気象研究所で開発された大気海洋結合モデルを用いて二酸化炭素漸増(年率1%の複利で増加)実験を行い,気候が時間的にどの様な応答を示すかを調べた。時間積分は二酸化炭素が倍増する70年間について行った。ここでは北半球高緯度地域における気候の時間的応答,特にオホーツク海の温暖化に焦点を当てて議論する。
北極点付近の昇温が最大になるのは70年積分の最後の方であった。この事実と地表面のエネルギーフラックスの時間変化から,リード(海氷の割れ目)による負のフィードバック効果が極域での応答を強く支配していることが示唆される。
北半球高緯度地域においては,海氷・雪氷/アルベードのフィードバック効果が二酸化炭素によって引き起こされた温暖化の主因となっているが,オホーツク海の熱収支を調べた結果,海氷生成の南限における温暖化では,(波数3をとる)冬の定常プラネタリー波による影響をある程度受けていることが示された。極域の南の境界で温暖化が極大となる場所,すなわち,オホーツク海,バレンツ海,ハドソン湾は定常プラネタリー波のトラフ(谷)に対応している。この事実は,観測される冬の定常プラネタリー波の特にトラフに着目することによって,実際の気候における二酸化炭素による地球温暖化の信号の検出として応用できる。従って,衛星のリモートセンシングの技術を用いてこれらオホーツク海等の地域の海氷を長期に渡って監視することは地球温暖化の検出に強力な基礎を与えることになる。