1996 年 57 巻 10 号 p. 2449-2453
症例は57歳の男性.嚥下時の胸部不快感を主訴に来院.精査にて下部食道癌と診断され中下部食道・噴門側胃切除を施行.病理組織学的には深達度sm,脈管侵襲陰性(ly0, v0),リンパ節転移陰性(n0)の食道カルチノイドと診断された.術後15カ月後に頸部・縦隔リンパ再発をきたし,計60GyのT字照射を行い一時著明なリンパ節の縮小を認めたが,術後21カ月後にリンパ節転移が再燃し死亡した.
本邦における食道カルチノイド手術報告例12例の予後は不良であり,死亡例は全てリンパ節転移・再発を伴っていた.長期生存の条件として, 1)腫瘍径2cm以下, 2)深達度sm以下, 3)リンパ節転移陰性が挙げられた.
治療は,本腫瘍が通常の癌と同等以上の悪性性格を持つことを認識し,特に径2cm以上の腫瘍に対しては,充分なリンパ節郭清を伴う手術が必要である.また,深達度sm以上やリンパ節転移陽性例は照射療法や化学療法等による補助療法も考慮されるべきと考えられた.