Revue japonaise de didactique du français
Online ISSN : 2433-1902
Print ISSN : 1880-5930
Du regard eloigne : Une reflexion methodique sur le comparatisme critique
Aya ITO
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2012 年 7 巻 2 号 p. 68-75

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抄録

この研究ノートはレヴィ=ストロースの著作,とりわけ,その思想の鍵となる観念である「離れた眼差し」,すなわち「人類学的省察の二重の本質」を示すものといわれている「離れた眼差し」に戻り,比較学の可能性を考えるものである。1983年の論集のタイトルにもなった「離れた眼差し」という言葉の有名さにもかかわらず,それが世阿弥の能の理論から来ていることはあまり知られていない。レヴィ=ストロースは,世阿弥の言葉を字義的に訳しつつ,観察者の視点を客観性に還元することを避けている。彼にとって,比較の視点は客観的ではない。それは,世界の複数性を,諸価値を相対性のもとに見るような物見高い,超越的な立場であってはならない。比較学はまずもって批判的省察の次元を打ち開く実践にかかわる。役者が絶えず自身と距離を取る意識を持とうとするのと同じように,観察者は,客観的であることは決してできないし,自身がいる場所の特殊性から完全に切れることは決してできない。おのおのの文化の特殊性は通約不可能であるが,それは普遍主義への障壁ではなく,むしろ,それは普遍性への可能性の条件のひとつである。ただ,二重性の原則,すなわち「離れた眼差し」の内面化だけが,多文化主義の名のもとに,普遍主義を疑問視する言説の袋小路を超え,また,異なった諸文化の「通約不可能性」は普遍性を求めることと両立不可能であるという考えを超えるための有効な方法である。

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© 2012 日本フランス語教育学会
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