抄録
乳糜性腹水症は比較的稀な疾患である.その発生機序は主要リンパ管系の破裂,あるいは損傷によるリンパの腹腔内への漏出であることには言をまたないが,原因として一般的には外傷性,閉塞性,先天性または特発性に大別されている.この分類に従うと手術損傷による乳糜性腹水症は外傷性とされる.
今回われわれは高齢者胃癌患者の胃切除後に乳糜性腹水症を発生した症例に遭遇し,長期間にわたり保存的療法を行い治癒せしめ得た.症例は72歳男性, II c型早期胃癌で胃切除術をうけた.手術直後より腹腔内ドレーンから多量の排液が持続し減少傾向を示さなかった.諸検査の結果乳康性腹水症と診断した.そこで高カロリー輸液に加え脂肪制限食,中鎖脂肪酸medium chain triglyceride(以下MCT)投与等による長期間の保存的療法を施行した結果治癒に至った.
腹部手術後に発生した乳糜性腹水症の報告例は非常に少なく,従ってその治療法に関しても未だ確立されていない点も少なくない.われわれの施行したMCT療法を中心とする保存的療法は,治癒に至るまで長期間を必要としたが有効な治療法であると考えられた.