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論文
消費税法におけるインボイス方式の導入
菊谷 正人
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2023 年 20 巻 p. 47-84

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要旨

1988年12月に消費税法によって公布され、1989年4月に施行された消費税は、油・酒類・タバコを除く広範な物品・サービスの供給に課される間接税である。わが国おける消費税は、製造・流通過程の各段階で課税され、かつ、その製品の最終消費者に担税させる附加価値税(VAT)でもある。VATとは、事業者が販売時に課税され、税務当局に売上税額を報告するが、事業者自身の購入品に支払う仕入税額を取り戻すことができる多段階一般消費税である。わが国では、消費税導入時から仕入税額控除の方法として会計帳簿に基づいて帳簿方式が採用されてきた。2023年10月1日には当該税額控除の方法は、インボイスに基づいて仕入税額を売上税額から控除するインボイス方式に変更される。インボイスは、課税事業者が他の課税事業者に課税物品を供給する際に交付する必要がある。本稿では、帳簿方式とインボイス方式における特徴と問題点が比較的に検討される。

Abstract

Consumption tax which was promulgated by the Consumption Tax Law in December 1988 and then was implemented in April 1989 is an indirect tax charged on the supply of a wide variety of goods and services excluding oil, alcohol and tabacco. Consumption tax in Japan is charged at each stage of the production and distribution process and is also a value added tax (VAT) in that tax due should be borne by the final consumer of the product. VAT is a multi-stage general consumption tax which traders are required to charge on their sales and must report the output taxes charged on sales to tax authorities, but they can claim refunds from the tax authorities of the input taxes which they pay on their own purchases. In Japan, an account method has been used as the method of determining the amount of tax credit for input taxes paid on purchases on the basis of accounting books since the consumption tax was first implemented. From 1st October 2023, the tax credit method will change to an invoice method in which output tax charged on sale is deducted from input tax paid on purchase, basing on invoices. An incvoice must be normally issued when one tax-registered trader supplies a taxable product or service to another tax-registered trader. This article compares the characteristics and the issues arising in an account method and an invoice method.

1.  はじめに

わが国における「消費税法」(昭和63年法律第108号)は、昭和63年(1988年)12月30日に公布され、平成元年(1989年)4月1日から施行された。「消費税法」の公布・施行によって、わが国における間接税体系・直間比率は大幅に変化し、昭和24年(1949年)9月15日に公表された『シャープ使節団日本税制報告書』(Report on Japanese Taxation by the Shoup Mission:以下、「シャープ勧告」(Shoup Recommendations)という)の提言を受けて改正された昭和25年税制改正以来の大変革となった。令和3年(2021年)度における国税の割合としては、所得税が32.5%、法人税が15.7%であり、消費税は35.3%である(財務省HP)ので、もはや国税における基幹税の一翼を担っている。

わが国の消費税は、EU型の「附加価値税」(value added tax:以下、VATと略す)と同様に、製造から小売りまでの複数の取引段階で課税される「多段階一般消費税」(multiple-stage general consumption tax)であり、前段階取引の消費税額を控除できる「附加価値税」である。つまり、前段階取引の消費税額である「仕入税額」(input tax paid on purchase)を排除する「前段階税額控除法」が採用されている。その場合、仕入税額の累積を排除する「仕入税額控除」(tax credit for input tax paid on purchase)の方法としては、(a)仕入に含まれる消費税を税額票(tax invoice)に明記することを条件にして「仕入税額控除」を認める「インボイス方式」(invoice method)、(b)会計帳簿(accounting book)に記載された売上高に消費税率を乗じた「売上税額」(output tax charged on sale)から、会計帳簿に記載された仕入高に算入されている「仕入税額」を控除する「帳簿方式」(account method)に大別されるが、わが国では、「消費税法」の導入時から(b)帳簿上の売上高・仕入高から仕入税額控除を認める「帳簿方式」(「アカウント方式」ともいう)が採択されている。

平成28年(2016年)に安倍晋三内閣は、「所得税法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第15号:以下、「平成28年改正法」という)を公布し、「平成28年改正法」に基づいて「帳簿方式」を廃止し、「インボイス方式」を導入するために、「消費税法」を抜本的に改正した(以下、平成28年以後に改正された消費税法は「新消費税法」という)。したがって、平成28年に改正された「新消費税法」は「インボイス制度の導入立法」と称されている。平成28年の消費税法改正に伴い、平成30年(2018年)6月6日には、「インボイス制度」の導入を前提にした「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達」(以下、「インボイス通達」という)が国税庁から発出された。それに伴い、「インボイス方式」に寄せられた質問・疑問点に応えるために、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(以下、「インボイスQ&A」という)も国税庁から平成30年6月6日に公表され、平成30年11月、令和元年7月、令和2年9月、令和3年7月に追加・改訂が重ねられた。

また、「所得税法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第11号:以下、「令和3年改正法」という)により、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年法律第25号)(以下、「電子帳簿保存法」と略す)が令和3年(2021年)に改正され、令和4年(2022年)1月1日から施行されている(ただし、「令和3年改正法」によって2年間の宥恕期間が設けられている)。急速に進展した経済の電子化(digitalisation of the economy)、それに伴う企業のデジタライゼーション(電子化)あるいはデジタル・トランスメーション(digital transformation:DXと通称されている)に対応できるように令和3年に改正された「電子帳簿保存法」が認める帳簿保存法としては、①電子データ保存(帳簿類をそのまま電子的に保存する方法)、②スキャナ保存(紙文書をスキャナ・デジカメ・スマートフォンなどで保存する方法)、③電子取引情報保存(請求書等の取引記録をそのまま電子的に保存する方法)が列挙されている。「電子帳簿保存法」の規定に従って保存が義務付けられている書類で、一貫して電子計算機を使用して作成したものについては、「電磁的記録」による保存をもって「書類」の保存に代えることができる。「電子帳簿保存法」の改正によって、インボイスに係る電磁的記録の普及も目論まれている。

さらに、「所得税法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第11号)が令和4年3月31日に公布され、それに関連する政令等(「消費税法施行令等の一部を改正する政令」(令和4年政令第139号)、「消費税法施行規則等の一部を改正する省令」(令和4年省令第18号)等)も公表され、「インボイス制度」に係る各種の見直しが行われた。それに伴い、「インボイスQ&A」も令和4年4月に最終改訂されている。

これらの法規等によって、消費税インボイス制度は令和5年(2023年)10月1日に導入されるので、従来の「仕入税額控除の方法」とは大幅に変更されることになる。本稿では、平成元年4月1日に施行された「消費税法」における主な諸規定の変遷を概観した上で、主要テーマである「仕入税額控除法」として、平成元年4月1日から令和5年9月30日まで利用される「帳簿方式」(厳密には、「帳簿・請求書等保存方式」と「帳簿・区分記載請求書等保存方式」に分けられる)、及び令和5年10月1日から適用される「インボイス方式」の特徴と課題について比較分析的に検討を加える。

2.  消費税法における主な諸規定の変遷

日本税制史上、初めて採用された「一般消費税」(general consumption tax)としては、「取引高税法」(昭和23年法律第108号)の施行により「取引高税」(turnover tax)が昭和23年(1948年)9月に導入された1。大東亜戦争敗戦後における破局的なインフレーション下で所得税・法人税の減税を実施するに際して、その減収分の一部を補い、敗戦処理費等の巨額歳出を補填できる財政基盤を確保するために、芦田 均内閣により「多段階累積型の一般消費税」である「取引高税」が採用された。なお、取引高税は、1916年にドイツで導入された「商品取引印紙税」(Warenumsatzstempelsteuer)を模範としたので、納付方法には印紙納付が採られている(菊谷(2008)84頁)。

この取引高税には、印紙を消印して交付する納税手続きに煩雑性が伴うとともに、最終消費段階に至るまで取引回数の多い物品・サービス(goods and services)ほど租税負担が累積して高くなる欠点があり、事業者から印紙貼布法・累積的課税に対する反発が非常に強かった。昭和24年(1949年)5月10日に来日したシャウプ税制使節団(Shoup Mission)が取引高税を評価しなかったこともあり、取引高税に反対を表明していた吉田 茂内閣によって、昭和24年12月31日をもって廃止された(佐藤(1973)154頁、米原・矢野(1989)15頁、佐藤・宮島(1990)9頁)。

昭和25年(1950年)には、戦後の税制に多大な影響を与えた「シャープ勧告」の提言によって日本税制は全面的・抜本的に改革されたが、その改革案のうち都道府県の有力な財源として「事業税」の代わりに「附加価値税」が地方税法(昭和25年法律第226号)によって創設されている2金子((1976)63頁)が指摘したように、この勧告は、世界における最初の附加価値税創設の試みとして興味ぶかい。その先進性にもかかわらず、附加価値税の制度化は国民の強い反対を受け、実施時期が再三延期された後、昭和29年(1954年)に廃止された(知念(1995)188頁)。それ以降、平成元年4月1日に「消費税法」が施行されるまで、「一般消費税」の論議は完全に消滅した形で日本税制は展開されてきた。

ただし、昭和48年(1973年)秋のオイル危機、それに伴う景気低迷・税収縮減により赤字国債の発行を余儀なくされた危機的財政状況下で、「政府税制調査会」(以下、政府税調と略す)は昭和52年(1977年)10月に『今後の税制のあり方についての答申』を作成し、「広く一般的に消費支出に負担を求める新税」の導入を提案していた。この答申に基づいて大平正芳内閣は、「一般消費税(仮称)」を昭和55年(1980年)度中に実現するという方針を盛り込んだ「昭和54年度税制改正の要鋼」を昭和54年(1979年)1月に閣議決定した。「一般消費税(仮称)」では、「多段階累積排除型の一般消費税」、すなわち「前段階税額控除法」を利用する「附加価値税」が提案された。その場合、前段階の消費税額(仕入税額)を排除する方法としては、帳簿上の記録に基づいて仕入税額を控除する「帳簿方式」が採用され、税率は5%の単一税率(地方消費税を含む)であった。「一般消費税(仮称)」の法案化は進んでいたが、昭和54年(1979年)10月の衆議院総選挙運動期間中に大平首相が財政再建のために一般消費税の必要性を主張したことに対して、多方面から反発が起こり、「一般消費税」の導入を断念せざるを得なくなった。

昭和60年(1985年)春の通常国会で大型間接税の問題が取り上げられ、これに呼応して中曽根康弘首相は、「シャウプ勧告」以来の抜本的税制改革について政府税調に諮問した。政府税調は、昭和61年(1986年)10月に「税制の抜本的見直しについての答申」をまとめ、所得税・法人税の減税、利子課税の見直しとともに、一般消費税の導入を提案した。一般消費税としては、製造業者売上税(manufacturer!s sales tax)、小売売上税(retail sales tax)及び日本型附加価値税(納税者の事務手続の簡素化のために請求書・納品書等をインボイスとして活用する附加価値税)の三類型が提言されている。この答申を基調にして「自民党税制調査会」(以下、自民党税調と略す)も検討に入り、租税中立性(neutrality of tax burden)、インボイスによる租税転嫁(shifting of tax)の明確化、納税義務者(tax payer)の相互牽制等を理由にして「附加価値税」を採用し、それを「売上税」(sales tax)と改称した。「売上税」は、税額表(インボイス)に基づいて仕入税額を控除する「インボイス方式」による附加価値税であり、その税率は5%の単一税率(single tax rate)である。政府は「昭和62年度税制改正の要鋼」を閣議決定し、昭和62年(1987年)2月4日に「売上税法案」を国会に提出した(森信(2000a)142–143頁)。ところが、売上税導入に対して国会は長期にわたり空転し、5月27日に通常国会が閉幕されたのに伴い、「売上税法案」は廃案となった(水野(2000)209–210頁)。

昭和62年(1987年)11月に発足した竹下 登内閣が、同年10月に中曽根内閣により閣議決定されていた「税制の抜本的改革に関する方針」(所得・消費・資産等の均衡のとれた安定的な租税体系構築と直・間税率比率の是正の提案)に沿って、税制全般の見直しを政府税調に諮問した。昭和63年(1988年)6月に「税制改革についての答申」が政府税調によってまとめられ、多段階一般消費税(附加価値税と取引高税)のうち、「帳簿方式」による附加価値税の導入が提案されている。同時進行的に、自民党税調も6月には「税制の抜本的改革大鋼」を作成し、「附加価値税」を「消費税」(consumption tax)に改称して、翌年の4月から導入する旨を決定した。

これを受けて竹下内閣は、昭和63年7月に「税制改革法案」、「所得税法の一部を改正する法律案」、「地方税法の一部を改正する法律案」、「地方譲与税法案」、「地方交付税法の一部を改正する法律案」および「消費税法案」を閣議決定し、国会に提出した。これらの税制改革関連6法案は、野党に審議拒否されながらも、自民党・公明党・民社党の3党協調により同年12月に強行採決され、平成元年(1989年)4月1日から施行された。

