1994 年 55 巻 4 号 p. 931-936
症例は63歳,男性.平成3年10月より出血源不明の下血を繰り返していた.平成4年2月7日早朝,下血とそれに続く腹痛が出現し,紹介入院となった.腹部は筋性防御を伴った圧痛とBlumberg徴候が認められ,胸腹部単純X線像では横隔膜下に遊離ガス像が認められた.以上より消化管穿孔の診断のもとに直ちに開腹した.検索の結果, Treitz靱帯より肛門側2mの空腸部分に径8mmの穿孔を伴った憩室が確認された.憩室は8cm大で,腸間膜の反対側の位置し,壁の一部に指頭大の硬腫瘤を触知した.手術は憩室を含む約15cmの空腸部分切除を行った.病理組織所見では,本例は壁外型平滑筋肉腫を合併した空腸真性憩室で,腫瘍細胞の浸潤は憩室ほぼ全体に及び,その潰瘍部で穿孔が認められた.
以上,空腸憩室壁に平滑筋肉腫を合併し,内腔のびらん,潰瘍部から出血を繰り返し,穿孔に至ったと推測される稀な1例を経験したので報告する.