抄録
イネの大幅な単収増加をもたらす低投入持続的稲作技術であるSRI (System of Rice Intensification) は、1983年にマダガスカルで発明され、1999年以降広く世界で知られるようになった。SRI稲作の基本原則は、移植の際に乳苗を広い間隔で一本植えし、間断灌漑を行うことである。これまでに約20カ国で実証試験が行われ、多くの発展途上国で普及が進んでいる。東方インドネシアの灌漑農業開発を支援する円借款プロジェクト・小規模灌漑管理事業では、2002年からSRIを導入し、イネの増収を図り農民の所得向上を実現してきた。プロジェクト関係者の普及指導の下、4年間の通算で1,849農家1,364haの灌漑水田でSRIが実施された。その結果、平均モミ収量は慣行稲作 (対照区) では3.9トン/ha、SRI区では7.2トン/haであり、84%の増収を記録している。SRIではインドネシアの慣行稲作に比べて、灌漑用水量が約40%減り、肥料・農薬は半減し、生産費は25%以上節減できる。SRIは農民の所得を大幅に増やす。SRIでは慣行稲作に比べて水管理や除草の労力が増えるが、所得増大の強いインセンティブが働くため農民は実行する。このようにSRIの効果は確実であるものの、一方、SRIの理論的な解明は未だ行われていないため、施肥や水管理などの具体的な実施方法は、地区毎に試行錯誤で決めているのが現状である。今後、研究が進展しSRIの増収理論の解明に基づいた最適な技術体系が確立し、SRIの普及がさらに大きく進展することを期待したい。