イノベーション・マネジメント
Online ISSN : 2433-6971
Print ISSN : 1349-2233
論文
若者の裏アカウント保持行動の心理分析
―将来不安、顕示欲求を鍵として―
樋口 広喜中村 文亮中川 功一
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2025 年 22 巻 p. 207-218

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要旨

本研究は、日本の若者(Z世代)がX(旧Twitter)などのSNSにおいて「裏アカウント」を利用する理由と、その心理的背景を探求することを目的としている。裏アカウントの利用は、現代の若者がSNSを介してコミュニケーションを行う際に見られる典型的な行動であり、主な理由は、オンラインでの批判や誹謗中傷といった公的な監視を避けるためであると考えられる。我々は、若者が持つ特有の心理的状態が、こうしたオンラインでの批判への回避行動に影響を与えているという仮説を立てた。関東および関西地方の大学生581名を対象に実施した調査に基づき、将来に対する不安や自己顕示欲が、裏アカウントの利用に影響を与えていることが確認された。さらに、SNSの利用時間が長いユーザーやインターネットリテラシーが高い若者ほど、裏アカウントを利用する傾向が強いことも明らかとなった。これらの結果は、将来に対する期待や不安といった若者特有の心理的状態が、裏アカウントの利用につながっていることを示しており、彼らがインターネット社会においてある程度のストレスを抱えていることを示唆している。

Abstract

This paper examines why Japanese youth (Gen Z) use secret accounts on social media such as X (Twitter) and the psychological background. Use of secret accounts is considered typical among young Japanese when communicating through social media. It is thought that the primary reason for using secret accounts is to avoid public scrutiny such as online criticism and defamation. We hypothesize that the specific psychological condition of the young generation may be influencing avoidance of online criticism.

Based on a survey of 581 undergraduates in the Tokyo and Osaka regions of Japan (Kanto and Kansai), this study found that anxiety about the future and desire to show off are positively correlated with the use of secret accounts. Heavy usage of social media and high internet literacy are also correlated. Those results indicate that young generations’ specific psychological traits such as expectations and concerns about the future accelerate the use of secret accounts, suggesting that they experience some level of stress in online communities.

1.  研究目的

本研究は、近年世界中で、広がりを見せている、SNSにおける「裏アカウント保持」という行動が、いかなる意味を持つ行動であり、その引き金となる心理はどのようなものなのかを探るものである。世界のSNS普及率は約62.3%で、20代の使用率はさらに高いと予想される(Priori Data, 2024)。アメリカでは、18歳から29歳の若年層におけるSNSの使用率は著しく高く、YouTubeはこの年齢層で93%の使用率を記録しており、次いでInstagramが78%、Snapchatが65%である(Pew Research Center, 2024)。一方、日本においても、若者のソーシャルメディア使用は非常に活発である。総務省(2024)によると、10代後半から20代前半の90%以上が何らかのソーシャルメディアを利用しており、YouTube、LINE、Twitter(X)はそれぞれ異なる目的で使われている。

特に現代の若者世代は、生まれてこのかた、デジタル技術とともに生きており、娯楽も、教育も、交流も、一定の割合をオンラインで行うようになっている。このインターネット、デジタル技術、オンライン空間(本稿ではこれらをデジタル技術と総称することにする)は、彼らの価値規範や行動様式に少なからぬ影響を与えていると考えられている(中川, 2023西尾・柿島, 2023;八潮, 2023;Tripathi, 2017)。また、彼らが生きる時代のひとつの特徴に、「アテンション・エコノミー」がある(Goldhaber, 1997)。アテンション・エコノミーとは、情報が溢れる現代において、人々の注意を引くことが貴重な資源となり、企業や個人がその注意を引くために競争する経済の形態を指す。デジタルの力で、生活や経済活動が物理的制約を受けなくなった今、人間の認知能力こそが、何よりも限られた資源となっている。また、企業や個人が成功のために、そのアテンションを奪い合っている時代と言える。

