抄録
日本の少子高齢化に伴う労働力人口の減少は喫緊の課題であり、ITを活用した生産性向上を目指すと同時に、IT人材不足を解消するためにIT企業において人材が定着する持続的な組織づくりや人材マネジメントが必要とされる。本研究では、日本のIT企業における持続可能な働き方を実現する組織マネジメントの方向性を示すことを目的とした。先行研究から現状と課題をレビューした結果、日本のIT企業の組織マネジメントには、「プロジェクト中心の運営」「知識・情報マネジメントの体系的運用」「多様性の戦略的重要性」「グローバル対応とオフショア体制の構築」「技術と経営戦略の統合」の5つの特徴が見出された。「プロジェクト中心の運営」を第一に据え、「知識・情報マネジメントの体系的運用」を進める上で、労働人口が減少する社会において人的資本をより有効的に活用するためにも「多様性の戦略的重要性」を考慮しながら「グローバル対応とオフショア体制の構築」を推進することが、企業価値の向上や競争環境の変化に迅速に対応するといった「技術と経営戦略の統合」につながるだろう。つまり、IT企業の組織運営を支えているのは個々のプロジェクトだがそれを構成するのは個人であり、各プロジェクト内の構成員が生み出す価値が社内資産として持続的に共有・継承されるよう、多様な個々人の特性を適切に把握しながらマネジメントを行うことが、今後のIT企業の持続可能な組織運営において不可欠であることが示唆された。