1996 年 57 巻 10 号 p. 2550-2553
症例は肝硬変治療中の43歳男性.起立時に生ずる右鼠径部の小児手拳大の腫瘤のため日常生活を障害されることを主訴に来院した.
ヘルニアの診断で手術したところ著明に拡張した異所性静脈瘤が内鼠径輪から滑脱しているものであった.さらに, 3カ月後に肝不全で死亡したため施行した剖検所見で,下大静脈奇形が認められ,これら二つの病態により門脈系と下大静脈との間に,門脈→上腸間膜静脈→後腹膜の血行路→遺残右下大静脈→下大静脈というルートが生じたために発症したきわめて稀な症例であると考えられた.