「税制改革法」(昭和63年法律第107号)によって、所得税・法人税・相続税・贈与税の負担を軽減し、国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するために、消費に広く薄く負担を求める「消費税」の創設が法定された。多段階一般消費税である「消費税」が導入されたことによって、酒・たばこ・石油関連の個別消費税(excise tax)を除き、物品税、砂糖消費税、入場税、通行税、トランプ類税、木材取引税・電気税・ガス税等の個別消費税は廃止された(税制改革法第7条~第10条)。

税率は、広く薄く一般的に消費支出に負担を求めるために、諸外国に比べて非常に低い3%であった。すべての物品・サービスの消費支出を課税対象にして、単一の税率で課税されるならば、消費者にとっては利用可能な物品・サービス間の相対価格を変化させないので、異なる物品・サービス間の選択に関して中立的であり、消費選択の阻害要因にならないという長所がある。「租税中立性」とは、個人または法人の経済活動、ここでは消費行為(consumption behavior)に干渉しないことをいう(菊谷(2008)105頁)。

しかしながら、竹下内閣で制定された「消費税法」は、大平内閣による「一般消費税(仮称)」の法案化断念、中曽根内閣による「売上税法案」の廃案という失敗を活かし、事業者(納税義務者)の反発を和らげるために政治妥協的に特例措置を容認した。たとえば、小規模零細事業者の納税事務負担軽減や徴税執行的配慮の観点から、課税期間の「基準期間」(個人事業者には前々暦年、法人には前々事業年度)における課税売上高(税抜き)が3,000万円以下である事業者に対しては、消費税の納税義務を免除する「免税点制度」(tax exemption threshold system:「免税事業者制度」ともいう)が採用されている。本来、消費一般に広く薄く課税する「消費税」の創設趣旨、経済的中立性を担保するためには、「免税事業者」の設定は避けるべきである。免税点制度導入の最大の理由は、小規模零細事業者の納税事務負担の軽減にあったが、野口((2003)33頁)の指摘を待つまでもなく、青色申告事業者・法人である限り、「正規の簿記」による記帳、正しい帳簿書類等の備え付け・整理保存が義務付けられているのであるから、これは奇妙な論理・政治的配慮であるとしか言いようがない。わが国の「消費税法」は、政治的妥協の産物として、消費税の最終負担者(担税者)である消費者よりも、政治的圧力団体である事業者(納税義務者)の立場に立って制定されたと言っても過言ではない。

また、課税売上高が5億円以下である事業者(免税事業者を除く)に対しては、実額による前段階消費税額(仕入税額)の計算・事務処理が過重負担になるので、実額による仕入税額控除に代えて、80%(卸売業には90%)の「みなし仕入率」で前段階の仕入税額を算出・控除する「簡易課税制度」(simplified tax system)が導入された。

さらに、取引ごとの税額別記の税額票による「インボイス方式」の採用が中曽根内閣の「売上税法案」では商工業者の猛反対に遭遇した経緯を踏まえ、帳簿上の売上高・仕入高から消費税額を計算する「帳簿方式」が採択されている。「帳簿方式」では、帳簿上の売上高・仕入高から消費税額を計算し、帳簿によって申告できるので、取引ごとに消費税額を個別計算する税額票(インボイス)は必要ない。

しかしながら、これらの制度は消費税の納税免除あるいは益税を法律的に容認したことになる。ちなみに「益税」とは、消費者が支払った消費税を事業者の手許に残す現象のことである。消費税の納税義務を免除された「免税事業者」、「みなし仕入率」を選択適用できる簡易課税によって消費者が負担した消費税は国庫に入らず、中小事業者の手許に益税として残る。導入当初の調査では、個人・法人を含む事業者の約65.7%が「免税事業者」に該当し、「簡易課税制度」を適用できる年間売上高3,000万円超・5億円以下の事業者は全事業者の約30.5%(免税事業者を併せると実に約96%)であった(金子(1992)398–399頁)。井堀((2003)164頁)も指摘するように、消費者が負担した消費税が国庫に入らないで、中小事業者の懐に留まってしまうのであれば、納税意識も向上しないし、租税制度に対する不信感も増大する。わが国の消費税には、創立当初から「益税」という制度上の欠陥が内包されていた。

このような制度上の欠陥を解消するために、海部俊樹内閣によって「消費税法の一部を改正する法律」(平成3年法律第73号)が平成3年(1991年)5月15日に公布され、同年10月1日から施行されている。平成3年の消費税法改正によって、益税解消策としては、簡易課税制度の適用上限を5億円から4億円に引き下げ、適用対象事業者を縮小するとともに、実際の仕入率に近づけるために「みなし仕入率」は2区分(卸売業に90%、卸売業以外の事業に80%)から4区分(卸売業に90%、小売業に80%、製造業等に70%、その他の事業に60%)に細分化されている。

平成6年(1994年)の村山富市内閣による消費税法改正時には、簡易課税制度の適用上限を4億から2億円に引き下げ、適用対象事業者をさらに縮小したが、消費税の税率は3%から4%に引き上げられるとともに、新たに消費税率1%に相当する「地方消費税」が創設された。ただし、消費税に係る改正は平成9年(1997年)4月1日から施行されることとし、所得税・個人住民税の減税が平成7年(1995年)4月1日より先行実施された。

平成8年(1996年)の消費税法改正では、橋本龍太郎内閣によって簡易課税制度における「みなし仕入率」が4区分から5区分(第一種事業(卸売業)に90%、第二種事業(小売業)に80%、第三種事業(製造業・農業・漁業・鉱業・建築業・電気業・ガス業・熱供給業・水道業)に70%、第四種事業に(飲食店業・金融保険業等)に60%、第五種事業(サービス業・不動産業・運輸通信業)に50%)に細分化された(消令57①)。「みなし仕入率」の改正は、平成6年(1994年)の消費税法改正と併せて、平成9年(1997年)4月1日以後に開始する課税期間から施行されることになった。

小泉純一郎内閣による平成15年(2003年)消費税法改正においては、簡易課税制度の適用上限は2億円から5,000万円に再び引き下げられ(消法37①)、免税事業者の免税点(tax exemption threshold)も3,000万円から1,000万円に引き下げられた(消法9①)。平成15年の消費税法改正は、平成16年(2004年)4月1日から施行されている。

消費税には、前述のような制度的欠陥のほかに、その本質的欠陥として「逆進性」が内在する。消費税は、異なる経済状態にある納税義務者に対して異なる租税負担(tax burden)の配分を要請する「垂直的公平」(vertical equity)に抵触するので、高額所得者に対して租税負担を相対的に軽く、低額所得者に対しては租税負担を相対的に重くする「逆進的租税(regressive tax)である。「逆進性」は、所得が高いほど所得に占める租税負担割合が低くなり、所得が低いほど所得に占める租税負担割合が高くなる特性であるが、この逆進性を緩和する方策としては、担税力の高い高額所得者には高い税率、担税力の低い低額所得者には低い税率を適用する複数税率制度、低額所得者の生活必需品に対する非課税措置が諸外国で講じられていた(菊谷・酒井(2020)27頁)。

たとえば、英国では、1973年4月1日に附加価値税制度が導入された時から、標準税率(standard tax rate)のほかに、食料品(贅沢食品、レストランで提供される食品を除く)、書籍・子供服等の一定の物品・サービス(goods and services)にゼロ税率(zero rate)が採用されている。その後、1993年12月1日には軽減税率(reduced rate)が導入される(Tony(2011)p.130, Sinclair(2013)p.373, Melville(2014)pp.459–460, Seely(2016)p.4)。ゼロ税率は食料品等の生活必需品に適用され、「複数税率」(multiple tax rate)の導入によって消費税に内在する「逆進性」が緩和されている3

わが国では、消費税と地方消費税の合計税率5%は、平成25年(2013年)の安倍晋三内閣による税制改正により、平成26年(2014年)4月1日から8%に引き上げられた後に、平成27年(2015年)10月1日から10%に引き上げられることが法定されていた。ただし、経済低迷等によって平成27年4月に消費税法の一部が改正され、10%の引上げは平成27年10月には実施されず、令和元年(2019年)10月1日までに延期された。その際には、飲食料品等に対しては8%の軽減税率が適用されている(新消法29)。10%の標準税率のほかに軽減税率として8%を適用する「複数税率」が令和元年10月1日に初めて導入された。

ただし、複数税率制度が導入されることによって、食料品(食用の農林水産物)を生産する農林水産業については、仕入れの大半を占める種苗・農薬、農耕器具などには標準税率(10%)、飲食料品の譲渡には軽減税率(8%)が適用されることになる。「簡易課税制度」を採用している場合、仕入時に標準税率が適用されていても、軽減税率が適用されている売上税額に従来の仕入率(70%)を乗じて概算の仕入税額を計算すると、仕入税額は軽減税率分だけ少なくなるので、食用の農林水産物の「みなし仕入率」が小売業に適用される80%に見直されることになった。平成30年(2018年)度改正により「みなし仕入率」が表1のように修正され、令和元年(2019年)10月1日から施行されている(第六種事業が追加され、第五種事業であった不動産業が第六種事業に移されている)。

表1 みなし仕入率
業種区分 業種内容 みなし
仕入率
第一種事業 卸売業 90%
第二種事業 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第三種事業 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む)、電気業・ガス事業・熱供給業・水道業。ただし、加工賃その他これに類する料金を対価とするサービス提供を行う事業を除く。 70%
第四種事業 飲食店業、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とするサービス提供を行う事業 60%
第五種事業 運輸通信業、金融業、保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く) 50%
第六種事業 不動産業 40%

(出所)著者作成。

さらに、複数税率制度下で適正な課税を確保するために、「適格請求書等保存方式」(いわゆる「インボイス方式」)の導入が予定されていたが、令和元年10月1日に複数税率制度(標準税率10%への引上げ・軽減税率8%の設定)が導入された上に、「インボイス制度」が早期に適用されるならば、事業者(納税義務者)の事務処理負担が過大となり、その対応が過酷になる。「インボイス制度」の導入には相当の準備期間を要すると考えられ、納税義務者の準備等を配慮し、インボイス制度は複数税率制度の導入から4年後の令和5年10月1日から採用されることになった。その準備期間(令和元年10月1日~令和5年9月30日)には、インボイス制度への移行的方法として「区分記載請求書等保存方式」が暫定的に採用されている(「平成28年改正法」附則34②)。

3.  インボイス制度導入前の「帳簿方式」の推移

3.1  単一税率制度採用時(平成元年4月1日から令和元年9月30日まで)における「帳簿・請求書等保存方式」

わが国の「消費税法」における消費税は、EU型附加価値税と同様に、前段階取引の消費税額(仕入税額)を控除できる「附加価値税」である。たとえば、小売業を営む事業者(納税義務者)が商品を販売する場合、消費税額を商品価格に上乗せして消費者(担税者)に転嫁できるので、納税義務者は、売上に係る消費税額(売上税額)から前段階取引の仕入に係る消費税額(仕入税額)を差し引いて納付することになる。

納付税額=売上税額(イ)−仕入税額(ロ)

(イ)売上税額=課税売上高(税抜き)×税率

(ロ)仕入税額=課税仕入高(税込み)×1+

つまり、ある課税期間における課税売上高(課税標準)に税率を乗じた「売上税額」から、その課税仕入高に算入されていた「仕入税額」を控除することによって、「附加価値税」として消費税の納付金額が算定される。たとえば、税率を10%として、商品を660万円(仕入高600万円、消費税60万円)で仕入れ、990万円(課税売上高900万円、消費税90万円)で販売した場合、90万円の「売上税額」から60万円の「仕入税額」を控除した差額の30万円が消費税の納付金額として計算される。なお、「取引高税」の場合には、仕入税額が控除できずに累積するので、納付金額は90万円となる。

このように、「帳簿方式」によって「実額の売上税額」と「実額の仕入税額」を相殺し、実額税額で消費税の納付金額を算定する方式は「実額控除方式」と呼ばれ、「本則課税」となっている。ただし、特例の「簡易課税」として、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者(免税事業者を除く)には、「概算額による控除」が認められている。「簡易課税制度」を利用する場合、下記算式が示すように、売上税額(すなわち、課税売上高)が判明すれば、「みなし仕入率」を乗じることによって仕入税額が概算的に計算できる。