本稿はそんなデジタル技術がZ世代の心理・行動様式に与えている影響を、裏アカウントの保持、という現象から検討していく。裏アカウントについて学術的な定義は存在していないが、公式的な自分のオンライン空間上での存在は一般に「表アカウント」と位置付けられ、これに対し非公式的な、自分の公式的な発言・見解とは位置付けないものを発信する第2のアカウントが「裏アカウント」である。そうした位置づけのアカウントを保有する行為は00年代にも観察されていたが、現代に及んで若者たちの間で広範に利用が進んでいる。日本においても、岡村・多根井(2020)では、Twitter1が回答者全体の41%、Instagramが回答者全体の14%が裏アカウントを保有しているとされ、我々の調査でも回答者全体の48%が何らかのSNSで裏アカウントを保有していることが明らかになっている。アメリカやヨーロッパでも、若者の裏アカウントの使用は広範に行われており、30~40%の若者が複数のソーシャルメディアアカウントを持っている。(Schoenfeld and Fiori, 2021Hootsuite, 2024

本研究では、「裏アカウントを保有・運用する心理的背景」を探ることを通じて、現代社会を生きる人、とりわけデジタル空間上での若年世代の行動原理の一端を解明することを目指す。裏アカウント保有がSNSが一般化した社会環境下における人間のある種の反応・対応行動であると考えるならば、裏アカウント運用を希求する心理を知ることが、現代人がいかなる社会環境のもとに、どのような精神状態で生きているかを理解することにつながると考えるのである。

2.  若者のSNS利用及び裏アカウントに関する先行研究

若者のSNSの裏アカウント利用行動を論じるためには、先立ってまずは若者たちがSNSをどう利用しているのか、その理解からスタートする必要があるだろう。若い世代(10代後半から20代まで)のSNSの利用実態については少なからず研究蓄積があるが、総じて明らかになっているのは、若者は情報収集や承認欲求を満たすためにSNSを使っており、その中で利用による依存や人間関係のストレスなどの課題を感じているということである(橋元, 2018小寺, 2014佐藤・矢島, 2017)。

河合ほか(2011)では、SNSへの依存と利用実態について調査を行い、SNS依存者の、使用によって感じる負担や犠牲や変化について明らかにし、依存者の多くは人間関係に負担を感じていると述べている。中村(2017)では、SNSをはじめとするインターネットサービスの利用状況と回答者の自己表出傾向との関係を調べ、自己開示に関してポジティブな回答者は自ら情報を積極的に発信することを明らかにした。また、岡本(2017)では、SNSの利用動機が、「欲求解消型」「友人関係維持型」はSNSに対するストレスが高く、「暇つぶし型」「消極的利用型」はSNSに対するストレスが低いことを示している。正木(2018)では、SNSと承認欲求の関係について論じており、日常で使用される承認欲求という言葉には、自己顕示的な振る舞いによって注目を浴びるという意味が含まれていると指摘している。Brand et al.(2024)の研究では、SNSの過剰使用と中毒行動が、特に心理社会的健康に与える影響が分析され、FacebookやInstagramといったSNSの使用頻度が高い青少年が、心理的ストレスや人間関係に問題を抱える可能性が高いことが示されている。

SNSの裏アカウントについても、少数ながら研究が発表されている。とりわけ充実した議論を行っている、正木(2020)では、「裏アカウント」を利用することで、本来の自分を隠し、社会的な拒絶や孤立の恐れ(疎外恐怖)を和らげていると指摘し、ユーザーは自分の「表」と「裏」の側面を表現でき、SNS上での人間関係のバランスを取る助けになっていると指摘している。van der Nagel(2018)では、SNS上での「裏アカウント」(altアカウント)を使用して、異なるアイデンティティや特定の相手に向けた自己表現を行うことができるとしている。さらに、こうしたアカウントの利用が、オンライン上のアイデンティティの多面性や、社会的圧力からの解放に寄与していると指摘している。

