日本臨床外科医学会雑誌
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迷走神経切離術の胃粘膜への影響
第3報,粘膜の厚さについて
伊藤 正秀佐藤 薫隆工藤 玄恵
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1984 年 45 巻 5 号 p. 584-589

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抄録

目的:十二指腸潰瘍に対する迷走神経切離術(迷切と略す)前後の胃粘膜の厚さを経時的に測定し,その変動をびらん再生の頻度(stage cycleと名付ける)と減酸効果との関連から検討した.対象:選択的近位側迷走神経切離術(SPVと略す)20例と選択的迷走神経切離術兼幽門洞切除術(SV+Ant.と略す)30例である.方法:内視鏡による佐野の4点生検を術前とSPV例に,筆者らの残胃8点生検をSV+Ant.例に,それぞれ定期的に施行し最長57ヵ月まで追跡した.生検標本を筆者ら独自の病理学的基準により4 stageに分類し, stage cycleを観察するとともにstage I (安定固有期)の腺窩上皮層と固有胃腺層の厚さを測定した.同時にhistimine負荷による胃液検査を施行し減酸効果をみた.成績:体部腺領域の腺窩上皮層ではSV+Ant.例では術前平均235.7±106.4μmが術後18ヵ月の平均412.5±169.4μmへ(P<0.01), =またSPV後十二指腸潰瘍非再発(SPV非再発と略す)例では術前平均216.7±55.8μmが術後51ヵ月の平均309.4±86.4μmへ(P<0.01)と術前より厚くなった. SPV後十二指腸潰瘍再発(SPV再発と略す)例では厚さは術前と変らなかった. stage cycleおよび減酸効果の高いSV+Ant.例ではその肥厚の程度が強かった.体部腺領域の固有胃腺層の厚さはSV+Ant.例で術前平均685.7±203.3μmが術後18ヵ月の平均387.5±90.8μmへ(P<0.001)と薄くなり, SPV再発例では術後42ヵ月の平均750.0±175.3μmが術後57ヵ月では1028.6±193.3μmへ(P<0.1)と厚くなった.この変化はstage cycleや減酸効果とは負の相関であった. SPV非再発例では術前と変らなかった. SPV例の幽門腺領域では腺窩上皮層は術前と変らなかったが,固有胃腺層は非再発例で薄くなり(P<0.02),再発例では厚くなった(P<0.05).

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