納付税額=売上税額−売上税額×みなし仕入率

上記例において「簡易課税」による「概算控除方式」(小売業の「みなし仕入率」80%)で算定した場合、消費税の納付金額は次のようになる。

18万円=90万円−90万円×80%

「簡易課税制度」を選択した場合、納付金額が「実額控除」による30万円よりも12万円(=30万円−18万円)少なくなるので、担税者(tax bearer)である消費者(consumer)が負担した消費税額(90万円)のうち12万円は国庫に入らず、中小事業者の懐に残る「益税」が生じている。簡易課税制度は選択適用できる制度であるので、実際には、「本則課税」で計算した納付税額と「簡易課税」で計算した納付税額を比較して、有利となる方法で申告するという本来の趣旨とは異なった適用例が見受けられる(森信(2000b)12頁)。

このように、「簡易課税制度」では、課税売上高(つまり売上税額)さえ判明すれば、消費税の納付税額は概算額によって計算可能である。中小事業者にとって実額による仕入税額の計算や納税事務処理が過剰負担になると想定されたので、実額による仕入税額の計算を省いて、課税売上高(課税標準)から概算額によって仕入税額を算出できる「簡易課税制度」は消費税導入時から採用されている。

前述したように、平成元年4月1日の消費税導入時には、税率は3%の単一税率から始まり、「仕入税額控除」の方法としては帳簿上の記録(売上高・仕入高)に基づいて前段階の消費税額(仕入税額)を控除する「帳簿方式」が採用された。「帳簿方式」では、帳簿上の売上高・仕入高から消費税額を計算し、帳簿によって申告できるので、取引ごとに消費税額を個別計算する書類・伝票である「インボイス」は必ずしも必要ではない。わが国では、事業者の事務負担の軽減を図るために、帳簿上の記録に基づく「帳簿方式」が採用されてきた。

平成6年の税制改正で修正された「帳簿方式」は、「帳簿又は請求書等の保存」から「帳簿及び請求書等の保存」の義務付けに変更され、平成9年4月1日に施行された。つまり、購入者が仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として、帳簿の記録・保存に加え、課税仕入の事実を証する請求書・領収書・納品書等(以下、請求書等という)の書類の保存が要求された(消令30⑦)。消費税法第30条第9項によれば、仕入税額控除は、課税仕入れに関する「相手方の氏名又は名称」、「年月日」、「資産又は役務の内容」、「支出対価の額等」を記載した帳簿のほかに、前段階の事業者から交付される請求書等(書類の作成者の氏名又は名称、課税仕入れの氏名又は名称等を記載した請求書等)の保存を必要条件とする。したがって、「帳簿方式」は正式には「帳簿・請求書等保存方式」と称されている。

「帳簿・請求書等保存方式」によって、「帳簿又は請求書等の保存」から「帳簿及び請求書等の双方の保存」を要求したのは、金子((2002)481頁)が示唆したように、EU型の「インボイス方式」に切り換えるための準備の意味を持つと考えられる。ただし、帳簿と請求書等の双方の保存義務は、従前よりも事務負担を大きくする結果になった。しかも、重要かつ実質的な弱点は、EU型のインボイス方式では税額の記載が要求されるのに対し、わが国の請求書等には課税資産の譲渡等の対価の額が記載されるだけであり、税額の記載を要求しない点である。「帳簿・請求書等保存方式」であっても税額の明細を示すことができなければ、従来の「帳簿方式」と大差はない。「インボイス方式」であれば、仕入に含まれる税額がインボイスに記載されるので、消費税の転嫁が明確となるとともに、販売者・購入者双方にとって税の意識が強まるものと思われる。

国税の消費税と地方税の地方消費税を併せた税率(以後、消費税率と総称する)は、平成9年4月に5%(国税4%、地方税1%)、平成26年4月に8%(国税6.3%、地方税1.7%)に引き上げられたが、「消費税率」にはまだ単一税率が採られていた。「単一税率」であれば、取引に課される消費税の適用税率や消費税額が「請求書等」に明示されていなくても、「消費税額」を適正に計算・確認することが可能である。複数税率制度が導入される令和元年(2019年)10月1日の前日(令和元年9月30日)まで、「帳簿及び請求書等の保存」を義務付けた「帳簿・請求書等保存方式」が実施されていた。

3.2  複数税率制度導入後(令和元年10月1日から令和5年9月30日まで)における「帳簿・区分記載請求書等保存方式」

前述したように、安倍内閣による税制改正により、税率は平成26年4月1日から8%、令和元年10月1日から10%に引き上げられた。令和元年改正の際には、飲食料品等に対しては6.24%(地方消費税の税率1.76%を含めて8%)の軽減税率が導入されている。つまり、令和元年10月1日に10%の標準税率のほかに軽減税率として8%を適用する「複数税率制度」がわが国で初めて導入された。表2では、標準税率と軽減税率における国税と地方税の税率が示されている。

表2 複数税率制度下における税率
税額の種類 標準税率 軽減税率
消費税額(国税) 7.8% 6.24%
地方消費税額 2.2%(消費税額の22/78) 1.76%(消費税額の22/78)
合計 10% 8%

(出所)著者作成。

複数税率制度では、次のような物品を譲渡する場合に8%(国税6.24%、地方税1.76%)の「軽減税率」が適用されている。

(1)飲食料品(酒類・外食を除く)

(2)週2回以上発行される定期購読契約に基づく新聞

このような複数税率制度の導入により、消費税率が複数となったので、取引に課される消費税の適用税率が標準税率(10%)又は軽減税率(8%)であるかを明らかにしなければ、正しく消費税額を算定することはできない。たとえば、販売者が食用の塩を譲渡した場合に「飲食料品」として軽減税率(8%)で申告することになるが、購入者が工業用に使用すると、標準税率(10%)で「仕入税額控除」を適用するようなケースでは、同じ取引に対する販売者と購入者の適用税率と消費税額が異なることになり、正しく税額計算ができない(池永(2021)2頁)。

このような不備・矛盾を除去できるように、複数税率制度下において正確な消費税額を算定し、適正な課税を確保する観点から、令和5年(2023年)10月1日から「仕入税額控除」の新しい方式として「適格請求書等保存方式」、いわゆる「インボイス制度」が導入されることとなった。令和5年10月1日からは購入者が「仕入税額控除」の適用を受けるためには、帳簿と「適格請求書」(以下、インボイスともいう)等を保存することが必要である。単一税率制度下の「請求書等保存方式」のままでは適用税率や消費税額が「請求書等」の記載事項とされていないが、「複数税率制度」の下では、適用税率とともに、取引に適用される税率ごとに消費税額も計算しなければならない。「適用税率」や「消費税額」を明示するためには、取引ごとの税額別記の「インボイス」などの利用が必要となる。

ただし、令和元年10月1日から令和5年9月30日までの間は、「請求書等保存方式」を基本的に維持しつつ、暫定的な措置として「区分記載請求書等保存方式」が採用されている。「区分記載請求書等保存方式」では、「請求書等保存方式」における「帳簿」及び「請求書等」の記載事項に、一定の記載事項が追加された。つまり、「帳簿」の記載事項には、従来の「請求書等保存方式」の記載事項のほかに、課税仕入れが軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、「軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨」が追加されている。表3では、「請求書等保存方式」と「区分記載請求書等保存方式」における「帳簿」の記載事項が比較対照されている(下線部分が追加部分である)。

表3 帳簿の記載事項の比較
請求書等保存方式
(平成元年4月1日から
令和元年9月30日まで)
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日から
令和5年9月30日まで)
①課税仕入れの相手方の氏名又は名称 ①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②課税仕入れを行った年月日 ②課税仕入れを行った年月日
③課税仕入れに係る資産又は役務の内容 ③課税仕入れに係る資産又は役務の内容(課税仕入れが軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨
④課税仕入れに係る支払対価の額 ④課税仕入れに係る支払対価の額

(出所)インボイスQ&A問87一部削除修正。

なお、「請求書等」の記載事項には、従来の「請求書等保存方式」の記載事項のほかに、「課税仕入れ」が軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、「軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨」及び「税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込み価額」が追加されている。表4は、「請求書等保存方式」と「区分記載請求書等保存方式」における「請求書等」の記載事項を比較対照している(下線部分が追加部分である)。

表4 請求書等の記載事項の比較
請求書等保存方式
(平成元年4月1日から
令和元年9月30日まで)
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日から
令和5年9月30日まで)
①書類の作成者の氏名又は名称 ①書類の作成者の氏名又は名称
②課税資産の譲渡等を行った年月日 ②課税資産の譲渡等を行った年月日
③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容 ③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨
④課税資産の譲渡等の税込価額 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
⑤書類の交付を受けた事業者の氏名又は名称 ⑤書類の交付を受けた事業者の氏名又は名称

(出所)インボイスQ&A問43一部削除修正。

4.  インボイス制度の特徴

4.1  インボイス発行事業者の登録とインボイスの交付・保存義務

4.1.1  インボイス発行事業者の登録

インボイス制度下では、購入者が「仕入税額控除」の適用を受けるためには、販売者が交付した「インボイス」を保存しなければならない。他方、販売者は「インボイス」を交付できるためには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」(以下、「登録申請書」と略す)を所轄税務署長に提出し、登録を受けた「適格請求書発行事業者」(以下、「インボイス発行事業者」ともいう)となる必要がある。つまり、「インボイス発行事業者」でなければ、インボイスを交付することはできない。その場合、「登録」を受けようとする事業者は、課税事業者に限定されている(新消法57の2②、インボイス通達2-1)。

「登録申請書」の提出は、インボイス制度導入の2年前である令和3年10月1日から始まっている。インボイス制度導入日の令和5年10月1日から「登録」を受けたい場合には、令和5年3月31日までに「登録申請書」を提出する必要がある(「平成28年改正法」附則44①)。「特定期間」(個人事業者の場合には前年1月1日から6月30日までの半年間、法人の場合には前事業年度開始の日以後半年間)の課税売上高又は給与等支払額の合計額が1,000万円を超えたことによって「課税事業者」となった場合(消法9の2①)には、令和5年6月30日までに「登録申請書」を提出すればよい(インボイスQ&A問7)。

ただし、「登録」を受けるかどうかは法人・個人事業者の任意となっている。「課税事業者」であっても「インボイス発行事業者」を選択するかどうかについては、「登録の任意性」が採用されている(新消法57の2①、57の4①)。たとえば、取引相手先が消費者のみであり、「インボイス」を交付する義務・必要がない場合には、「インボイス発行事業者」の登録を受けるかについて検討を要するかもしれない。

「登録申請書」の記載事項である「登録番号」は、(イ)「法人番号を有する課税事業者」と(ロ)それ以外の課税事業者(個人事業者、人格のない社団等)に分けて付番されている(インボイス通達2-3)。登録番号は、「インボイス発行事業者」により選択することも変更することもできない。

(イ)T(ローマ字)+法人番号(数字13桁)

(ロ)T(ローマ字)+数字13桁(個人番号ではなく、法人番号と重複しない事業者ごとの番号)

このような登録申請手続きを経て登録された「インボイス発行事業者」は、「名称」、「本店又は主たる事業所の所在地」(「人格のない社団等」を除く)及び「登録番号」を公表される。「人格のない社団等」が「本店又は主たる事業所の所在地」を公表したい場合には、「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出しなければならない(新消法57の2④、新消令70の5①)。

課税事業者は、インボイス制度導入日の令和5年10月1日を過ぎた課税期間の途中であっても「登録申請書」を提出し、所轄税務署長により「登録」を受けることによって、その登録日から「インボイス発行事業者」となることができる。登録日は、「登録通知書」に記載されるが、インターネットを通じても公表される。

「登録申請書」をe-Taxによって提出し、登録通知を電子での通知を希望する場合には、「通知書等一覧」に登録番号等を記載した「登録通知書」がデータで格納される。その他の場合には、書面にて登録番号等を記載した「登録通知書」が送付される。「登録通知書」は、原則として、再発行されない。

なお、免税事業者である「新設法人」や「新規開業の個人事業者」(以下、新設法人等という)であっても、事業開始日の属する課税期間の末日までに「登録申請書」と「消費税課税事業者選択届出書」(以下、「課税選択届出書」と略す)を併せて提出すれば、特例として、その課税期間の初日から課税事業者(インボイス発行事業者)となることができる4

「登録申請書」の提出を受けた所轄税務署長は、一定の登録拒否要件に該当しない限り、「適格請求書発行事業者登録簿」に登録を行う。登録を拒否される事業者としては、(1)納税管理人を定める必要があるのに納税管理人の行っていない事業者、(2)消費税法に違反して罰金以上の刑罰に処せられ、その執行が終了し、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない事業者が該当する(新消法57の2⑤)。

「インボイス発行事業者の登録」を行っていたとしても、インボイス発行事業者が下記のような事態に陥っている場合には、所轄税務署長は「インボイス発行事業者の登録」を取り消すことができる(新消法57の2⑥)。

