日本臨床外科医学会雑誌
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イレウス症状を呈した腸アニサキス症疑症例の検討
原 和人横山 隆
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1985 年 46 巻 3 号 p. 416-421

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抄録

腸アニサキス症は,急性腹症として開腹される場合も少なくないが,多くは外科的療法を必要としない.従って,腸アニサキス症と臨床的に診断することは,不必要な手術を避ける意味からも重要である.今回, 1980年1月より1983年3月までに,当院でイレウス症状にて来院し,腸アニサキス症疑と診断した26例について,その臨床的特徴について検討した.
腸アニサキス症疑症例は, 11月から3月の冬期に21例(80.8%)発生し,魚介類摂取から48時間以内に21例に症状が出現した.摂取魚介類は,ホンサバ16例,マイカ9例,ブリ3例,イワシ・サワラ・スケソウダラ各1例であった.その症状は,主として強い間歇的腹痛を訴えるわりには,嘔吐した症例は9例と少なく, 37°Cをこえる発熱を認めたものは4例であった.検査結果では,軽度の白血球増加を示す症例が多く,末梢血液像における好酸球数は,発症より2週間までの間にピークを示し,以後漸減する症例が多かった.腹部単純X-pでは.いずれも小腸の拡張像を認めめたが,比較的限局しているものが多かった.その治療は,胃管を挿入して減圧を行ったものは3例のみであった.絶食期間は, 1日5例, 2日7例, 3日6例, 4日以上3例で,絶食せずに経過をみたものは3例であった.
従って,イレウス症状を呈する腸アニサキス症疑は,強い腹痛を訴えるわりには全身状態はよく,数日間の保存的療法にて軽快することが多く,不必要な開腹術はさけるべきである.
腸アニサキス症の確定診断は,虫体が確認されない場合困難で,腸アニサキス症が強く疑われる場合は,腸アニサキス症疑とすべきである.最近免疫学的な診断法も用いられているが,いまだ一般的ではなく,問診と臨床経過に加えて,末梢血液像で好酸球が発症2週間以内に上昇することが,診断上重要である.

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