総じて、既存研究では、若者は自分たちの生活の、人生の一部としてSNSが当たり前にそこにある生活をしているが、その中では常時、知り合いや、見知らぬ人の視線を感じている。それが現代人固有のストレスとなる中で、自分をそのままに表現する場として裏アカウントを使っていることや、表と裏を使い分けることで人格や人間関係のバランスを取っていることが示唆されている。

3.  仮説構築

上記の既存研究を踏まえ、本研究では、SNSネイティブである若者たちが人々のアテンションを回避しながら自己のバランスをとるために裏アカウントを使う、という仮説のもとに若者のSNS利用の心理を探っていく。

Z世代は、生まれて以来SNSがそこにある存在として、ときに炎上したり、極端な論調に走るオンライン大衆行動の波を見てきている。若者たちはそれを楽しんだりもするものの、人生を棒に振るリスクすらあるものとして、リスクを認知したり、時には精神をさいなまれたりもしている。その点、裏アカウントは、「大衆のアテンションが及びにくいSNS」である。正木(2020)の言うように、発言が良くも悪くも世間の目にさらされることになる通常のSNSの使い方とは違い、裏アカウントならば、アテンションの作用から逃れて自由に発言・行動をすることができるのである。すなわち、炎上・誹謗中傷・無視・阻害といったものから相対的に自由に、自己顕示欲を満たし、自分が感じる不平不満を率直に述べられるものとして、裏アカウントを使っていると考えられる。

本稿は、この「衆人環視を避けて炎上や中傷のリスクから逃れる」ことが裏アカウント利用の基本的理由であるとする仮説に基づき、その動機(Driver)という観点として1)安全な自己顕示、2)安全な不平不満の表明という裏アカウント促進要因を、必要要素(Enabler)という視座からは、3)ヘビーユーザー、4)ネットリテラシー、という2つの促進要因を提案する。

1)安全な自己顕示の場としての裏アカウント。自己顕示欲は他者よりも優性であると認識したい・させたいという人間が生来生まれ持った生物的な欲求であり、それは肉体的な充実をみる青年期に最も高まるものとされる(Erikson, 1982)。SNS利用の根源的動機のひとつはこの自己顕示欲であり、若者がSNSにのめり込むのはこの自己顕示欲というものが媒介するゆえであると考えられている(正木, 2018Tovar, Rosillo, and Spaniardi, 2023)。

しかし、オンライン上での顕示的な行動は炎上のリスクがつねにつきまとう。誰かに承認されたいという思いが逸脱行動・違法行動を生んだり、そうでないとしても視聴した他者から妬まれたり陰口をたたかれたりするリスクが生じうる(太田, 2019)。

そうしたリスクを避けながら、自己に批判的ではない、同じ価値観を共有する人たちの間でのみ、自分の第2人格(アバター)で賞賛を得ることができる手段が、裏アカウントである。顕示欲求が高くなるほどに、SNSで、より多くの、より強く称賛されうる事柄を顕示したいという動機を強く持つ。それを自己の表アカウントで行ったとすれば、炎上のリスクや、他者からの否定的な反応を受け取り、その表アカウントで活動し続けることが困難になるだろう。かくして、自己顕示と自分の表アカウントの炎上・誹謗中傷リスクとのせめぎ合いのなかで、裏アカウントで投稿を行う、という行動が選択される可能性が高まると考えられるのである。

仮説1.顕示欲求が強い若者ほど、SNSで裏アカウントを利用する。

2)不安の表明の場としての裏アカウント。若者の心理のもう一つの大きな特徴は将来不安である。選択のパラドックス(Schwartz, 2004)、あるいはエイジング・パラドックス(Blanchflower, 2008;石山, 2023)の名で知られるように、若者の目の前に広がる広大無限な可能性は、同時にその可能性を掴めないリスクや、選択しなかった未来の可能性を捨てることに対する不安にもなるのである。とりわけ将来の社会変化や価値観の変化が著しい現代の若者は、強い不安の中で生きているとされる(舟津, 2024)。

