抄録
25年間の潜在期があり再度の衝撃で左胸腔を占拠した外傷性横隔膜ヘルニア症例を報告する.25年前,生き埋め事故に遭い,2年前に外傷性横隔膜ヘルニアを指摘されていたが症状はなかった.今回交通事故で脳挫傷,腹部強打,左下腿開放性骨折で某医に入院していたが呼吸障害が進行し,左胸部全体に異常陰影がみられたと当院に紹介された.外傷性横隔膜ヘルニアの診断は胸部X線写真で容易であったが,既往に横隔膜ヘルニアを指摘されており,以前の状態が明かでなかったので確認を要した.開腹手術の所見では横隔膜腱様部を含むドーム状の部分が裂け,横隔膜と胸壁との付着部が切断される複合型であった.大網が25年前の肋骨骨折部に癒着しており前の受傷時に起こったものと推定した.術後,虚脱した下葉は仲々再膨張せず,翌日には人工呼吸による圧外傷を起こした.また胸水が長期間にわたり認められた.気管内チューブ抜管後再び無気肺をおこし黄色分泌物がみられMRSA感染を起こした.その他,敗血症や高度な譫妄状態が見られたが軽快し54病日前医に転院した.