(イ)1年以上所在不明である場合

(ロ)事業を廃止したと認められる場合

(ハ)合併により消滅したと認められる場合

(ニ)納税管理人を定めなければならない事業者が納税管理人の届出を行っていない場合

(ホ)消費税法に違反して罰金以上の刑に処せられた場合

(ヘ)登録拒否要件に関する事項について虚偽の記載を行った申請書を提出し、登録を受けていた場合

前記(イ)「1年以上所在不明」については、たとえば、消費税の申告書が提出されていないために、文書返送や電話不通などを通じて事業者と必要な連絡が取れない場合などが該当する。

消費税法第57条第1項三・五(新消費税法第57条の2第10項)の規定によって、(ロ)事業者が事業を廃止した場合には「事業廃止届出書」、(ハ)合併による消滅の事実があった場合には「合併による法人の消滅届出書」を所轄税務署長に提出しなければならない。「インボイス発行事業者の登録」の効力は、その事業廃止日又は合併による消滅日に失われることになる。「事業廃止届出書」又は「合併による法人の消滅届出書」を所轄税務署長に提出していない場合であっても、所轄税務署長は(ロ)事業を廃止したと認められる場合、(ハ)法人が合併により消滅したと認められる場合に「インボイス発行事業者の登録」を取り消すことができる。

(ホ)「消費税法に違反して罰金以上の刑に処せられた場合」とは、起訴され、裁判により罰金以上の刑が確定したことをいう。したがって、「加算税」や「延滞税」は、罰金ではない。

インボイス発行事業者の情報は、「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」に公表される。公表情報としては、下記のように(a)法定の公表事項と(b)申出により追加できる公表事項がある(新消法57の2④・⑪、新消令70の5②)。

(a)法定の公表事項

①インボイス発行事業者の氏名又は名称

②法人(人格のない社団等を除く)については、本店又は主たる事務所の所在地

③特定国外事業者以外の国内事業者については、国内で行う資産譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地

④登録番号

⑤登録年月日

⑥登録取消年月日、登録失効年月日

(b)申出により追加できる公表事項

①個人事業者の「主たる屋号」、「主たる事務所の所在地等」

②人格のない社団等の「本店又は主たる事務所の所在地」

インボイス発行事業者は「課税事業者」に限定されているので、免税事業者は「インボイス発行事業者の登録」を受けることはできない。したがって、免税事業者は、「仕入税額控除」の適用を受けるための「インボイス」を交付できない。その結果、免税事業者から仕入れた事業者(購入者)は、「インボイス」を受け取ることができないので、原則として、その仕入れに関して「仕入税額控除」の適用を受けることはできない(ただし、後述するように、一定期間にわたり経過措置が設けられている)。

4.1.2  インボイス発行事業者のインボイス交付・保存義務

インボイス制度下では、購入者が「仕入税額控除」の適用を受けるためには、帳簿上の記録のほかに、「取引相手先」(販売者)又は「交付代理人等」から交付・提供を受けた「適格請求書等」(以下、「インボイス等」ともいう)を保存する必要がある。

他方、インボイス発行事業者(販売者)は、国内において課税資産の譲渡等を行った場合、購入者(課税事業者に限られる)の「求め」に応じて「インボイス等」を交付しなければならない(新消法57の4①)。インボイス制度においては、インボイス発行事業者には、インボイス等の交付義務が課される。インボイス等の交付に代えて、インボイス等に係る電磁的記録を提供することができる(新消法57の4⑤)。

さらに、交付したインボイス等の「写し」及び提供したインボイス等に係る「電磁的記録」の保存義務が課されている(新消法57の4⑥)。交付したインボイス等の「写し」とは、交付した書類そのものを複写したものではなくても、そのインボイス等の記載事項が確認できる程度に記載されているもので足りることとなっている。たとえば、簡易インボイスに係る「レジのジャーナル」、複数のインボイスの記載事項に係る「一覧表」や「明細表」などが保存されるならば、インボイス等の「写し」の保存義務を果たしたことになる(インボイスQ&A問64)。

「電子帳簿保存法」の規定に従って保存が義務付けられている書類で、一貫して電子計算機を使用して作成したものについては、「電磁的記録」による保存をもって「書類」の保存に代えることができる。インボイスに係る電磁的記録としては、(イ)電磁的記録のままで保存する方法又は(ロ)紙媒体に印刷して保存する方法がある。

インボイス発行事業者が電磁的記録を提供した場合における電子インボイスの保存方法には、自社のサーバーやクラウドサービスなどを利用して電子データのままで保存する方法がある。その場合には、インボイス発行事業者は次のような(A)から(D)の措置を講じる必要がある(新消規26の8①)。

(A)次のような(イ)から(二)のいずれかの措置を講じる。

(イ)インボイスに係る電磁的記録を提供する前にタイムスタンプを付し、そのインボイスに係る電磁的記録を提供する(電帳規4①一)。

(ロ)タイムスタンプを付すとともに、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認できるようにするために、(a)電子インボイスの提供後に速やかにタイムスタンプを付すか、又は(b)電磁的記録の提供からタイムスタンプを付すまでの各事務処理に関する規定を定めている場合には、その業務処理に係る通常の期間を経過した後に、速やかにタイムスタンプを付す(電帳規4①二)。

(ハ)電子インボイスの記録事項について、(a)訂正又は削除を行った場合には、その事実及び内容を確認することができるか、又は(b)訂正又は削除を行うことができない「電子計算機処理システム」を使用して、インボイスに係る電磁的記録の提供及びその電磁的記録を保存する(電帳規4①三)。

(二)電磁的記録の記録事項について、正当な理由がない訂正及び削除を防止する「事務処理規程」を定め、その規程に準拠した運用を行い、電磁的記録の保存に併せて「事務処理規程」を備える(電帳規4①四)。

(B)電磁的記録の保存等に併せて、システム概要書を備える(電帳規2②一、4①)。

(C)電磁的記録の保存等を行う場所には、その電磁的記録の電子計算機処理用に提供できる電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンタ及びこれらの「操作説明書」を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に「整然とした形式及び明瞭な状態5」で速やかに出力できるようにしておく(電帳規2②二、4①)。

(D)国税に関する法律(「電子帳簿保存法」)の規定による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしておくか、又は電磁的記録について、(a)取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先の検索機能、(b)日付又は金額に係る記録項目の検索機能、(c)二以上の任意記録項目の組み合せの検索機能を確保する(ただし、国税法による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、(b)と(c)の要件は不要であり、基準期間における売上高が1,000万円以下である事業者が国税法による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、検索機能のすべてが不要となる)(電帳規2⑥六、4①)。

他方、電子インボイスを紙に印刷して保存する場合には、「整然とした形式及び明瞭な状態」で出力する必要がある(新消規26の8②)。

なお、インボイスの「写し」や「電磁的記録」については、交付した日又は提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間にわたって、納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない(新消法57の4⑥、新消令70の13①、新消規26の8)。

4.1.3  インボイスの交付義務が免除される取引等

インボイス発行事業者の事業の性質上、インボイスを交付することが困難な取引もある。「インボイス交付困難な取引」については、インボイスの交付義務が免除されている(新消令70の9②)。次のような取引が「インボイス交付困難な取引」に該当し、交付義務の免除が認められる取引として認められている(新消法57の4①、新消令70の9②、新消規26の6、インボイスQ&A問32–38)。

①3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送(以下、「公共交通機関特例」という)

3万円未満の旅客運送は、1回の取引の税込価額が3万円未満であるかどうかで判定するので、切符1枚ごとの金額や月まとめ等の金額で判定しない。たとえば、東京・京都間の新幹線の大人運賃13,910円を1回の取引で3人分提供した場合、3人分の41,730円で判定する。なお、「特急料金」や「急行料金」、「寝台料金」は、旅客の運送に直接的に附帯する対価として「公共交通機関特例」の対象になるが、駅構内の「入場券」や「手回り品料金」は、旅客の運送に直接的に附帯する対価ではないので、「公共交通機関特例」の対象にならない。

②出荷者等が卸売市場で行う生鮮食料品等の販売(以下、「卸売市場特例」という)

「卸売市場特例」では、出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る。

③生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(以下、「農協等特例」という)

農協等の組合員(生産者)その他の構成員が、農協等に対して「無条件委託方式」かつ「共同計算方式6」により販売を委託した農林水産物の販売(生産者を特定せずに行うものに限る)

④3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等(以下、「自動販売機特例」という)

「自動販売機特例」の対象となる自動販売機や自動サービス機は、次のような機械装置のみによって代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいう。

(1)自動販売機による飲食料品の販売

(2)コインロッカーやコインランドリー等によるサービス提供

(3)金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービスや振込サービス提供

ただし、(イ)小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように、機械装置により単に精算が行われるもの、(ロ)コインパーキングや自動券売機のように、代金受領と券類発行がその機械装置で行われるものの資産譲渡等は別途に行われるもの、(ハ)ネットバンキングのように機械装置で資産譲渡等が行われないものは、「自動販売機特例」の対象にならない。

⑤郵便切手類のみを対価とする郵便•貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

なお、「非課税取引」、「免税取引」及び「不課税取引」のみを行った場合にも、インボイスの交付義務が免除されている(インボイスQ&A問23)。

ちなみに非課税取引とは、消費税の課税要件を満たす取引であっても、消費税の課税対象とすることになじまない取引、社会政策的な配慮から課税することが不適当であるとみなされる取引をいう。たとえば、土地の譲渡、有価証券の譲渡、印紙・商品券等の譲渡、住宅の貸付け、埋葬料・火葬料、教科用図書等の譲渡がそれに該当する。

免税取引とは、課税対象取引に該当するが、一定の要件を前提にして課税が免除される取引をいう。たとえば、国際輸送、国際通信、国際郵便、商品の輸出等がそれに該当する。

不課税取引とは、消費税の課税対象にならない取引であり、たとえば、給与・賃金、寄附金、補助金、保険金・共済金、株式配当金、損害賠償金、資産の盗難・廃棄・滅失等がそれに該当する。

4.2  インボイス等の記載内容・必要事項

4.2.1  インボイス等の種類

前述したように、インボイス制度では、インボイス発行事業者(販売者)は「インボイス等」を交付するとともに、その「写し」を保存しなければならない。他方、購入者(課税事業者に限る)が「仕入税額控除」の適用を受けるためには、帳簿上の記録のほかに、インボイス等を保存・管理しなければならない。購入者にとって「仕入税額控除」のために必要な「適格請求書等」(「インボイス等」)としては、次のような書類が認められている(新消法30⑦・⑧・⑨)。

(a)適格請求書(インボイス)

(b)適格簡易請求書(簡易インボイス)

(c)適格返還請求書(返還インボイス)

(d)適格修正請求書(修正インボイス)

(e)インボイス、簡易インボイス、返還インボイス又修正インボイスの記載事項に係る電磁的記録(電子インボイス)

(f)仕入側(購入者)がインボイスの記載事項を記載した仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類(ただし、課税仕入れの取引相手先(販売者)において課税資産の譲渡等に該当し、かつ、取引相手先の確認を受けたものに限る)(なお、書類に記載すべき書類に係る電子データを含む)

(g)(イ)卸売市場で出荷者等から委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の販売取引、(ロ)農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等が生産者(組合員等)から委託を受けて行う農林水産物の販売取引(無条件委託方式かつ共同計算方式によるものに限る)について、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者が作成する一定の書類(電子データを含む)

上記(a)「適格請求書」(以下、「インボイス」ともいう)とは、一定の必要事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類をいう。請求書・納品書のほかに、領収書、レシートなどに一定の必要事項を追加的に記載すれば、「インボイス」として通用するので、その名称は問われない。また、手書きであっても、インボイスの必要事項が記載されていれば、「インボイス」として活用できる(新消法57の4①、インボイス通達3-1)。つまり、インボイスとは、「販売者から購入者に消費税の適用税率や消費税額等を伝えるための書類」であり、具体的には、「登録番号」のほかに一定の必要事項(適用税率、税率ごとに区分した消費税等)を記載した請求書等である7

スーパーマーケットのような小売業者など、不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行うインボイス発行事業者は、「インボイス」の記載事項を一部削除した(b)「適格簡易請求書」(以下、「簡易インボイス」という)を交付することができる。「簡易インボイス」を発行できる事業対象は、①小売業、②飲食店業、③写真業、④旅行業、⑤タクシー業、⑥駐車場業(不特定多数の者に対するものに限る)及び⑦その他これらの事業に準ずる事業で不特定多数の者に資産の譲渡等を行う事業に限定されている(新消法57の4②、新消令70の11)。「不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う事業」であるか否かは、個々の事業の性質によって判断することになっている。たとえば、資産の譲渡等を行う際に「取引相手先の氏名又は名称等」を確認しないで、取引条件等をあらかじめ示し、取引相手先を問わず、広く資産の譲渡等を行うことが常態である事業などがこれに該当する(インボイスQ&A問24)。