そうした不安の感情は、裏アカウントの使用に結びつきやすいと考えられる。自身の公式的なアカウントでの不安表明は、自己の弱さを周囲にさらけ出すことになる。周囲から心配される可能性もあるし、自己の評価を下げてしまう可能性もある。これに対し、裏アカウントであれば自己と周囲との関係を変えることなく不安を吐露することができるほか、不安をぬぐうための情報収集や、同じ思いの他者とも交流しやすい。そのため、将来への不安心理の強い人ほど、裏アカウントを自らの本音を吐き出せる場として利用すると考えられる。

仮説2.将来不安が高い人ほど、SNSで裏アカウントを利用する。

3)ヘビーユーザーの利用法としての裏アカウント。4)ネットリテラシーとしての裏アカウント。ここまで2つの仮説は裏アカウント利用を促進する心理状況について注目したが、続いてはそれを可能せしめる(Enabler)個人のSNS利用能力に注目する。第一には、SNSの利用量と裏アカウント保持には正の関係があると考えられる。また、表では何をどこまで発言してよいか、裏では何を発言してもよいのか…といった高度なネットリテラシーも要求される。かくして、裏アカウントは、上記したような炎上リスクの低いSNSの使い方として、デジタル技術利用経験やネットリテラシーが高くなるほどに、自分の意見を相対的に自由に表明できる場だとして、活用するのではないかと考えられる。

仮説3.SNSのヘビーユーザーであるほど、SNSで裏アカウントを利用する。

仮説4.ネットリテラシーの高い人ほど、SNSで裏アカウントを利用する。

4.  調査方法とデータ

本調査は、「若者のSNS利用と消費行動に関する調査」の名で、関東学院大学(神奈川県)「データサイエンス概論」受講生と近畿大学(大阪府)「経営学A」と「経営管理論」を受講した学生を対象として、2023年4月–6月の期間に実施された2。サンプルの概要は以下の表1の通りである。関東学院大学生より372名、近畿大学生より209名、合計581名の回答を得ている。関東、関西のそれぞれの大学から回答を得て、一般化を図っているが、自然科学分野の学生が少ないことや、学力的な分散、結果として、女子学生の参加がやや少なかった点を鑑みると、日本の現在の大学生の一般的姿とは断言することはできない。しかしながら、近年の大学生の様子を窺い知ることができるデータであるといえる。

表1 サンプルの概要

ジェンダー 所属大学
男性 403 関東学院大学 372
女性 175 近畿大学 209
その他あるいは回答しない 3

(出所)著者作成。

簡単にサンプルのSNS利用に関する概観を見ておこう。表2は、裏アカウントの有無について纏めたものである。学校やバイト先などリアルな友人には広く知らせていない匿名アカウントを持っているか?どうかについて、半数弱の学生が、裏アカウントを保有しているとの回答を得た。

表2 裏アカウントの有無

度数
あり 279 48%
なし 302 52%

(出所)著者作成。

次に、メインアカウント、裏アカウントSNSの利用目的について、表3に示す。メインアカウント、裏アカウント両方において、情報発信の目的の割合が最多であった。メインアカウントでは約7割が学校やバイト先の友人との交流と答えた一方で、裏アカウントでは4割にとどまった。また、情報収集と回答した割合は3割程度にとどまったが、情報収集と意識してSNSを利用している人は比較的少ない傾向があるようである。

表3 「メインアカウント」「裏アカウント」のSNSの使用目的

SNSの使用用途
(複数選択可)
メインアカウント
(n=572)
裏アカウント
(n=279)
情報発信 443 77.4% 170 60.9%
情報収集 164 28.7% 82 29.4%
学校やバイト先の友人との交流 390 68.2% 107 38.4%
SNS上での知り合いとの交流 176 30.8% 67 24.0%
オンラインゲーム上での知り合いとの交流 62 10.8% 44 15.8%
SNS上の誹謗中傷から身を守るため 6 1.0% 12 4.3%

