1990 年 51 巻 5 号 p. 925-929
29歳,男性の鈍的腹部外傷による十二指腸破裂の1例を経験した.受傷後24時間で,消化管穿孔を疑い,水溶性造影剤による消化管造影を施行,外傷性十二指腸破裂と診断した.当人が「エホバの証人」であり,術前に輸血拒否の申請をしたため,これを承諾,手術を行った.術中所見では,十二指腸は第II部が離断された状態で修復不能と判断,膵頭十二指腸切除術を施行した.出血量は300mlで,輸血することなく術後90日目に退院した.鈍的な腹部外傷による十二指腸破裂の診断は困難であり十二指腸の損傷が疑われる症例では積極的に水溶性造影剤による造影を行うべきと考えられた.また,「エホバの証人」に対する輸血の問題については,患者が成人で輸血拒否の明瞭なる意志表示をし,医師の責任を問わないという承諾書を確保した場合,輸血をしないために死亡したとしても,また,患者の意志に反して輸血を施行したとしても法的に問題となることはないものと解釈された.