インボイス発行事業者が商品を販売した後に、品違いや不良品などによって取引相手先(購入者)の課税事業者に対して「売上げに係る対価の返還等」(売上げに係る返品・値引き等)を行った場合には、(c)「適格返還請求書」(以下、「返還インボイス」という)を交付することが義務付けられている(新消法57の4③)。インボイス発行事業者(販売者)は、課税事業者(購入者)の「求め」に応じて「インボイス」を交付するが、「売上げに係る対価の返還等」に対しては必ず「返還インボイス」をその課税事業者に交付しなければならない。ただし、インボイスの交付義務が免除される取引等(インボイス交付困難取引等)には、返還インボイスの交付義務が免除されている(新消令70の9③)。

インボイス発行事業者は、交付した「インボイス」、「簡易インボイス」又は「返還インボイス」の記載事項に誤りがあったときには、(d)「適格修正請求書」(以下、「修正インボイス」という)を交付しなければならない(新消法57の4④・⑤)。購入者(課税事業者に限る)は、販売者であるインボイス発行事業者が作成・交付した「インボイス」、「簡易インボイス」又は「返還インボイス」の記載事項に誤りがあったときには、(d)「修正インボイス」の交付を求め、その「修正インボイス」を保存しなければならない。購入者自らが、「当初のインボイス等」に修正・追記・誤記入等を行うことはできない(インボイスQ&A問76)。

なお、(a)インボイス、(b)簡易インボイス、(c)返還インボイス又は(d)修正インボイスの記載事項に係る電磁的記録によって、(e)「電子インボイス」(一定の必要記載事項を記録した電子データ)をインボイス発行事業者は提供できる。国税に関する法律の規定により保存が義務付けられる書類について、「電子帳簿保存法」に基づいて電子計算機を使用して電磁的記録により作成・保存したものは、書類の作成・保存に代えることができる(新消法57の4①・⑤)。

要するに、インボイス発行事業者は、国内において課税資産の譲渡等を行った場合、取引相手先(課税事業者に限る)から求められたときは、「書類」による交付に代えて、インボイスに係る「電磁的記録」の提供を行うことができる。ここに「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識できない方式で作成される記録であり、電子計算機による情報処理の用に提供されるものをいう(電帳法2三)。電磁的記録による提供方法としては、光ディスク、磁気テープ等の記録用の媒体の利用があるが、このような媒体による提供のほかに、「インボイス通達」(3-2)は次のような提供方法も認めている。

①EDI(Electronic Data Interchange)取引(通信回線を介して、商取引に関連するデータをコンピュータ間で交換する取引等)における電子データの提供

②電子メールによる電子データの提供

③インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じた電子データの提供

インボイス制度においても、「区分記載請求書等保存方式」と同様に、仕入側(購入者)が作成して取引相手方(販売者)に確認を受けた「仕入明細書」や「仕入計算書」(以下、(f)「仕入明細書等」という)を保存することによって、仕入側は「仕入税額控除」の適用を受けることができる(新消法30⑨三、インボイス通達4-6)。つまり、購入者(課税事業者に限る)が作成した「仕入明細書等」の書類であっても、一定の必要事項を記載し、取引相手先(販売者)の確認を受けた「仕入明細書等」の保存によって「仕入税額控除」が認められる。

出荷者・生産者等から委託を受けて行われる生鮮食料品・農林水産物の販売取引については、(g)媒介・取次業者が作成した一定の書類がインボイス等(「適格請求書等」)として容認されている。「仕入税額控除」の適用が認められるインボイス等には、前記(f)のように購入者が作成した仕入明細書・仕入計算書と同様に、(g)農林水産物・生鮮食料品等の販売取引につき媒介・取次業者作成の書類も認められる。

4.2.2  インボイス発行事業者が記載する必要事項

4.2.2.1  インボイスの記載事項

インボイス等として認められる書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)には、インボイス発行事業者(販売者)は次の事項を記載しなければならない(新消法57の4①)。

①インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

②課税資産の譲渡等を行った年月日

③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産である場合には、資産の内容及び譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である旨)

④税率ごとに区分した課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額の合計額及び適用税率

⑤税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合計金額)

⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

インボイスの記載事項では、現行の「区分記載請求書等保存方式」における記載事項のほかに、上記①の登録番号、④課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率、⑤税率ごとに区分した消費税額等が追加されている。

令和5年10月からEU型インボイス制度の導入が予定されているが、たとえば、英国では、下記のような事項を記載したインボイスにより、課税事業者には仕入税額の請求が認められる(Melville(2003)p.497,Melville(2007)pp.493–494,Melville(2011)p.487)。

(a)インボイス番号、日付、課税時点

(b)譲渡者の名前、住所、インボイス番号

(c)顧客の名前、住所

(d)各インボイス品目、譲渡された物品・サービスの説明

(e)物品数、サービスの程度、1単位当たりの価格、VAT課税前の支払額、VAT率

(f)VAT課税前の合計金額

(g)現金割引率

(h)VAT課税対象総額

VAT登録番号を取得した課税事業者のみがVATインボイスを発行することができ、その保存が義務付けられている。VATインボイス方式では、譲渡者と購入者の双方にVATの納税義務処理が均等に割り与えられる。EU型インボイス制度がわが国にも移植され、「インボイス等」の記載内容も、現行の「区分記載請求書等」の記載内容に「インボイス発行事業者の登録番号」(譲渡者のインボイス番号)、「適用税率」(適用VAT率)及び「税率ごとに区分した消費税額等」(VAT課税対象総額)が追加されたことにより、EU型インボイスと同等の記載内容となった。

表5では、令和元年10月1日から令和5年9月30日までに適用される「区分記載請求書等保存方式」と令和5年10月1日から適用される「適格請求書等保存方式」(「インボイス方式」)における記載事項の相違点が示されている(下線部分が追加・修正部分である)。

表5 適格請求書等の記載事項の比較
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日から
令和5年9月30日までの間)
適格請求書等保存方式
(インボイス方式)
(令和5年10月1日から)
①書類の作成者の氏名又は名称 インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
③税資産の譲渡等を行った年月日 ④課税資産の譲渡等を行った年月日
⑤課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨) ③課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額 ④税率ごとに区分した課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額の合計額及び適用税率
―――― 税率ごとに区分した消費税額等
⑤書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称 ⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

(出所)インボイスQ&A問62一部修正。

インボイスには、①インボイス発行事業者の「氏名又は名称」の記載が必要であるが、たとえば、「電話番号」の記載などによって、インボイスを交付する事業者が特定できるならば、「屋号」や「省略した名称」などの記載でも差し支えない(インボイスQ&A問44)。

さらに、①インボイス発行事業者の登録番号を必ず記載しなければならないが、「登録番号」と紐付けて管理されている「取引先コード表」などを「インボイス発行事業者」と「取引相手先」で共有し、取引当事者双方で「取引先コード」から登録番号が確認できる場合には、「取引先コード」の表示により「インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」の記載があると認められる(インボイス通達3-3)。図1では、基本的なインボイスの様式が例示されている。

図1 インボイスの記載例

(出所)インボイスQ&A問43一部加筆修正。

インボイス発行事業者が交付した複数の書類(たとえば、納品書と請求書)によって相互の関連が明確であり、「インボイス」の交付対象となる取引内容が正確に認識されるのであれば、インボイスとしては、一の書類のみですべての必要事項(①~⑥)を記載する必要はない。たとえば、「請求書」に納品書番号(関連の明確化)、「税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率」、「税率ごとに区分した消費税額等」を記載し、「納品書」に取引内容を記載していれば、複数の書類の全体によってインボイスの「記載事項」を満たす。この場合、「納品書」と「請求書」の2種類の書類を交付することによって、全体として「インボイスの交付義務」を果たすことができる。

4.2.2.2  簡易インボイスの記載事項

不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う小売業者等が交付できる「簡易インボイス」では、「インボイス」の記載事項が一部削除されているので、「簡易インボイス」の記載事項は次のとおりである(新消法57の4②、新消令70の11)。

(イ)インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

(ロ)課税資産の譲渡等を行った年月日

(ハ)課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)

(ニ)課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額(両方記載可能)

(ホ)税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率(両方記載可能)

上記記載事項から判明できるように、「簡易インボイス」は、「インボイス」の記載事項と比べると、(1)「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載が不要である点、(2)「税率ごとに区分した消費税額等」又は「適用税率」のいずれか一方の記載で足りる点(両方を記載することも可能である)で異なる。

4.2.2.3  返還インボイスの記載事項

交付を強制される「返還インボイス」には、次のような内容・事項の記載が必要である(新消法57の4③)。

①インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号

②売上げに係る対価の返還等を行う年月日及びその売上げに係る対価の返還等の基となった課税資産の譲渡等を行った年月日

③売上げに係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)

④売上げに係る対価の返還等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額

⑤売上げに係る対価の返還等の金額に係る税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率

「返還インボイス」には、②返品・値引き等の基となった課税資産の譲渡等を行った「年月日」を記載しなければならない。正確に「販売年月日」を把握できない場合には、課税期間の範囲内で一定期間の記載(たとえば、「4月分」の月単位、「4月~6月分」の複数月単位又は「前月末日」や「最終販売年月日」といった記載)でも差し支えない(インボイスQ&A問50)。

なお、課税資産の譲渡等を行った「年月日」が登録前である場合には、返還インボイスの交付義務はないが、インボイス発行事業者でなくなった後において、インボイス発行事業者であった期間における課税資産の譲渡等につき返還等を行った場合には、返還インボイスを交付しなければならない(インボイス通達3-14、3-15)。

4.2.2.4  修正インボイスの記載方法

インボイス発行事業者(販売者)は、「購入者」である課税事業者に対して「修正インボイス」の交付義務を課せられている。「修正インボイスの交付」には、たとえば、次のような方法などが考えられる(新消法57の4④・⑤)。

(1)誤りがあった事項を訂正し、改めて記載事項のすべてを記載した「修正インボイス」を交付する方法

(2)当初に交付した「インボイス等」との関連性を明らかにし、修正した事項を明示した「修正インボイス」を交付する方法

上記(1)法では、購入者(交付を受けた「課税事業者」)には「修正インボイス」のみの保存が認められるが、(2)法では、「当初のインボイス等」の写し及び「修正インボイス」の写しの保存が必要である。

4.2.3  購入者が作成する仕入明細書等に記載する必要事項

仕入側(購入者)が作成する「仕入明細書等」(仕入明細書や仕入計算書)に一定の必要事項が記載され、取引相手先(販売者)に確認されていれば、「インボイス」として利用することができる。インボイス制度における「仕入明細書等」には、次のような記載事項が必要である(新消法30⑨三、新消令49④)。

①仕入明細書等の作成者の氏名又は名称

②課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号

③課税仕入れを行った年月日

④課税仕入れに係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の譲渡等に係る場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)

⑤税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払対価の額及び適用税率

⑥税率ごとに区分した消費税額等

表6では、現行の「区分記載請求書等保存方式」と令和5年10月1日導入の「インボイス方式」における「仕入明細書等」の記載事項が比較されている(下線部分が追加部分である)。

表6 仕入明細書等の記載事項の比較
区分記載請求書等保存方式
(令和元年10月1日から
令和5年9月30日までの間)
インボイス方式
(適格請求書等保存方式)
(令和5年10月1日から)
①書類の作成者の氏名又は名称 ①書類の作成者の氏名又は名称
②課税仕入れの相手方の氏名又は名称 ②課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号
③課税仕入れを行った年月日 ③課税仕入れを行った年月日
④課税仕入れに係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の譲渡等に係る場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨) ④課税仕入れに係る資産又は役務の内容(軽減対象資産の譲渡等に係る場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等に係るものである旨)
⑤税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払い対価の額 ⑤税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払い対価の額及び適用税率
―――― 税率ごとに区分した消費税額等

(出所)インボイスQ&A問70一部削除修正。

インボイス制度では、取引相手先の氏名又は名称のほかに、②「登録番号」の記載が必要であるので、「仕入明細書等」にも取引相手先(販売者)の「登録番号」を記載しなければならない。また、⑤「税率ごとに合計した課税仕入れに係る支払対価の額」は税込金額であるが、税抜金額で記載している場合であっても、「税率ごとに区分した仕入金額の税抜金額の合計額及び税率ごとに区分した消費税額等」を記載することによって、その記載があるものとして取り扱われる。従来の仕入明細書等では記載されていなかった⑤「適用税率」と⑥「税率ごとに区分した消費税額等」も、仕入税額控除の適用条件として追加されている。

