抄録
イネ科作物の体は, 茎断片 (節間)・葉・根・分げつ芽からなるファイトマーの積み重ね構造として理解できる. この考え方を水稲 (イネ, Oryza sativa L.) の圃場試験に応用し, 稚苗よりもさらに若い2葉期の苗を移植する乳苗移植栽培における根系形成を検討した. 栃木県の農家水田において, 水稲品種コシヒカリの乳苗移植栽培 (乳苗区) と稚苗移植栽培 (稚苗区) を対比し, 葉数から推定されるファイトマーの数や, 茎葉部乾物重や茎直径から推定されるファイトマーの大きさを調べるとともに, 根系については, 根量と分布および出液速度で評価される生理的活性を調べた. 乳苗区のイネは, 稚苗区のイネよりもファイトマーの数が多く推移し, ファイトマーの大きさは小さい傾向にあった. 根量には両区の間に差異がみられなかったが, 分布は乳苗区の方がやや浅根性であった. 乳苗区では, ファイトマー数に応じて1次根数が多い一方で, ファイトマーが小さいために個々の根も短くなっており, そのため浅根性であった可能性がある. 出液速度の測定結果は, 乳苗区の方が生育後半の根の活性が高く維持されたことを示しており, 乳苗区では生理活性が高い“うわ”根が土壌表層に多く形成されていたと考えられる.