移行は、医薬品企業にとっては、開発・製造コストが嵩み、高いスイッチング・コストや高い開発結果の不確実性というリスクをとる必要がある。それにもかかわらず、開発された新薬の適応市場が小規模化するということは、製品開発イノベーションの一般的な概念からは一見矛盾する。

    直近、約20年の肺癌領域の新薬開発の事例を調べると、技術の社会的形成論に沿った「治療標的の具体化」、「バイオ・分子標的薬の登場」、「適応力患者の限定」という3つの局面の相互関係の中で開発が進み、「臨床的価値の向上」という条件を満たして創薬されるという新薬開発プロセスの変化が明らかになった。「新薬市場の小規模化」という現象は、新薬開発プロセスの一つの局面として捉えることができる。

資料
  • ―文献調査とインタビューによる研究―
    安齊 順子, 宮田 はる子, 金築 智美, 末武 康弘
    原稿種別: 資料
    2024 年 21 巻 p. 179-191
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    本研究は、心理職の国家資格として誕生してからまだ歴史の浅い公認心理師が、今後、産業・労働分野において活躍の場を広げ、貢献していくための手がかりを見出すことを目的とした。時代の変化にともないストレスが増す産業領域の背景や課題を理解し、文献調査により産業・労働分野におけるメンタルヘルス支援、心理学的視点で関わってきた人物や活動の歴史を概観した。この分野で長く活躍している心理士へのインタビューも参考に、この領域で活動する公認心理師の今後の展望を考察した。

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