(注1)メインアカウントの総数はSNSを利用していないと回答した9名を除く572名。

(注2)裏アカウントは表2で裏アカウントを保有していると答えた279名。

(出所)著者作成。

次に、表4は、裏アカウントの運用についての回答を纏めたものである。メインアカウント、裏アカウント、それぞれで、非公開かつ申請があった場合のみに相互連携する、鍵アカウントにしているかどうかについて、裏アカウントでは、8割が鍵アカウントである一方で、メインアカウントも、3人に2人程度の割合で鍵アカウントにしていることが明らかになった。また、炎上を気にせず自由に発言できているかどうかについては、「全くそう思わない」が多数を占め、「全くそう思わない」「あまりそう思わない」の2項目で半数を占めた。

表4 「メインアカウント」「裏アカウント」の公開・非公開SNSで炎上を気にせず発言できるか

鍵アカウントであるかどうか メインアカウント
(n=572)
裏アカウント
(n=279)
はい 376 65.7% 231 82.8%
いいえ 196 34.3% 48 17.2%
炎上を気にせず自由に発言できているか メインアカウント
(n=572)
裏アカウント
(n=279)
全くそう思わない 246 43.0% 104 37.3%
あまりそう思わない 105 18.4% 43 15.4%
どちらでもない 112 19.6% 42 15.1%
ややそう思う 58 10.1% 46 16.5%
とてもそう思う 51 8.9% 44 15.8%

(出所)著者作成。

以上を踏まえるなら、裏アカウントを持ち、運用するという行為は、メインアカウントとは、SNS上で目的や交流関係を区別するための手段ということができる。一方で、メインアカウントにおいても秘匿性の高い鍵アカウントにする傾向が高く、また、裏アカウントでも炎上を気にせず自由に発信しているわけではないという傾向がみられた。

表5は次節の分析で用いる、変数の詳細である。将来の夢がスポーツ選手という回答が一定数みられた。スポーツ選手を目指す学生は、一般的な学生の価値観を調査するにあたり、プロスポーツ選手を目指す若者は特異なサンプルであると考えられるため、制御変数とすることとする。その他、ラグジュアリー体験や購買意欲に関する質問、楽観的か悲観的かどうかなどの価値観を問う質問、SNSの利用に関する質問をそれぞれ変数とした。

表5 本研究で用いる変数の質問項目

変数名 質問項目
性別ダミー 性別を教えてください(男性=0、女性=1、その他=2)
将来の夢 スポーツ選手ダミー 将来の希望:スポーツ選手(はい=1、いいえ=0)
所属大学 ダミー 所属している大学名を教えてください(近畿大学=0、関東学院大学=1)
自分の趣味の購買意欲 自由な1000万円の使い道:自分の趣味の物を買う(はい=1、いいえ=0)
ラグジュアリー体験の投稿意欲 高い洋服やバッグを買った際や、高級なホテルやレストランを利用した際、SNSに投稿したいと思いますか?(はい=1、いいえ=0)
楽観的か悲観的か あなたは悲観的なほうですか。楽観的なほうですか。(とても楽観的だ=5、やや楽観的だ=4、どちらでもない=3、やや悲観的だ=2、とても悲観的だ=1)
日常のSNS情報収集頻度 日常の情報収集において、どれほどSNSを使いますか?(とても使う=5、やや使う=4、どちらでもない=3、あまり使わない=2、まったく使わない=1)
SNS利用時間 1日の平均的なSNS(Facebook, Twitter, Instagram, Tiktok, mixi)の利用時間を教えてください。「●●分」で答えてください
SNS上の多様性の配慮やリスペクト 人々の多様な考えやプライバシーを尊重してSNS上で発信することができる。(とてもそう思う=5、ややそう思う=4、どちらとも言えない=3、あまりそう思わない=2、まったくそう思わない=1)

