日本臨床外科医学会雑誌
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斜角筋前リンパ節生検の臨床的評価
各種胸部疾患99例の検討
篠崎 登半沢 隆伊坪 喜八郎桜井 健司
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1985 年 46 巻 4 号 p. 435-441

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抄録

斜角筋前リンパ節生検(scalene node biopsy: 以後SNBと略す)は,各種の胸部疾患および転移性悪性腫瘍の診断そしてstagingのために主に利用されている.その診断率や悪性腫瘍の転移率は,諸家の報告により差がみられる
そこで今回自験例を用いて,各種の胸部疾患に対するSNBの臨床的意義と適応を臨床病理学的に検討した.
対象とした症例は, 1961年から1983年の間に当科で各種の胸部疾患の診断または疑いでSNBを施行した99例(男性74例,女性25例)である.その生検部位は右側42例,左側27例,両側30例であった. SNB症例の術前診断は,原発性肺癌84例,転移性肺癌4例,縦隔腫瘍3例,サルコイドーシス8例の4疾患であった. SNB時の斜角筋前リンパ節(scalene lymph node: 以後SLNと略す)の採取率は94%, またその合併症の発生率は2%で,両者は術者の熟練と熱意に依存していると考えられた.
転移性肺癌の転移陽性率は50% (2/4) で,陽性例の原発巣は胃と甲状腺の腺癌であった.縦隔腫瘍の3例は転移がなかった.サルコイドーシスの8例では,全例に陽性の診断を得た.
術前臨床的に原発性肺癌と診断された84例の中で,組織学的にも原発性肺癌と診断されたのは57例であった. 57例の転移陽性率は35% (20/57) で,組織型別の陽性率は腺癌65% (13/20), 扁平上皮癌12% (3/25), 小細胞癌50% (4/8) であった.また術前SLN触知群では100% (7/44), 非触知群では16% (7/44) であった.
以上から,良性の胸部疾患でSNBの適応疾患は,サルコイドーシスで,その生検部位は右側が第1選択であると考えられた.
原発性肺癌に対するSNBの適応は,組織型別に異なる.すなわち腺癌症例の転移率は高く適応が多い.反対に扁平上皮癌の転移率は低く,術前にSLN触知する場合を除くと,適応は少ない.

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