抄録
症例は49歳,女性.平成3年1月初旬より左大腿内側に一部発赤を伴う直径1cm大の腫瘤を触知し,平成3年2月1日,当院外科初診.初診時の所見より下肢静脈瘤と診断され,以後外来にて経過観察されていた.平成12年に入ってから同部位に掻痒感,時に疼痛を訴えるようになってきたため,平成13年6月29日,局所麻酔下に腫瘤摘出術を施行した.術中腫瘤内に連続する自発的な蠕動運動を呈する索状組織が認められ,寄生虫感染による疾患の可能性が指摘された.病理所見にて虫体内に条虫類特有の石灰小体の存在と,患者血清を用いた抗原測定の結果から本症例をマンソン孤虫症と診断した.マンソン孤虫症は日本では現在まで300例以上の報告があるが,本症例は検索しえた範囲内では本邦における北限の報告例となる.