抄録
膵膿瘍は手術時および剖検時に診断されることが多く術前に診断されることは少ない.原因疾患としては急性膵炎が圧倒的に多く,その他,外傷,胆道系疾患,腫瘍,仮性嚢腫などがあげられる.病態も重篤な例が多く予後不良な疾患である.
本症例は昭和51年に胆嚢炎の診断で開腹術を受けているが,手術所見における特記事項としては,無石胆嚢炎であり,総胆管は1.5cm径に拡張,乳頭部の通過は良好,膵頭部は弾性硬に触知するが腫瘤は認めず他部は正常という内容であった.昭和56年7月末より上腹部痛および背部痛にて内服加療を受けていたが,同年8月末腹部腫瘤を指摘された. 10月には背部痛増強し入院となるが,入院後大量下血に伴なうショック,肝機能悪化,黄疸出現,高熱の持続などがみられ, 10月23日精密検査および手術目的にて当院紹介入院となった.入院時右上腹部に手挙大の弾性硬,半球状の腫瘤を触知した.膵嚢胞の診断のもとに11月5日手術施行.腫瘤は正常膵組織に被われており,確認のため穿刺を行なったところ黄色,粘稠な膿汁約40cc吸引した.膵嚢胞内に発生した膵膿瘍と診断し,十二指腸上部水平脚と膿瘍壁間に約3cmの内瘻を造設し,さらに内瘻より膿瘍内にネラトンを挿入し,これを経十二指腸的に体外へ誘導し外瘻とした.術後経過は良好で,術後34日めには軽快退院した.