根の研究
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わが国の食料自給率向上と環境保全に向けた根に関する研究課題
高橋 智紀中野 明正
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2011 年 20 巻 2 号 p. 49-59

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抄録
1982~2007年および,2010年に農林水産省が策定した「食料・農業・農村基本計画」の自給率目標に基づく2020年の日本の窒素・リンのフローを解析した.1990年代後半以降,日本の窒素・リン負荷量は減少傾向を示している.これは農地からの窒素・リン負荷量が減少傾向にあることが主因であり,この時期の農産物の窒素吸収効率は39%から46%に,リン吸収効率は20%から28%に増加した.一方「食料・農業・農村基本計画」の自給率目標を2020年に達成した場合は,農地における溶脱・蓄積負荷量が増加することが試算された.また,試算結果では窒素・リンのフローが農地に集中し,特に水田では窒素・リンの単位面積当たりの吸収量がそれぞれ2007年の1.4倍と1.3倍となった.以上から,環境保全のためには国内に流入する窒素のほとんどを根をとおして再循環させる必要があり,生産性と両立させるためには多施肥環境において養分利用効率を高めることが重要である.上述の課題を実現するための技術開発として,①復元田が持つ性質の解明と利用,②水稲根の育種,③施肥の精密化による養分利用率の向上,などが考えられる.いずれも作物根の機能強化あるいは根圏環境の改善を含み,根に関する課題の重要性を示している.
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© 2011 根研究学会
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