陸水学雑誌
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原著
河川水辺の国勢調査から見た日本の河川底生動物群集:全現存量と主要分類群の空間分布
小林 草平赤松 史一中西 哲矢島 良紀三輪 準二天野 邦彦
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2013 年 74 巻 3 号 p. 129-152

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抄録

 「河川水辺の国勢調査」で得られている底生無脊椎動物(底生動物)データの中から解析可能な108水系-724地点の定量調査データを選別し,「瀬」の全底生動物現存量(全現存量)について国内の頻度分布を求めるとともに,地点を河床勾配,底質,地方を基に区分し,全現存量の空間パターンを調べた。全地点を対象とした全現存量(湿重)の中央値は冬春期が19.56 g m-2,夏秋期が10.04 g m-2であった。こうした値は,瀬に限定すると国内で過去に示された値と大きな違いはない一方で,海外の値に比べて数倍大きかった。全現存量は小さい河床勾配(<1/1600)や底質の区分(泥や砂:<2 mm)の地点で最小で,中ほどの河床勾配(1/800-1/400)や底質(粗礫:5-10 cm)の区分までは区分が上がるとともに増加した。また,全現存量は北東日本(特に東北,関東,北陸)に比べて西南日本(特に中国,四国,九州)で大きく,これらの間には中央値で2.7-6.6倍の違いがあった。底生動物の多くの属が,全現存量が高い河床勾配や底質の区分に対して高い選好度(出現や生息密度を基に評価)を示し,またその生息密度と全現存量の間に正の相関を示した。造網性トビケラは,こうした傾向が最も顕著であり,また重量推定により全現存量に対する寄与が大きいと考えられた。全現存量と正の関係にあるこうした底生動物の生態を踏まえ,空隙量や安定性といった河床条件が瀬の全現存量に影響する重要な要因と考えられた。また,全現存量と属数の正の相関から,全現存量の大きい瀬では,特定の少数属が優占するのではなく,多くの属が共存している状態であることが示された。

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© 2013, The Japanese Society of Limnology
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