(出所)著者作成。

表6は説明変数間の相関について示したものである。それぞれの変数間に、強い相関がみられるものはなかった。

表6 説明変数間の相関行列

1 2 3 4 5 6 平均 標準偏差
1.自分の趣味の購買意欲 0.12 0.03 0.00 −0.02 0.00 0.22 0.41
2.ラグジュアリー体験の投稿意欲 0.00 0.28 0.19 0.12 2.65 1.26
3.楽観的か悲観的か 0.08 0.04 0.07 2.97 1.21
4.日常のSNS情報収集頻度 0.29 0.27 4.48 0.84
5.SNS利用時間 0.06 118.25 95.56
6.SNS上の多様性の配慮やリスペクト 4.06 0.97

(出所)著者作成。

5.  分析結果

本調査では、ロジスティク回帰分析を用いて、Z世代の裏アカウント利用の有無の要因分析を行う。そこで、裏アカウントすなわち広く周囲に知らせていない匿名アカウントを利用しているかどうかを、被説明変数とする(yes=1, no=0)。具体的には、「裏アカウント(学校やバイト先などのリアルな友人には、広く知らせていない匿名アカウント)を持っていますか?(はい=1、いいえ=0)」の回答に依るものである。

説明変数には、本調査で得られた回答を使用する。回答内容は、大枠で、学生生活や基本的価値観やSNS利用の特徴や基本的な価値観が含まれる。また、制御変数として、性別、大学名、スポーツ学生(将来の夢がスポーツ選手であった学生)を用いる。なお、分析に用いた変数はすべて標準化している。

表7に分析結果を示す。まずは、それぞれの仮説についての結果を検討する。仮説1「顕示欲求が強い若者ほど、SNSで裏アカウントを利用する」については、「自分の趣味の購買意欲」と「ラグジュアリー体験の投稿意欲」の2項目において、5%有意水準で支持された。顕示欲求を安全に満たしたいという若者の動機が、裏アカウントの利用に繋がっていると言える。

表7 分析結果

被説明変数:裏アカウント保有の有無(yes=1, no=0)
変数 係数 P値 オッズ比 オッズ比の信頼区間
切片 −0.11 0.25 0.90 0.75~1.08
性別ダミー 0.41 0.00 1.50 1.25~1.81
将来の夢 スポーツ選手ダミー −0.29 0.00 0.75 0.61~0.90
所属大学ダミー −0.01 0.95 0.99 0.83~1.20
自分の趣味の購買意欲 0.26 0.01 1.29 1.08~1.55
ラグジュアリー体験の投稿意欲 0.26 0.01 1.29 1.07~1.56
楽観的か悲観的か −0.21 0.02 0.81 0.68~0.97
日常のSNS情報収集頻度 0.34 0.00 1.41 1.14~1.77
SNS利用時間 0.23 0.02 1.26 1.04~1.53
SNS上の多様性の配慮やリスペクト 0.17 0.08 1.19 0.98~1.44
サンプル数 581

AIC: 724.87

McFadden R2 0.12

Log-Likelihood −352.44

(出所)著者作成。

仮説2「将来不安が高い人ほど、SNSで裏アカウントを利用する」については、「楽観的か悲観的か」において、5%有意水準で支持された。悲観的であるほど、裏アカウントを利用することが示唆された。裏アカウントが、不平不満を表出する安全な場として機能しており、不満や不安を公然と表現することのリスクを避けつつ、同じような感情を持つ他者と共感を得たいという動機が裏アカウントの利用に繋がっていると言える。

仮説3「SNSのヘビーユーザーであるほど、SNSで裏アカウントを利用する」について、「日常のSNS情報収集頻度」は1%有意水準で、「SNSの利用時間」については、5%有意水準で支持された。普段からSNSを利用しているユーザーほど、様々な目的での裏アカウントの利用に繋がっていると言える。

