抄録
1980年までに数室で経験した胃腫瘍826例の中で,胃粘膜下腫瘍は31例, 3.9%を占めた.そのうち,良性腫瘍は8例,悪性腫瘍が23例(74%)であった.組織診断は,良性例では平滑筋腫,平滑筋芽腫,悪性例では悪性リンパ腫,平滑筋肉腫,悪性平滑節芽腫などであった.術前の診断をみると,全体の54.8%が胃粘膜下腫瘍と疑診または確診されている.悪性リンパ腫10例の術前正診率は10%,非リンパ性悪性腫瘍12例では92%と,悪性リンパ腫はきわめて低い正診率を示した.診断の根拠となった検査別正診率をみると,胃透視が14%, 胃内視鏡が20%と低率であるのに対し,血管造影では78%と高い術前正診率を示した.病理組織学的には,腫瘍5cm以上,多発する病変,粘膜面の変化,漿膜への浸潤などは,悪性を疑わす所見であり,悪性リンパ腫は潰瘍形成,非リンパ性肉腫は臍形成を伴なうことが多い.リンパ節転移は,悪性リンパ腫で82%,非リンパ性肉腫で45%が転移陽性で,平滑筋肉腫,悪性平滑筋芽腫ではすべてn2以下のリンパ節転移であった.手術術式は胃癌に準じたR2, R3, またはsimple gastrectomyを行った.予後をみると,悪性リンパ腫では平均生存9年6カ月以上,非リンパ性悪性腫瘍では3年6カ月以上であった.
以上より次の結論をえた.
術前診断には血管造影が有用で,とくに非リンパ性肉腫に対しては診断的価値が高い.悪性リンパ節転移陽性率は82%で高率であった.非リンパ性悪性腫瘍でも45%にn2以下のリンパ節転移陽性を認め, R2, R3の積極的リンパ節廊清が必要と考えられた.悪性リンパ腫は平均生存期間が9年6カ月以上と非リンパ性悪性腫瘍に比し予後が良好であったが,これは積極的なリンパ節廓清に加え,多剤併用による術後の補助化学療法が功を奏したためと思われる.