抄録
1. 海抜1,416mの高原にあって, 年間150~200万人の行楽客を有する温水溜池用人造湖, 白樺湖の水質と生物群集の現状を知る目的をもって, 日本陸水学会甲信越支部は, 1969年8月30, 31の両日合同調査を行なった。水質と底質の現状は次のようである。
2.水温は水深2~4mに位置する躍層を境にして, 表層は21→15℃深層は15→11℃で, 流入河川の平均水温9℃よりはるかに高く, 温水溜池の機能を果たしている。
3. 透明度は場所による差はなく1.0~1.2mで著しく小さい。
4. pHは表層7.7深層6.4の程度。
5. DOは2m以浅の表層は8.5~10.0ppm飽和度100%, 4m層1.8~3.4ppm, 20~30%, 5m以深ではゼロになる。
6. アルカリ土類金属イオンの含量は微小。
7. NH4-Nは表層0.12~0.15, 中層0.25~0.40, 底層0.65ppmで, 流入河水の0.05~0.07ppmより格段に多く, 顕著な正列成層を示す。
8. Clは表層4.3~4.6, 深層3.1~3.4ppmで逆列成層を示し, 流入河水の0.3~0.8ppmより著しく多い。
9. 場所, 水深を総平均してCODは2~3ppm, BODは3~5ppmで, 表層が深層より大きい傾向がある。これらの値は長野県下で富栄養湖と目される湖沼の値と同列である。
10. 1日間に全河川から流入する総水量, 総N量, (NH4+NO3) -N, および総P量 (PO4) と音無川から流出するこれらの量との関係は
水量 (m3/日) : 26352対43,200 N量 (kg/日) : 3,067対20,736
P量 (kg/日) : 0.631対0.864
で, 3者とも流入する量より流出する量がはるかに大きい。不明の湧水, 湖外からの多量の下水, 湖底と湖外からの多量の栄養塩の供給のあることを示唆する。
11. 底泥の粒子は微細で直経0.25mm以下のものが90%以上を占める。風乾物のT-℃含量は10~14%, T-Nは0.8~1.0%, C/Nは12~14で, 諏訪湖湖心部底泥 (1968.8.13の値) T-C4.12%T-NO.45%, C/N10.2に比較して著しく大きい。C, Nの値からこの湖水の底土は明らかに腐植土に属し, C/Nの大きいことは分解速度の遅いことを示す。これによって湿原時代の多年にわたる植物遺体の堆積と, 分解困難なその成分と, 低水温によるその分解の遅い事情がわかる。
12. 腐植底泥からの有機質の溶出と底泥の浮上によって湖水は湛水当時から現在にいたるまで微褐色を呈し, 風のある日には褐色の度合いが大きい。
13. この湖水の富栄養化のおもな原因は湖水がもともと腐植栄養型であり, これに湖辺に展開する人間活動に由来する多量の汚〓下水の流入に求めることができる。