つまり、「インボイス制度」では、「区分記載請求書等保存方式」で要求されている記載事項のほかに、仕入明細書等には「登録番号」、「適用税率」及び「税率ごとに区分した消費税額等」を記載する必要がある。このような記載事項を記載した「仕入明細書等」を保存すれば、「仕入税額控除」の適用を受けることができる。「仕入明細書等」も、インボイスと同様に、一の書類や電子データですべての記載事項を満たす必要はないので、複数の書類と電子データ全体で必要な記載事項を満たすことができる。

インボイス等に該当する「仕入明細書等」が「仕入税額控除」の適用を受けるためには、取引相手先の確認を受けたものに限定されているが、その確認方法としては、たとえば、次のような方法が考えられる(新消法30⑨三、インボイス通達4-6)。

(a)通信回線等を通じて「仕入明細書等」の記載内容を取引相手先の端末機に出力し、確認の通信を受けた上で自己の端末機から出力する方法

(b)「仕入明細書等」に記載すべき事項に係る電磁的記録についてインターネットや電子メールなどを通じて取引相手先へ提供し、確認を受ける方法

(c)仕入明細書等の「写し」を取引相手先に送付し、又は電子データで「仕入明細書等」を取引相手先に提供した後、一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には、記載内容のとおりに確認があったものとすることを当事者間で基本契約等において締結しておく方法

なお、前記(c)の場合のように基本契約等で締結していなくても、「仕入明細書等」に「送付後一定期間内に誤りのある旨の連絡がない場合には記載内容のとおり確認があったものとする」旨の通知文言などを記載又は添付し、取引相手先に了承を得る方法も可能である。

4.2.4  インボイス類似書類の交付に対する罰則

消費税の納付税額を少なくするために、「インボイス」に似せた類似書類の交付又は「電磁的記録」の提供を行った事業者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。罰則規定の対象となる「インボイス類似書類」には、次のような書類等が該当する(新消法57の5)。

①「インボイス発行事業者以外の者」が作成した書類であり、「インボイス発行事業者」が作成した「インボイス」又は「簡易インボイス」と誤認されるおそれのある表示をした書類

②「インボイス発行事業者」が作成した書類であり、偽りの記載をした「インボイス」又は「簡易インボイス」

③上記①に掲げる書類の記載事項又は②に掲げる書類の記載事項に係る電磁的記録

「インボイス類似書類」の作成・交付及び電磁的記録の提供を禁止するとともに、違反事業者に懲役・罰金刑が設けられている。

しかし、「インボイス類似書類」の作成・交付は、脱税・違反行為あるいは消費税の虚偽報告であり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金では、諸外国に比べて経済犯罪としては軽すぎる。たとえば、韓国では、インボイス発行義務違反等を行った者は、3年以下の懲役又は譲渡価額に附加価値税率を適用して計算した税額の3倍以下に相当する罰金に処せられる(田井(2022)43頁)。わが国の刑法第235条では、経済犯罪の窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられている。1年以下の懲役又は50万円以下の罰金では軽すぎるので、10年以下の懲役又は違反税額の3倍以下に相当する罰金(併科を含む)に厳罰化すべきである。

4.3  購入者のインボイス保存義務

前述のように、インボイス制度下では、購入者が「仕入税額控除」の適用を受けるためには、一定の事項を記載した「帳簿」のほかに、販売者(インボイス事業者に限る)が交付した「インボイス等」を「適格請求書」として保存する必要がある(新消法30⑦・⑨二)。また、「仕入明細書等」に一定の必要事項が記載され、取引相手先(販売者)に確認されていれば、インボイス等として保存できる。その場合、「仕入税額控除」の適用を受ける購入者は課税事業者に限られる。

取引相手先から電子インボイスを提供された場合、「仕入税額控除」の適用を受けるためには、その電子インボイスを保存しなければならないが、電磁的記録による「電子データ」のままで保存する場合には、次のような(イ)から(二)のいずれかの措置を講じる必要がある(新消令50①、新消規15の5)。

(イ)タイムスタンプが付されたインボイスに係る電磁的記録を受領する(電帳規4①一)。

(ロ)(a)電子インボイスの提供を受けた後に、速やかにタイムスタンプを付すか、又は(b)電磁的記録の提供からタイムスタンプを付すまでの各事務処理に関する規定を定めている場合には、その業務処理に係る通常の期間を経過した後に、速やかにタイムスタンプを付すかによって、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認できるようにする(電帳規4①二)。

(ハ)電子インボイスの記録事項について、(a)訂正又は削除を行った場合には、その事実及び内容を確認できるか、又は(b)訂正又は削除できない「電子計算機処理システム」を使用して、インボイスに係る電磁的記録の受領及びその電磁的記録を保存する(電帳規4①三)。

(二)電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除を防止する事務処理規程を設け、その規程に準拠した運用を行い、電磁的記録を保存するとともにその規程を備え付ける(電帳規4①四)。

さらに、電磁的記録によってインボイスを作成したデータの保存等に併せて、システム概要書を備える必要がある。電子インボイスの保存等を行う場所には、その電磁的記録の電子計算機処理用に提供できる電子計算機・プログラム・ディスプレイ・プリンタを備置しなければならない。これらの電磁的記録用機器とともに、これらの「操作説明書」を備え付け、電磁的記録を「整然とした形式及び明瞭な状態」でディスプレイの画面及び書面に速やかに出力できるようにする(電帳規2②一・二、4①)。

また、電子インボイスの保存方法には、「電子データとして保存する方法」のほかに、「電子インボイスを出力して書面にて保存する方法」がある。この場合には、「整然とした形式及び明瞭な状態」で出力した書面を保存することによって、インボイス等の保存要件を満たす((新消規15の5②、新消規26の8②)。

インボイス制度下においても、帳簿と請求書等(インボイス等)の保存が「仕入税額控除」の要件となっているが、下記のような「交付困難な取引等」には「帳簿」のみの保存で「仕入税額控除」が認められる(新消令49①、新消規15の4)。

(1)インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

(2)簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)を記載した入場券等が使用時に回収される取引(上記(1)を除く)

(3)古物営業者のインボイス発行事業者でない者からの古物(古物営業者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

(4)質屋業者のインボイス発行事業者でない者からの質物(質屋業者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得

(5)宅地建物取引業者のインボイス発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

(6)インボイス発行事業者でない者からの再資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

(7)インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

(8)インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便•貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)

(9)従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等

4.4  インボイス制度における税額計算

4.4.1  消費税の納付税額の計算方法

4.4.1.1  売上税額の計算

令和元年10月1日に導入された複数税率制度では、消費税率が「標準税率」(10%)と「軽減税率」(8%)に区分されたので、課税売上げと課税仕入れを税率ごとに区分して税額計算を行い、それぞれ売上税額から仕入税額を控除して消費税の納付税額を算出している。インボイス制度においても、従来どおりに税率ごとに区分して、それぞれ売上税額から仕入税額を控除する「前段階税額控除法」が採用される。

ただし、インボイス制度における「売上税額」の計算方法には、原則的適用として、「割戻し計算」を採用しなければならない。「割戻し計算」とは、税率ごとに区分した課税期間中の課税資産の譲渡等の「税込価額の合計額」に、110分の100(標準税率対象の場合)又は108分の100(軽減税率対象の場合)を乗じて税率ごとの「課税標準額」を計算し、それぞれの税率(7.8%又は6.24%)を掛けて「売上税額」を算出する方法である(新消法45)。

売上税額の合計額=標準税率による売上税額(1)+軽減税率による売上税額(2)

(1)標準税率の対象となる売上税額=課税売上(税込み)×100/110×7.8%

(2)軽減税率の対象となる売上税額=課税売上(税込み)×100/108×6.24%

たとえば、標準税率対象の商品を550万円、軽減税率対象の商品を216万円で販売した場合、「割戻し計算」による「売上税額」は次のように計算される。

¥5,500,000×100/110×7.8%+¥2,160,000×100/108×6.24%=¥514,800

地方消費税は下記算式により145,200円と算定されるので、消費税額(国税)と地方消費税額を併せて66万円(=¥514,800+¥145,200)になる。

¥390,000×22/78+¥124,800×22/78=¥145,200

なお、取引相手先に交付したインボイス等の「写し」を保存している場合(電子インボイスに記録している場合も含む)には、すなわち「インボイス発行事業者」である場合には、特例的適用として「積上げ計算」を利用することができる。「積上げ計算」とは、これらのインボイス等・電子データに記載した消費税額等の合計額に100分の78を乗じて計算した金額を「売上税額」として算出する方法をいう(新消法45⑤、新消令62①)。

売上税額=インボイス等に記載した消費税額等の合計額×78/100

たとえば、前記例に「積上げ計算」を採用して「売上税額」を計算すれば、次のとおりになる。

¥660,000×78/100=¥514,800

地方消費税は、下記算式により145,200円と算定されるので、消費税と地方消費税を併せて66万円(=¥514,800+¥145,200)になる。

¥514,800×22/78=¥145,200

なお、特例的適用として売上税額を「積上げ計算」を採用した場合には、仕入税額も「積上げ計算」を利用しなければならない。

ただし、「簡易インボイス」では、「適用税率又は税率ごとに区分した消費税額等」の記載事項が要求されているが、「適用税率」のみを記載して交付する場合には、「税率ごとの消費税額等」が記載されていないので、「積上げ計算」を利用することはできない。その場合には、原則的適用である「割戻し計算」を採用することになる。

また、売上税額の計算として、取引相手先ごとに「割戻し計算」と「積上げ計算」に分けて適用する「併用適用」も認められているが、併用した場合であっても「売上税額」の計算につき「積上げ計算」を適用した場合に当たるために、「仕入税額」の計算方法には「積上げ計算」を適用する必要がある(インボイス通達4-3)。

なお、不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行うスーパーマーケットのような小売業者(「インボイス発行事業者」に限る)などが、そのインボイス等の「写し」を保存しているならば、次のような場合であっても、「交付したインボイス等の写しの保存」があるものとして、「積上げ計算」の適用が認められている(インボイス通達3-13)。

(1)インボイス等を交付しようとしたものの、顧客が受け取らなかったために物理的な交付ができなかった場合

(2)交付を求められたとき以外にレシート(簡易インボイス)を出力していない場合

4.4.1.2  仕入税額の計算

他方、「仕入税額」の計算方法には、原則的適用として「積上げ計算」を採用しなければならない。「仕入税額」の「積上げ計算」においても、取引相手先から交付を受けた「インボイス等」(提供を受けた電子インボイスも含む)に記載されている「消費税額等」のうち、課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を乗じて「仕入税額」を計算する(新消法30①、新消令46①・②)。この方法を「インボイス積上げ計算」といい、下記算式によって「仕入税額」を算定する。

仕入税額=インボイス等記載の消費税額等のうち課税仕入れに係る金額の合計額×78/100

「インボイス積上げ計算」では、次のような書類区分に応じた金額を基礎にして「仕入税額」を計算することになる((1)から(4)では電子データも含む)(新消令46①)。

(1)インボイスに記載された消費税額等のうち、「課税仕入れ」に係る部分の金額

(2)簡易インボイスに記載された消費税額等のうち、「課税仕入れ」に係る部分の金額

「適用税率」のみが記載され、「消費税額等」が記載されていない場合には、仕入側では税抜価額の合計額に100分の10(軽減税率対象には100分の8)、又は税込価額の合計額に110分の10(軽減税率対象には108分の8)のいずれかによって「消費税額等」を計算する。この場合、1円未満の端数処理としては、「切上げ」、「切捨て」、「四捨五入」のうちいずれかを利用できる。

(3)作成した仕入明細書等に記載された消費税額等のうち、「課税仕入れ」に係る部分の金額

(4)卸売市場で委託を受けて卸売の業務として行われる「生鮮食料品等の譲渡」及び農業協同組合等が委託を受けて行う「農林水産物の譲渡」については、「受託者から交付を受けた書類」に記載された消費税額等のうち、「課税仕入れ」に係る部分の金額

(5)「公共交通機関特例」など、帳簿のみの保存で「仕入税額控除」が認められるものについては、「課税仕入れに係る支払対価の額」に110分の10(軽減税率対象には108分の8)を乗じて算出した金額

この場合、1円未満の端数処理は「切捨て」又は「四捨五入」とされているので、切り上げることはできない。

「インボイス積上げ計算」のほかに、「仕入税額」の計算方法には「帳簿積上げ計算」も認められている。「帳簿積上げ計算」とは、課税仕入れの都度、「課税仕入れに係る支払対価の額」に110分の10(軽減税率対象には108分の8)を乗じて計算した金額(1円未満の端数は、「切捨て」又は「四捨五入」のいずれかによって処理される)を「仮払消費税額等」で「帳簿」に計上している場合に、その金額の合計額に100分の78を乗じて仕入税額を算出する方法である(新消令46②)。なお、「課税仕入れの都度」とは、「インボイス単位」で帳簿に「仮払消費税額等」として計上している場合のほかに、課税期間の範囲内で「一定期間内に」まとめて交付を受けたインボイスを単位として帳簿に「仮払消費税額等」として計上している場合も認められている(インボイス通達4-4)。

