抄録
小腸癌は他の消化管癌に比べ発生頻度ははるかに低い.著者らは術前生検により診断しえた空腸癌を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告するとともに,十二指腸癌,回盲部癌を除く小腸癌の本邦報告例の集計を試みた.
症例は貧血のみを主訴とした57歳の女性で,消化管造影にて空腸腫瘍を疑い,内視鏡下生検及び血管造影にて空腸癌と確定診断した.
過去15年間の本邦報告例は310例で, 2.2:1で空腸が回腸に比べ多く,いずれもTreitz靭帯, Bauhin弁近くに集中していた.術前診断は54例(7.4%)にすぎなかった.検査法として,消化管造影,内視鏡,血管造影が施行されていた.診断率は消化管造影のみが19.4%, 内視鏡は生検非施行50.0%, 生検施行100%, 血管造影31.0%であり,内視鏡が最もすぐれていた.しかし内視鏡施行例はTreitz靭帯, Bauhin弁に近い部位に限られていた.