コレステロール結晶塞栓症により小腸多発穿孔,腹膜炎を呈した1例を経験したので報告する.症例は76歳,女性.既往に高血圧,冠動脈バイパス術,慢性腎不全による透析,腹部動脈瘤グラフト置換術があった.腹痛発熱を契機にCTを施行し腹腔内遊離ガス像を認めたことから消化管穿孔の診断で手術を施行した.小腸の多発穿孔を認め広範囲小腸切除,小腸ストマ造設を施行したが,ストマ閉鎖術後に肝不全の急速な進行と,縫合不全,消化管出血などで死亡した.病理検査では小腸の細動脈,肝動脈内にコレステロール結晶を認め,小腸穿孔,肝不全の原因と考えられた.コレステロール結晶塞栓症に対しては根治的治療法が存在しないため,腎症状,皮膚症状などから早期に診断し,他臓器での発症を予防する必要がある.また本邦における小腸穿孔例は4例報告されているが,予後が非常に悪いため,腹痛下血などの消化器症状には特に注意を払う必要がある.