根の研究
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高田松原の一本松,今泉天満宮の大杉の塩害と樹木医技術
苅住 曻
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2012 年 21 巻 3 号 p. 73-78

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抄録

東日本大震災の巨大津波によって,陸前高田市の名勝高田松原のマツ(アカマツ・クロマツ)は倒伏・折損によって全壊した.中に一本だけ立残った大木のアカマツがある.付近の地盤は地震によって84cm沈下し,満潮時には木の近くまで海水が浸入し,また地下水位が上昇して根の成長と働きを阻害する状態となった.地下水の浸入を防止するために,一本松の周囲(15m×15m)に長さ6mの矢板を打ち込み,矢板囲い工事を行った.しかし,海岸砂地の矢板打ち工法で一般に知られている,クイックサンド現象によって周囲の地下水が噴出し,矢板囲い内の水位は上昇した.排水ポンプで排水したが,水位を下げることは出来なかった.表層の根系は地下水の上昇による湿害と塩分濃度の上昇による根の生理障害によって,活力を失い,枯死した.葉色は津波直後の3月中旬には緑で活力を保っていたが,気温の上昇に伴う蒸散量の増加によって,次第に褐変して,8月には殆ど枯死の状態にあった.クイックサンド現象による地下水の噴出を考慮すれば,海岸砂地における矢板囲い工法の利用は極めて危険性が高い.このような地下水位が高い環境では,根鉢による根系の持ち上げ工法が考えられる.大きな重機を用いての吊り上げ移植が出来ない場合には,従来から用いられている,斜面を作り,コロを敷いてウインチで引っ張り上げる方法や,ジャッキアップするなどの方法が考えられる.マツの発根が早春であることからすると,なるべく早い時期の移植が適当である.津波は付近の山脚を遡上して高さ25mに達し,スギ造林木が塩害で枯損した.気仙川沿いの 山脚部にある今泉天満宮境内の貴重木の大杉も塩害によって枯損した.ここでは 海岸砂地における矢板囲い工法による地下水位の上昇とこれに起因する根系の湿・塩害による樹木の枯損及び砂地土壌の塩害について考察した.

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© 2012 根研究学会
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