日本臨床外科医学会雑誌
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先天性上部小腸閉鎖症の臨床的ならびに病理組織学的研究
川崎 茂喜
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1972 年 33 巻 1 号 p. 15-35

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抄録

先天性腸閉鎖症は新生児期にイレウス症状を呈し,緊急手術を要する疾患の中はで最も頻度が高く,本邦では尚も死亡率が高い.
著者の精査した24例でも48時間以内に来院した症例は45.5%と少なく,死亡率は37.5%と高かつた.入院までの体重減少率は1日目来院児では15%以内であつたが,日を追つて高率となり,早期診断が必要である.
先天性上部小腸閉鎖症の部位別分類を解剖学的分類ではないが,十二指腸閉鎖, Treitz靱帯より10cm以内の空腸上部閉鎖及び10cm以下の空腸下部閉鎖とに分け,種々の特徴と利点を認めた.症例の分析で,早産児,第2子女児が多かつた.羊水過多,合併奇型及び未熟児は上部閉鎖例に多く,部位の診断に役立つ.
上部消化管閉鎖の場合の腹部単純X線撮影は,全身状態の悪い症例の多い新生児期にあつては安全且つ容易であり,生後間もなくでも診断的価値がある.また術前閉鎖部位を予見することは手術を行なう上からも重要な意義があり, X線像より, Double bubble sign群, Tripple bubble sign群及びMultiple bubble sign群の3群に分類し,それぞれ特徴を有し,十二指腸閉鎖,空腸上部閉鎖及び空腸下部閉鎖に当たり,診断上有意義である.
また本症の発生病理に関しては諸説があり,複数原因説が想像されるが,その具体的な関係に関しては尚も不明な点があるため,臨床的ならびに病理組織学的検索を行ない,十二指腸膜様閉鎖及び空腸上部膜様閉鎖では腸管発育障害によるPrimary atresiaが考えられた.空腸下部膜様閉鎖及び盲端閉鎖例ならびに多発閉鎖ではaccidentによる血行障害或はくつつき現象によつて発生するSecondary atresiaと考えられた.
早期診断,充分な術前管理により手術を行なうべきであり,狭窄例では吻合の際,両断端の組織学的検査を試みる必要がある.盲端部の切除吻合で,口側,肛門側とも6~10cm内外を切除することが良好と考えられた.また空腸上部膜様閉鎖では,膜様物切除部を越えてのチューブ挿入を合併して行なうことにより術後経過が良好であつた.

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