仮説4「ネットリテラシーの高い人ほど、SNSで裏アカウントを利用する」については、「SNSでの多様性やリスペクトの配慮」は、10%有意水準で支持された。高度なネットリテラシーを持つユーザーがSNSのリスクを避け、自由な表現の場を享受するために裏アカウントを利用していると言える。

6.  ディスカッション

本研究では、仮説1から4が全体的に支持され、若者が裏アカウントを利用する背景には複数の心理的・行動的要因が影響していることが確認された。顕示欲求や将来不安、SNSの利用頻度、ネットリテラシーの高さが裏アカウントの利用を促進する重要な要素として作用していることが明らかになり、これにより若者がSNS上で自己表現やリスク回避のために裏アカウントを積極的に活用している実態が浮き彫りとなった。

仮説では取り扱わなかったものの、性別や将来の志望が裏アカウントの利用に影響していることが分かった。女性は裏アカウントを多く利用する一方、スポーツ選手志望の学生は、裏アカウントを使う頻度が低い傾向が見られた。これにより、ライフスタイルや関心がSNS利用に影響を与えていることが示唆された。今後の研究において、個々のバックグラウンドや心理的動機をより詳細に検討する余地がある。

本研究の結果から、SNS利用に対する単純にSNSを規制するだけでは若者の裏アカウント利用行動には十分に対応しきれないことがいえる。匿名コミュニティや鍵付き投稿機能を提供し、若者が安心して自己表現できる場に対応する必要があるだろう。投稿内容を自動で判定できる機能を提供するなど、炎上や批判のリスクの可能性を減少させる手段を考える必要がある。これにより、自由で安全なSNS利用環境を整えることが可能となる。

また、SNS依存や精神的な負担を軽減するためのリテラシー教育やメンタルヘルス支援も重要な施策となるだろう。マーケティング面では、若者の裏アカウント利用を活かしたプロモーションも重要である。匿名性を尊重したキャンペーンを展開し、顧客の本音やニーズを収集することで、商品やサービスの改善に役立てることができる。また、匿名のフィードバックを活用することで、若者がリスクを感じずに参加できる新しいマーケティング手法を構築できる可能性があるだろう。

本研究にはいくつかの限界が存在する。まず、関東・関西の2大学を対象に調査を行い、一定の一般化を試みたものの、自然科学分野の学生が少ないことや、学力的な分散、また女子学生の参加がやや少なかったことが問題点として挙げられる。これにより、調査結果の一般性には限界がある。また、裏アカウント利用に関する詳細な分析やインタビュー調査などの質的調査が行われていない点も、今後の課題として残された。また、裏アカウントの利用動機を主に心理的要因(顕示欲求や将来不安、ネットリテラシー)に焦点を当てたが、家族関係や所属コミュニティの文化、メディアの影響など、社会的・文化的要因がどのように影響しているかについての検討は不十分である。また、若者が表と裏のアカウントをどのように使い分け、異なるアイデンティティを表現しているかについても、さらなる検討が必要である。

SNSを使うことが一般化している、あるいは使うことを余儀なくされている環境下にあって、若い世代はそれに対する対処として、裏アカウントを用いていた。分析からは、若者固有の顕示欲求や将来不安がこうした行動を加速させることが示され、少なからずストレスがかかっている状況が示唆された。今後の研究では、SNSが若者の心理に与える影響をより多角的に捉え、具体的な支援策や対策を提案していくことが求められる。

1  本研究の質問項目では現在のXではなく、Twitterという名称を使用した。そのため、本稿でもTwitterの表記を使用している。

2  アンケート実施にあたり調査結果の学術論文への利用について、被験者の同意を得た。この調査ではまず基礎的な記述統計量の報告が中村他(2023)で行われた。本論文は同報告での発見事実に基づいて、Z世代の行動動機について理論的な検討を深め、それを検証するものである。

参考文献
 
© 2025 法政大学イノベーション・マネジメント研究センター
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