原則的適用として、売上税額には「割戻し計算」、「仕入税額」には「積上げ計算」が採用されるが、例外的適用として仕入税額に「割戻し計算」を採用することもできる。「仕入税額」の「割戻し計算」とは、税率ごとに区分した課税仕入れに係る「税込支払対価の合計額」に、110分の10(標準税率対象の場合)又は108分の8(軽減税率対象の場合)を乗じて「仕入税額」を算出する方法である(新消法30①、新消令46③)。

仕入税額の合計額=標準税率による仕入税額(3)+軽減税率による仕入税額(4)

(3)標準税率の対象となる仕入税額=課税仕入れ(税込み)×10/110

(4)軽減税率の対象となる仕入税額=課税仕入れ(税込み)×8/108

「インボイス積上げ計算」と「帳簿積上げ計算」を併用することは認められているが、これらの「積上げ計算」と「割戻し計算」の併用は認められていない(インボイス通達4-13)。つまり、仕入税額を「割戻し計算」により算出できる場合には、売上税額を「割戻し計算」を採用している場合に限られる。表7では、売上税額と仕入税額の計算方法が示されている。

表7 売上税額と仕入税額の計算方法
計算方法の適用 売上税額 仕入税額
原則的適用 割戻し計算 原則的適用:積上げ計算
例外的適用:割戻し計算
特例的適用(インボイス発行事業者のみの適用) 積上げ計算 積上げ計算

(出所)著者作成。

4.4.2  消費税額等の1円未満の端数処理

インボイスの記載事項である「消費税額等」に1円未満の端数が生じた場合には、一のインボイスについて、税率の異なるごとに1回の端数処理を行う(新消令70の10、インボイス通達3-12)。したがって、一のインボイスに記載されている個々の物品ごとに1円未満の端数処理を施し、その合計金額をもって「消費税額等」として計上することはできない。端数処理の方法としては、基本的には「切上げ」、「切下げ」、「四捨五入」など、任意の方法が認められている(インボイスQ&A問46)。

スーパーマーケットのような小売業者では、レジシステムで顧客(購入者)に発行するレシートは、一般の商品には「税抜価額」、たばこなど一部の商品には法令・条例により「税込価額」を記載している場合もある。「税抜価額」と「税込価額」が混在する場合であっても、簡易インボイスに記載する「税率ごとに区分した消費税額等」に1円未満の端数が生じたときは、一の「簡易インボイス」について税率ごとに1回の端数処理を行う必要がある(新消令70の10)。

ただし、一の「簡易インボイス」に税抜価額と税込価額が混在・記載されている場合には、いずれかに統一して「税率ごとに区分した課税資産の譲渡等の税抜価額又は税額の合計額」を記載するとともに、これに基づいて「税率ごとに区分した消費税額等」を計算しなければならない。その際における1円未満の端数処理については、「税率ごとに区分した消費税額等」を計算する際の端数処理(消費税法上の端数処理)には該当しないので、どのように端数処理を行うのかは事業者の任意である(インボイスQ&A問48)。

一般的には、商品の納品の都度、取引相手先に「納品書」を交付し、そこには事業者の名称、商品名、納品書ごとの合計金額を記載するが、インボイス制度では、納品書に「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率」及び「税率ごとに区分した消費税額等」の記載を追加するとともに、「請求書」に「登録番号」を記載した場合には、複数の書類(納品書と請求書)で「インボイス」の記載事項を満たすことになる(インボイス通達3-1)。この場合には、「納品書」に「税率ごとに区分した消費税額等」を記載するために、「納品書」につき税率ごと(10%又は8%)に1回の端数処理を行う。

なお、複数の委託者から委託を受け、それら複数の委託者に係る商品を一の購入者に受託販売した場合であっても、一のインボイスにより「媒介者交付」を行うことができる。その場合、受託者(媒介者等)は、インボイスの記載事項である「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額」を委託者ごとに記載し、「消費税額等」の端数処理も原則として委託者ごとに行わなければならない。ただし、受託者(媒介者等)が交付するインボイス単位で、複数の委託者の取引を一括して記載し、「消費税額等」の端数処理を行うことも認められている。

「代理交付」の場合においても、「媒介者交付特例」のように、複数の委託者から委託を受け、一の購入者に受託販売した場合、一のインボイスにより対応することができる。この場合にも、委託者ごとに「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額」を記載し、「消費税額等」の端数処理も委託者ごとに行う。複数の委託者(被代理人)の取引について受託者(代理人)が代理してインボイスを交付する場合には、各委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載しなければならない。複数の委託者の取引を一括して「請求書」に記載・交付する場合、委託者ごとに課税資産の譲渡等の「税込価額」又は「税抜価額」を記載し、消費税額等も委託者ごとに計算し、1円未満の端数処理を行う必要がある。

4.4.3  外貨建取引における消費税額等の1円未満の端数処理

米国ドル・英国ポンドなどの外貨建てで取引を行っている場合であっても、インボイスに記載する必要事項は国内取引における内容と同じであり、「税率ごとに区分した消費税額等」を除き、必要事項を外国語や外貨で記載しても差し支えない。ただし、最終的に計算される「税率ごとに区分した消費税額等」は必ず円換算した金額で記載しなければならない。

税率の異なるごとに区分した「消費税額等」を算定する場合、次のように(1)税率ごとに区分して合計した対価等の額((a)外貨税抜き又は(b)外貨税込み)を円換算した後に「消費税額等」を算定する方法(以下、「換算後算定法」と呼称する)、(2)税率ごとに区分して合計した対価等の額((c)外貨税抜き又は(d)外貨税込み)から外貨による「計算過程の消費税額等」を算出した後に「消費税額等」を円換算する方法(以下、「算定後換算法」と呼称する)が認めらている(インボイスQ&A問56)。

(1)「換算後算定法」

(a)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税抜き)を円換算した後に、適用税率(標準税率10%又は軽減税率8%)を乗じて「消費税額等」を算定する方法

税率区分の対価(外貨税抜き)×為替相場=税率区分の対価の額(円換算後)

税率区分の対価の額(円換算後)×適用税率(10%又は8%)=消費税額等

(b)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税込み)を円換算した後に、10/110又は8/108を乗じて「消費税額等」を算定する方法

税率区分の対価(外貨税込み)×為替相場=税率区分の対価の額(円換算後)

税率区分の対価の額(円換算後)×10/110又は8/108=消費税額等

(2)「算定後換算法」

(c)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税抜き)に適用税率(標準税率10%又は軽減税率8%)を乗じて、外貨による「計算過程の消費税額等」を算出した後に、為替相場を乗じて「消費税額等」を円換算する方法

税率区分の対価(外貨税抜き)×適用税率=計算過程の消費税額等(外貨)

計算過程の消費税額等(外貨)×為替相場=消費税額等(円貨)

(d)税率ごとに区分して合計した対価の額(外貨税込み)に10/110又は8/108を乗じて、外貨による「計算過程の消費税額等」を算出した後に、為替相場を乗じて「消費税額等」を円換算する方法

税率区分の対価(外貨税込み)×10/110又は8/108=計算過程の消費税額等(外貨)

計算過程の消費税額等(外貨)×為替相場=消費税額等(円貨)

為替相場には、所得税又は法人税の課税所得金額の計算において外貨建取引に係る売上金額その他の収入金額を円換算する場合と同様に、外貨建取引を行った日の対顧客直物電信売相場(telegraphic transfer selling rate:TTS)と対顧客直物電信買相(telegraphic transfer buying rate:TTB)の仲値(telegraphic transfer middle rate:以下、TTMと略す)が利用される。

換算後算定法における「税率区分の対価の額(円換算後)」を算出する際には、端数処理を行うかどうかは事業者の任意による。ここでの端数処理は、「税率ごとに区分した対価の額」の計算であり、インボイスの記載事項としての「消費税額等」の端数処理には該当しない。

算定後換算法における「計算過程の外貨建ての消費税額等」を算出する際には、端数処理を行うことはできない。ただし、最終的に日本円による「消費税額等」を算定する際には、端数処理を行わなければならない。

たとえば、米国から食料品(軽減税率対象資産)を$3,872、食器類(標準税率対象資産)を$4,256で購入し、TTMが¥142.13であった場合、上記(a)によって「消費税額等」を求めれば、その計算過程は次のようになる。

税率区分の対価の額:食料品 $3,872×142.13=550,327.36 →¥550,327

          食器類 $4,256×142.13=604,905.28 →¥604,905

消費税額等:食料品 ¥550,327×8%=44,026.16 →¥44,026

      食器類 ¥604,905×10%=60,490.5 → 60,490

                       104,516

4.4.4  請求金額の端数を値引きする「出精値引き」における対応

取引相手先に請求書を交付する際に、法人・個人事業者の努力・サービスによって請求金額の合計額の端数を値引きする「出精値引き」は頻繁に行われている。課税資産の譲渡等の対価の端数を値引きする場合、値引きの時期が(A)課税資産の譲渡等の前であるのか、又は(B)課税資産の譲渡等の後であるのかによって、対応は異なる(インボイスQ&A問58)。

(A)値引きの時期が課税資産の譲渡等の前で行われた場合、課税資産の譲渡等の対価から当該値引額を直接減額する。

(B)値引きの時期が課税資産の譲渡等の後で行われた場合、売上に係る対価の返還等とみなされ、返還インボイスを交付する。

上記(A)の場合は、これから行う課税資産の譲渡等の対価の端数値引きであり、「インボイス」を交付する必要があるため、その交付に際しては課税資産の譲渡等の対価の額から直接減額することになる。したがって、値引き後の対価の額に係る「消費税額等」を記載しなければならない。標準税率対象資産と軽減税率対象資産の取引を同時に行う場合の「出精値引き」については、端数値引き額を「資産譲渡等の額の比率」によって按分し、適用税率ごとに区分する必要がある。

たとえば、食料品(軽減税率対象資産)を60,480円(本体価格56,000円、消費税4,480円)、食器類(標準税率対象資産)を38,500円(本体価格35,000円、消費税3,500円)で販売するに際して、980円の出精値引きを行い、直接減額して98,000円で譲渡した場合、「資産譲渡等の額の比率」によって按分すれば、値引き後の消費税額は次のように算定される。

食料品:税込み値引額  980円×56,000円/(56,000円+35,000円)≒603円

    値引き後の税込み対価の額  60,480円−603円=59,877円

    値引き後の対価に係る消費税額  59,877円×8/108≒4,435円

    値引き後の税抜対価の額  59,877円−4,435円=55,442円

食器類:税込み値引額  980円×35,000円/(56,000円+35,000円)≒377円

    値引き後の税込み対価の額  38,500円−377円=38,123円

    値引き後の対価に係る消費税額  38,123円×10/110≒3,466円

    値引き後の税抜対価の額  38,123円−3,466円=34,657円

出精値引後の譲渡金額:(55,442円+4,435円)+(34,657円+3,466円)=98,000円

(B)の場合は、既に行った課税資産の譲渡等の対価の端数値引きであり、返還インボイスを交付することになる。インボイスと返還インボイスのそれぞれの記載事項を満たしていれば、一の書類で記載することもできる。この場合における「出精値引き」は、既に行った個々の取引のいずれかに対して行う性質ではなく、その請求全体に対して行う性質であるため、返還インボイスの記載事項である「売上に係る対価の返還等の基となる課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)」は、インボイスの記載事項である「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産である場合には、資産の内容及び譲渡等が軽減対象資産の譲渡等である旨)」と同じ内容であるので、記載する必要はない8

なお、値引きの時期が課税資産の譲渡等の前であるか後であるかについて、厳格な区分が難しい場合には、(A)と(B)のいずれかで対応しても差し支えない(インボイスQ&A問58)。

4.4.5  免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置を適用する場合の税額計算

インボイス制度下においては、「インボイス発行事業者以外の者」(つまり、免税事業者、登録を受けていない課税事業者又は消費者)からの課税仕入については、「仕入税額控除」の適用を受けることはできない。たとえば、免税事業者から商品を660万円(仕入高600万円、消費税60万円)で仕入れ、990万円(課税売上高900万円、消費税90万円)で販売した場合、免税事業者がインボイスを交付できないので、購入者は60万円の「仕入税額」を控除することはできない。したがって、売上税額90万円を消費税額として納付することになる。

ただし、インボイス制度導入から6年間に限り、「インボイス発行事業者以外の者」からの課税仕入であっても、表8のように、仕入税額相当額の一定割合を「仕入税額」とみなして控除できる経過措置が講じられている(「平成28年改正法」附則52①、53①)。

表8 経過措置の適用期間と仕入税額相当額の割合
経過措置の適用期間 仕入税額相当額の割合
令和5年10月1日~令和8年9月30日 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日~令和11年9月30日 仕入税額相当額の50%

(出所)「インボイスQ&A」問89.

