2003 年 64 巻 2 号 p. 113-120
干潟生態系の有機物分解機能を底泥の酵素活性から評価する事を目的として,日本国内5地域(北海道東部,東京湾,伊勢湾,有明海,八重山諸島),13箇所の干潟において夏季干潮時に底泥を採取し,セルロース分解酵素(セルラーゼ,CEL)及びキチン分解酵素(β-アセチルグルコサミニダーゼ,AGA)活性を,それぞれカルボキシルメチルセルロースとp-ニトロフェニル-b-D-グルコサミドを基質として測定した。その結果,CEL活性は2-30nmolg-1h-1,AGA活性は10-140nmolg-1h-1の範囲で干潟問で大きな差が認められた。これらの酵素活性の間には高い相関が見られた。また、これらの酵素活性と底泥の有機物量,シルト粘土含量の間には概ね正の相関が認められ,泥質で有機物含量の高い干潟で酵素活性は高く,分解機能も高いことが示唆された。また,甲殻類の多い干潟ではAGA活性が相対的に高い傾向が見られた。これらの結果から,干潟底泥の酵素活性は干潟の理化学性,生物特性によって大きく変動し,分解機能の指標の一つになると考えられた。