抄録
本研究では父島気象観測所の観測データ(1998-2007年)を用いて,最近10年間の小笠原諸島における水文気候環境について明らかにした。1998年から2001年までは気候湿潤度(年降水量/年ポテンシャル蒸発量)が1.0前後で乾燥と湿潤状態が釣り合った状況であったが,2005年をのぞく2002年以降は気候湿潤度が1.0を下回り,乾燥する傾向にあった。2004年は,アジアモンスーンの北上が早く,北太平洋(小笠原)高気圧がよく発達したため強い乾燥環境に晒され,乾燥期間が5ヶ月以上の長期間継続した。特に,2004年4月と5月には気候湿潤度が0.3以下となり,土壌水分量の低下や流出量の減少を通じて,小笠原諸島の島嶼生態系に影響を与えたことが示唆された。小笠原諸島における20世紀後半からの乾燥化は2001年以降も進行しており,今後,2004年のような強い乾燥年が起因となって,小笠原諸島における島嶼生態系の急激な変化を引き起こすことが予想された。