1993 年 54 巻 1 号 p. 170-174
69歳男性に発生した右後区域の肝硬変非併存原発性肝細胞癌に対し,肝右葉切除を施行した.術中,総胆管下部に硬結部を認め生検を行ったが悪性所見を認めなかった.術後,病理組織診にて郭清したリンパ節に腺癌細胞の転移を認め,さらに胆汁細胞診にて癌細胞を認めたため,下部胆管癌が同時性に重複したものと診断し,膵頭十二指腸切除を施行した.
肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma) と胆管細胞癌 (cholangiocellular carcinoma) が混在した症例の報告は散見されるが,肝細胞癌と肝外胆管癌 (extrahepatic bile duct carcinoma) とが同時性に重複した例は極めて稀である.
本症例が同時性に重複発癌した機序は明らかでないが,両癌とも同じprimitive duodenal entoderm由来の組織に発生している点で示唆に富む症例と思われた.