根の研究
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原著論文
  • 齊藤 光, 酒井 彩衣, 東 優花, 富永 貴哉, 上中 弘典
    2024 年 33 巻 3 号 p. 77-83
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/09/24
    ジャーナル オープンアクセス

    アーバスキュラー菌根 (AM) 菌は陸上植物の約7割と根において共生できる糸状菌であり,相利共生により植物に対して土壌中のリン酸を供給する.そのため,AM菌接種により貧リン酸条件でも効率的なリン酸の利用と植物生育の改善が期待できる.先行研究において,リンドウ科植物のセコイリドイド配糖体にAM菌の菌糸分岐促進能が備わっており,その処理によりAM菌の感染が促進されることを明らかにしている.本研究では,リンドウ科植物由来のセコイリドイド配糖体の機能を利用した農業資材開発を目的に,低コスト化のためにリンドウ科の生薬から調製した抽出液が化学的純品を代替できるかについて検討した.リンドウ科の生薬リュウタンの熱水抽出液を調製し,HPLCを用いて測定したセコイリドイド配糖体含有量をもとに,以後の試験を行った.AM菌を用いたバイオアッセイの結果,生薬抽出液には化学的純品に相当する菌糸分岐促進能が認められた.また,生薬抽出液を処理することで,チャイブとトマトにおいてAM菌の感染が有意に高まった.一方で,トマトにおける共生のマーカー遺伝子の発現解析では,生薬抽出液の処理による変化は認められなかった.植物の生育に対する影響が認められなかったことも合わせて考えると,リンドウ科植物由来のセコイリドイド配糖体が備えるAM菌の菌糸分岐促進能を発揮させる目的で,生薬を基源とする抽出液が利用可能であると考えられる.

ミニレビュー
  • 遠藤 いず貴
    2024 年 33 巻 3 号 p. 84-92
    発行日: 2024/09/20
    公開日: 2024/09/24
    ジャーナル 認証あり

    熱帯多雨林の年間の総一次生産量は陸地合計の約1/3に達する.さらに,葉の光合成による同化産物の約1/3が細根生産に配分されるとも試算されている.細根の成長,枯死分解は熱帯多雨林の炭素循環に大きな役割を果たすが,細根の成長,枯死分解は比較的短い期間に同時に起こることから,その年間を通した観測およびそれらに影響する要因を解明することは難しい.本稿では,非破壊的に連続して根の動態を観測できるスキャナー法を用いて,マレーシア,ボルネオ島のランビル・ヒルズ国立公園の熱帯多雨林において細根の成長および枯死分解を経時的に調査し,その季節性,場所ごとの違いや根直径の特徴に関する研究事例を紹介する.ランビル・ヒルズ国立公園の森林内5か所で撮影したスキャナー画像をもとに,画像解析ソフトを用いて根を抽出し,根直径ごとの根長を測定した.その結果,月平均の細根成長量と枯死分解量に明確な季節性は認められなかった.また,場所ごとの細根成長量と枯死分解量が多い月について,気象要因との相関関係はほとんど認められなかった.さらに,直径0.5 mm以下の細い根が成長量と枯死分解量の8割以上を占めた.これらのことは熱帯多雨林に明確な季節性がないことや,樹種の多様性が高いことが影響していると考えられた.本稿では,さらにスキャナー法を用いた細根動態の研究の課題や展望についても提示した.

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