オホーツク海は,北半球の最低温域であるシベリアからの寒気の吹き出しを受け,冬は海水に覆われた極域の海洋の様相を呈している。オホーツク海北西部では,海氷生産,高塩分水の形成,大きな温度差を持つ大気と海洋の間の熱交換などが盛んに行われている。ここで形成された海氷は沖に吹き流され,沿岸部において新たな開水面の出現や,薄い海氷域の形成がおきている。海氷が厚くなるに従い,海氷成長速度は急に減少するが,このような開水面や薄氷域が維持されている場合は,海氷は高い生産率で形成され続ける。現在の海氷情報は,観測範囲内に海氷が占める面積の百分率として計算される「海氷密接度(iceconcentration)」が主であり,この海氷密接度により海氷変動をモニターしたり,アルベードや熱交換の推定を行っている。マイクロ波放射計から得られる海氷情報も,密接度が中心であり,その他に一年氷と多年氷の判別があるが,オホーツク海の北西部やサハリン沿岸部などの薄氷域が出現する地域では,新しい観測要素として厚さの情報抽出も重要である。
この研究では,リモートセンシングによって試みられでいる海氷の厚さの検出方法を紹介し,特にNOAAのAVHRRによる海氷の表面温度から推定する方法と,DMSPのSSM/1によるマイクロ波データから推定する方法を試みた。表面温度から推定する方法は,海氷と大気に挾まれた海氷内の熱伝導が平衡状態となっていると仮定して海氷の厚さを推定するため,気象条件が変わった場合や厚い氷では誤差が多くなる。マイクロ波放射計による観測では,37GHzと19GHzの差で表されるGR(gradient ratio)と19GHzの水平偏波と垂直偏波の差で表されるPR(poralization ratio)の組み合わせ(scatter plot)から,薄氷域ではPRに関係なくGRの値がほぼ0を示し,他の一年氷の特徴(PRとともにGRも変化する)と異なる性質を薄氷の判別の基準にしている。この方法により,オホーツク海に広がる海氷域内の薄氷域分布とその時間変化を求めた。
マイクロ波放射計の空間分解能は20km~30kmと赤外センサーより格段に劣るが,天候に関係なく,さらに毎日の観測が可能であることから,その特徴を生かして連続データの作成を行い,海氷面積と薄氷域面積の拡大縮小を観察した。サハリン湾など薄氷域の顕著な地域では,海氷面積の拡大過程において,寒気の吹き出しによる海氷の沖への移動と沿岸部での薄氷域の拡大が同時に生じている。その後,薄氷域では厚さの増加がおこり,面積だけでなく実質的な氷量の増加になって行くことが,連続データの解析から示唆される。
このような薄氷域は,特にオホーツク海で顕著である。また,北極海の沿岸部などにも多く存在している.従来の海氷データでは,多年氷とマイクロ波特性が似ていたため,これらの地域では,厚さ2cm~30cm以下の薄氷域が誤って多年氷(一般に厚さ数m程度)と解釈されていた。この違いにより海氷面積には差は出ないものの,海氷生産量や,熱交換,動力学には大きな差が生じる。このような,薄氷域の検出により,海氷量の推定精度,特に結氷など海氷生産に関わる情報の抽出が改良され,大気一海氷一海洋間での相互作用など海氷域の気候研究にとって有効な情報が得られると考えられる。
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