1990 年 51 巻 5 号 p. 1015-1018
肝葉形成不全はまれである.われわれはS状結腸癌の肝転移をともなった肝左葉形成不全の1例を経験したので報告する.症例は55歳の男性.主訴は下腹部膨満感.注腸透視の結果,S状結腸癌と診断したが, CT (computed tomography)で多発性の肝転移を認めるとともに胆嚢左側に左葉に相当する臓器を認めず,シンチグラム,血管造影所見もあわせて,肝左葉形成不全と診断した.手術は結腸切除および固有肝動脈内動注用カテーテル留置を行ったが,術中の観察で,肝鎌状間膜より左側の肝外側区域は膜様に存在するのみで肝実質は認めず,また術中胆道造影でも胆管左枝は存在するもののほとんど分枝をともなっておらず,術前診断どうり左葉形成不全と診断した.