急傾斜地崩壊対策事業が国の補助のもとに1967年度から始まって10年余りが経過しており,急傾斜地崩壊対策事業の重要性に対する認識も高まって来ている。また急傾斜地の調査方法,崩壊防止工の設計施工法も次第に確立されつつある。しかしながら海外においては,歴史が浅く我が国特有の急傾斜地崩壊対策事業はほとんど理解されていないのが現状である。
本報文は,主として急傾斜地崩壊防止工事の調査と設計に関して,その概略を千葉県における調査検討例を含めて海外に紹介し,我が国の急傾斜地崩壊防止工事に関する理解を深めようとするものである。
急傾斜地崩壊防止工事を考える際に最も基本となる事項は対象斜面の崩壊形態の想定である。しかしながら対象斜面は一般に自然斜面であるため,地質状況が多様複雑であり,地盤の強度および水に関する性質が顕著な異方性を示す。また崩壊の主な誘因となる降雨や地震による影響も複雑であり,崩壊形態の想定は決して簡単ではない。したがって崩壊防止工事の設計に当っては対象斜面を調査することが重要であり,この調査結果と従来の経験をもとに,担当技術者が的確な工学的判断を行なう必要がある。