前記例では、免税事業者(インボイス発行事業者以外の者)からの課税仕入れあっても、令和5年10月1日から令和8年9月30日までは48万円(=60万円×80%)、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは30万円(=60万円×50%)を「仕入税額」とみなして控除できる。経過措置期間を終えた令和11年10月1日以降では、「インボイス発行事業者以外の者」からの課税仕入には、「仕入税額相当額」は控除不可となる。

なお、「仕入税額」について「積上げ計算」を適用している場合には、課税仕入れの都度、その課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率対象の場合には108分の8)を乗じて算出する金額に一定割合(80%又は50%)を乗じて「仕入税額相当額」を計算する。その金額に1円未満の端数が生じたときは、「切捨て」又は「四捨五入」のいずれかで処理する。また、「割戻し計算」を適用している場合には、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額に110分の10(軽減税率対象の場合には108分の8)を乗じて算出する金額に一定割合を乗じて「仕入税額」を計算する。

免税事業者からの課税仕入れに係る会計処理としては、「税抜き経理処理」と「税込み経理処理」のうちいずれかを選択できるが、「税抜き経理処理」を採用した場合、インボイス制度導入前には、課税仕入れに係る「仮払消費税等」の額として計上する金額は、下記仕訳のように、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率対象の場合には108の8)を乗じた金額に相当する額とされていた。

(借) 資    産 6,000,000 (貸) 現金預金 6,600,000
仮払消費税等 600,000

インボイス制度導入後には、課税仕入れであっても、免税事業者などの「インボイス発行事業者以外の者」からの課税仕入れにはインボイス等の交付がないので、「仕入税額」の適用を受けることはできない。つまり、仮払消費税等と経理処理されてとしても、税務上では「消費税額」(仮払消費税等)がないことになる。当該仮払消費税等は、取引の対価の額に算入して所得金額を計算しなければならない。

ただし、6年間の経過措置では、「仕入税額相当額」に一定割合を乗じて「仕入税額相当額」を計算できるので、令和5年10月1日から令和8年9月30日までに取得する場合には、支払対価のうち48万円(=60万円×80%)万円を「仮払消費税等」の額として取引の対価から区分し、612万円を資産の取得原価として所得金額の計算を行う。令和8年10月1日から令和11年9月30日までに取得する場合、支払対価のうち30万円(=60万円×50%)万円を「仮払消費税等」の額として取引の対価から区分し、630万円を資産の取得原価として所得計算する。令和11年10月1日以降では仕入控除できる金額がないので、660万円を資産の取得原価として所得の金額を計算しなければならない。

5.  インボイス制度の特徴と課題―むすびに代えて―

「帳簿方式」では、前段階取引の消費税額である仕入税額を「帳簿の記録」と「請求書等」に基づいて控除できるが、「インボイス方式」では、「仕入税額控除」の適用要件として「帳簿」のほかに「インボイス等」を保存しなければならない。どんぶり勘定になり易い「帳簿方式」が引き起こす租税転嫁の不透明性に対処するためには、「インボイス方式」に移行する必要がある。また、国際取引の複雑化・加速化に対応する徴税システムを充実させるためにも、課税事業者・免税事業者を峻別する「インボイス番号」(登録番号)の付与が早急に行われるべきであった。

令和5年10月1日から、「仕入税額控除」の方法として従来の「帳簿方式」に代えて、「インボイス方式」の新規採用へのコペルニクス的転換が予定されている。昭和60年に廃案となった中曽根内閣時の「売上税法案」と同様に、納税者の事務簡素化のために請求書等を「インボイス」として利用する日本型附加価値税が導入される。複数税率制度下における「インボイス等」の記載内容も、現行の「区分記載請求書等」の記載内容に「インボイス発行事業者の登録番号」、「適用税率」及び「税率ごとに区分した消費税額等」を追加することにより、EU型インボイスと同等の記載内容となった。事業者の納税事務負担を軽減するという理由によって「帳簿方式」は導入されたが、この方式でも帳簿と請求書等の記録・保存は必要であり、「インボイス方式」が「区分請求書等保存方式」(帳簿方式)と比べて事務処理を煩雑にするとは言い難い。「インボイス」には、「区分請求書等」の記載内容のほかに、税額に関する表示欄の記載が増えるだけである。平成元年4月に創設された消費税にとって、EU型附加価値税制度に匹敵する「インボイス」の設定には34年半の時間を要したが、「インボイス方式」の導入によって「仕入税額」の明確化・租税転嫁の透明化が期待される。

しかしながら、「インボイス発行事業者」は課税事業者に限定されているために、免税事業者はインボイス等を交付できないので、「インボイス方式」に移行した場合、免税事業者からの仕入れは「仕入税額控除」の適用を受けることができない。この税務措置への変更によって、免税事業者からの仕入れが敬遠されたり、消費税分の値引きを強要される可能性は高い。免税事業者の販売取引が課税事業者に奪われ、取引そのものから除外されることが懸念される。そのために免税事業者はやむなく課税事業者となり、「インボイス発行事業者」の登録を行い、消費税を納付する選択が余儀なくされるかもしれない。ただし、消費税分の値引きや消費税の追加的納付は、中小零細事業者(免税事業者)にとって経済的負担が増える。

インボイス制度下において免税事業者が「インボイス等」を交付できない税務措置は、免税事業者に対して不当に経済的不利益を被る状況に追い込むものになると考えられ、税制の中立性の観点からも好ましいものではない。また、「インボイス方式」の導入により免税事業者を課税事業者になるように誘導する政策は適切な方法とはいえない(土師(2022)100頁)。

このような課題を解消するためには、現行の「区分記載請求書等」と同様に、免税事業者からの仕入れにも「仕入税額控除」を認めるべきである。インボイス制度導入から6年間には一定割合の「仕入税額控除」を容認する経過措置が講じられるが、時限的・限定額的措置であり、恒久的・全額的控除措置ではない。インボイス制度の導入を前提とするならば、中小零細事業者と購入者に対する配慮・税制の中立性確保のために、免税事業者にも「インボイス」に相当する書類の交付を認める措置が必要である。

さらにインボイス制度導入後に問題となるのは、インボイス等を悪用した脱税問題である。インボイス型附加価値税導入から半世紀を経過したEU域内においても、附加価値税の脱税スキームによる税収ロスは毎年600億ユーロに上る。EU域内の附加価値税脱税は組織犯罪化しており、犯罪集団は独自の偽造インボイス製造工場を所有していると言われる(西山(2021)22頁)。

わが国においてインボイス制度が導入された場合、半世紀も採用してきたEUと同様に、紙媒体又は電磁的記録によるインボイス偽造が発生するであろうことは否定できない。これを回避するためには、税務当局は警察機関と協働して予防対策を講じるとともに、罰則規定も厳罰化するべきである。

1  わが国の税制史上で初めて一般消費税の導入が俎上に載ったのは、昭和11年(1926年)9月に提示された馬場税制改革案である。二・二六事件勃発後に発足した広田弘毅内閣において、日本勧業銀行総裁を務めた馬場鍈一が陸軍の支持を受けて大蔵大臣に就任し、軍事費を中心とする膨張予算のために「増税・公債増発・低金利」を基本方針とする準戦時財政政策を公表した。暗殺された高橋是清蔵相が公債漸減と軍事費抑制を画策したのに対し、馬場蔵相は、準戦争体制下において軍部から軍事費増強を要求され、大幅な増税を立案した。馬場税制改革案では、既存の所得税・相続税・酒税・砂糖消費税の増税を計画し、新規税目として有価証券移転税・揮発油税・財産税・外貨債特別税とともに「取引税」(多段階累積型の「取引高税」に相当する)が提案されていた(大蔵省昭和財政史編集室(1957)355頁、猪木(1995)251–253頁)。「取引税」の導入を含めた馬場税制改正案は、昭和12年(1927年)1月に突発的な政変(寺内寿一陸相と浜田国松議員の腹切り問答)により広田内閣が総辞職したために、実現されることはなかった。

2  附加価値税(taxe sur la valeur ajoutée:TVA)という名称の租税は、フランスで初めて1954年に導入されたが、製造・卸売段階の課税に限定し、サービスを課税対象から控除していた(Balladur & Coutire(1982)p.239)。1967年EEC理事会が公表した「売上税の調和に関する指令」(Directive on the Harmonization Concerning Turnover Tax)に従って、1968年1月1日より附加価値税は小売段階にまで拡大され、サービスも課税対象に含められた(知念(1995)84–85頁)。

3  非課税取引(non-taxable transaction)では、課税売上高に係る売上税額が非課税となるだけであり、前段階の仕入税額はコストとして残留する。その点、免税取引(tax exemption transaction)は、非課税取引とは異なり、前段階の仕入税額を控除できるが、この免税取引と同じ効果を得る方法としてゼロ税率が、英国以外でも、たとえばカナダで1991年から使用されている(CCH(2001)p.1313)。課税売上高にゼロ税率を適用するということは、売上税額がない点では非課税取引の場合と同じであるが、前段階の仕入税額を控除できる点で異なる(菊谷(2018)158–159頁)。

4  新設合併、新設分割、個人事業者の新規開業等である場合にも、事業開始日の属する課税期間の末日までに「登録申請書」と「課税選択届出書」を提出すれば、特例として、その課税期間の初日からインボイス発行事業者(課税事業者)となることができる。「個人事業者」が法人を設立して事業を開始する場合には、「新設法人」としての手続きのほかに、「個人事業者」としての手続き(「事業廃止届出書」の提出)も必要である(インボイス通達2-7)。

5  「整然とした形式及び明瞭な状態」とは、書面により作成される場合による帳簿書類に準じた規則性を有する形式で出力され、かつ、出力される文字や数字等を容易に解読できる状態をいう。

6  「無条件委託方式」とは、売値、出荷時期、出荷先等に条件を付けずに農林水産物の販売を委託する方法であり、「共同計算方式」とは、一定期間の農林水産物の販売に係る対価の額をその農林水産物の種類、品質、等級ごとに平均した価格で算出した金額に基づいて精算する方法である(新消令70の9②二ロ、新消規26の5②)。

7  インボイスの機能は、(1)消費税の対象となる各取引の詳細情報が表示されていること、(2)インボイス記載内容によって税務当局が課税徴収の管理を行えること、(3)課税事業者の仕入税額控除の行使を可能にすることであり、これらの機能のうち(3)の機能により、インボイスは「仕入税額控除のための入場券」と称される(西山(2021)17頁)。

8  標準税率対象資産の取引のみを行っている場合など、適用税率が単一である場合には、返還インボイスの記載事項である「売上げに係る対価の返還等の金額」に係る適用税率も、インボイスの記載事項である適用税率と同じであるので、記載する必要はない。なお、返還インボイスでは、売上に係る対価の返還等の金額に係る税率ごとに区分した「消費税額等」又は「適用税率」のいずれかを記載すればよいことになっているので、「適用税率」を記載した場合には、「売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額等」の記載を省略することができる。

【略語一覧】
平成28年改正法

所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)

消法

「所得税法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第15号)による改正前の「消費税法」(昭和63年法律第108号)

新消法

「所得税法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第15号)及び「所得税法等の一部を改正する法律」(平成30年法律第7号)による改正後の「消費税法」(昭和63年法律第108号)

消令

「消費税法施行令等の一部を改正する政令」(平成30年政令第135号)による改正前の「消費税法施行令」(昭和63年政令第360号)

新消令

「消費税法施行令等の一部を改正する政令」(平成30年政令第135号)による改正後の「消費税法施行令」

新消規

「消費税法施行規則等の一部を改正する省令」(平成30年政令財務省令第18号)による改正後の「消費税法施行規則」(昭和63年大蔵省令第53号)

電帳法

「所得税法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第11号)による改正後の「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年法律第25号)

電帳規

「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(令和3年財務省令第25号)による改正後の「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」(平成10年大蔵省令第43号)

インボイス通達

「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達」(令和4年6月最終改訂)

インボイスQ&A

「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和4年4月最終改訂)

参考文献
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  • 金子宏(1976)『租税法』弘文堂。
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  • 金子宏(2002)『租税法〔第八版増補版〕』弘文堂。
  • 金子弘(2010)『租税法〔第15版〕』弘文堂。
  • 菊谷正人(2008)『税制革命』税務経理協会。
  • 菊谷正人(2018)『税制革命〔改訂版〕』税務経理協会。
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  • 西山由美(2021)「EU域内のインボイスの課題」『税研』第37巻第4号。
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  • Melville, Alan (2011) Taxation Finance Act 2010 Sixteenth edition, Prentice Hall.
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