近年,他の先天性心疾患と同じく,二次孔心房中隔欠損症ASDにおいても,高年齢での根治手術が,安全に行い得るようになっている.
当施設で施行したASD根治手術症例は, 114例であるが,このうち40歳以上の高年者は20症例を占める.
これらの症例からは,高年者ASDにおいては,幼小児期とは異なるいくつかの相異点問題点が根治手術前後に存在することが知られる.そこで,この20症例の分析を中心として,根治手術前後における高年者ASDの問題点について検討を試みた.
根治手術前,全例がNYHA II-IV〓の心不全症状を示し,心電図上心房細動など不整脈の合併が高率であった.また,左右シャント率,肺対体血流量比は比較的低値の例が多かった.
このことから,高年者ASDの手術前の状態として,長年にわたる高度の右心系負荷の継続や,肺血管床の閉塞性変化の進行が存在すること,さらに左心不全発症への移行期にあることなどが推測される.
肺対体血圧比,肺対体血管抵抗比の検討からは,手術適応上その可否が問題となる重症例は,ごく少なく,また根治手術の成績も良好であった.
根治手術後の問題点としては,術前の心房細動などの不整脈は術後も残存することが多いこと,胸部レ線写真上心胸郭比の改善は得られ難いこと,術後も比較的長期にわたり薬物療法に頼る傾向があることなどが挙げられる.
これらの問題点があるにかかわらず,根治手術により,一方では大部分の症例で肺のうっ血像が減少し,今回算出を試みたST indexの改善が得られており, NYHAの改善,日常活動性の増加が著るしかった.
従って,進行性心不全を阻止し活動性を増加させ得る点で, 40歳以上のASDにおいても,積極的に根治手術を施行すべきであろう.
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