抄録
本邦においては稀な疾患と考えられている原発性硬化性胆管炎は肝内外胆管にびまん性に炎症性肥厚を生ずる場合が多く,病変部位が胆管の一部に限局している症例は極めて少ない.
今回,私共は総肝管を中心に小さな炎症性肥厚が生じ閉塞性黄疸をきたしたために発見された原発性硬化性胆管炎の1症例を経験したので報告する.
症例は24歳男性.黄疸,〓痒感を主訴として入院.超音波検査法で肝内胆管の拡張を認め,内視鏡的胆管造影法では左右肝管合流部近傍の総肝管に長さ5mmの辺縁平滑な全周性狭窄を認めた.経皮的胆管造影法では左右肝管と肝内胆管が著明に拡張し,造影剤は左右肝管合流部以下に流出しないという所見が得られた.経皮的胆管ドレナージが不成功に終ったため開腹したところ,総肝管に小指頭大の硬結を触知した.胆嚢を摘出後,総胆管を切開し,狭窄部位を通過させてY.チューブを左右肝管に挿入し外瘻とした.十分に減黄されてから,上部胆管癌の診断のもとに再開腹し,上中部胆管,左右肝管切除,第II群リンパ節郭清,肝門部空腸吻合術を行った.,切除標本をみると,総肝管壁は7mmの範囲が著明に肥厚し弾性硬であり,同部の粘膜面は発赤し粗造であった.また,胆管壁の肥厚は左右肝管合流部にも僅かに及んでいた.組織学的に病変部位は正常部位に比して,主として漿膜下層の線維化により著しく肥厚し,中等度のリンパ球と少数の形質細胞,好酸球の浸潤が認められるも,悪性所見はなかつた.以上より,自験例は原発性硬化性胆管炎の限局型と診断された.病変部位を完全に切除し得た原発性硬化性胆管炎の予後に関する報告は少なく,自験例を長期に亘り慎重にfollow upしたいと考えている.