日本臨床外科医学会雑誌
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食道重複症の一治験例
上田 裕美柳沢 正弘長谷川 洋一佐々木 忠千保 純一郎
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キーワード: 食道重複症, 食道嚢腫
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1983 年 44 巻 10 号 p. 1214-1225

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抄録
食道重複症は比較的稀な疾患であるが,最近我々は本疾患の1例を経験し治癒せしめたので, 1956年から1982年までの26年間に集計し得た自験例を含む本邦報告例55例の文献的考察を加えて報告する.
自験例は38歳男子,無症状に経過し会社胃集検にて食道の異常を指摘され入院となり,右後縦隔嚢腫との診断にて嚢腫摘出術を施行した.嚢腫は鶏卵大,表面平滑で暗赤色ゼラチン様の内容物を有する単純性嚢胞で,食道と密着するも交通性がなく,嚢腫壁は円柱上皮,繊毛上皮,粘膜筋板, 2層の平滑筋層を有していた.
本邦にて報告されている55例によれば,本症は男性に多く, 10歳未満と20~30歳代に年齢分布のピークがあり,右側中~下後縦隔に多発し球状である事が多く,無症状のまま胸部X線異常陰影を指摘される場合が多い.症状の有するものでは,成人にて嚥下困難,疼痛,小児では呼吸器症状が多くみられる.内腔粘膜では重層扁平上皮,繊毛上皮が多く認められる.また本症には合併奇形がみられると言われているが,本集計にても10例が合併奇形を有している.術前に正しく診断されたものは少なく大部分が縦隔腫瘍にとどまっており,特に食道と交通しない例は気管支嚢腫,神経原性腫瘍,食道粘膜下腫瘍などとの鑑別を要し,本症の術前診断の難しさを示している.治療は,球状型の大部分には単純摘出術,管状型には重複食道切除術が施行されており,手術による死亡例は無い.本症では周囲への圧迫刺激症状の出現,出血・穿孔,又,悪性腫瘍との合併や悪性化などが報告されているので,本症を発見次第摘出すべきであると思われる.
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