抄録
本邦における胃平滑筋芽細胞腫の報告は, 1964年吉田の報告以来1980年12月までに75例みられる.我々は本邦最大と思われる1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
症例は上腹部膨満感を主訴とする35歳の男性で,胃角部小弯より有茎性に胃外発育した巨大な腫瘤(総重量6300g)を平滑筋腫と判断し切除した.腫瘤は大部分は多房性嚢胞だが充実性部分も散在し, 2300mlの内容吸引後の大きさは32×28×8.5cmであった.特徴的組織所見から胃平滑筋芽細胞腫と診断したが,腫瘍の大きさ及びmitotic rate等から悪性を否定し得ず, 2次的に胃亜全摘とリンパ節郭清を行なった.術後1年を経過して健在である.
文献的考察では,本腫瘍は各年齢層にみられるが40歳以上に多く性差はない.症状は消化管出血や腹痛が各々1/3強と多いが無症状の場合も15.1%ある.発生部位は胃体部(50.7%), 前庭部(40.6%)に多いが,前後壁,大蛮小蛮の差はない.大きさは2.1~10.0cmが84.4%と大部分で胃内発育型が57.3%と多いが,胃外発育型では巨大嚢胞を形成し術前診断が困難な場合が多い,診断上最も有力な手段は生検であるが,粘膜下病変のため,高周波凝固生検等の工夫を要すると思われる.組織学的に光顕所見は大型,好酸性の胞体を有する円~楕円形の細胞,核周囲のclear zone等特徴的であるが,発生母地については必ずしも意見の一致をみず今後更に電顕による検索が必要であろう.ほとんどは良性で腫瘍を完全に含めた部分切除で良いが,悪性像を7例(9.2%)に認めた.悪性か否かの判断はmitotic rate, 腫瘍の大きさの他,部位も鑑別の一助となるが絶対的なものはない.悪性が疑われる時は胃切除を施行しまた2例(2.6%)のリンパ節転移をみることからリンパ節郭清も付加すべきと思われる.自験例でも術後に本腫瘍と判明し再手術を施行した.本腫瘍の発育は遅いので転移巣も積極的に切除することで長期生存が得られるが,長期の術後経過観察も必要である.