根の研究
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ヒノキからみた樹木細根系内の生活環における異質性と生態系機能
菱 拓雄
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2006 年 15 巻 1 号 p. 5-10

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抄録
細根は樹木の土壌資源獲得機能を持つと同時に, 土壌生態系への分解基質供給といった生態系機能を持つ. 近年では, これらの両機能の関係を明らかにするため, 細根系を構成する個根の性質の違いが注目されている. 細根系内では, 分枝位置に従って, 先端ほど吸収力が高く, 基部ほど低くなる. これは, 個根の齢が増加するためだけでなく, 原生木部などの維管束形態によって先天的に決あられた生活環や機能の違いによるためでもある. 樹木細根系では二次成長によってストレスから守られた長寿の基部が生存している間に先端の一次組織を中心とした吸収根を付け替える生活環の分化によって吸収力を維持している. したがって, 先端の個根は基部近くの個根に比べ, 枯死率が高い. 枯死率の高い個根は枯死しにくい個根に比べて分解速度が速いことから, 細根系内の個根の枯死様式は土壌分解系における根の働きにも重要な意味を持つ. これらのことから, 土壌資源獲得能力を維持するための細根構造の維持様式は, 個根の生態系機能における役割の違いと関係している. 今後は植物細根構造の種内・種間変異, 環境応答などを詳細に調べることで, 樹木の土壌資源獲得機能から生態系機能の機構が明らかにされることが期待される.
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