1977 年 16 巻 6 号 p. 473-475
西ドイツには第2次世界大戦前に巨大さを誇っていた旧IG社の系続を継ぐBASF,Hochst, Bayer, Hulsの4大化学会社が健在で,石油化学からファインケミカルにまで及ぶ広い範囲の化学薬品を生産し,その総売上高はいずれの社1社で我国の化学工業の合計を凌ぐほどの盛業を示している.また,外資系の化学工場も多数存在し,欧州では最も化学工業の盛んなところである.その立地条件は,いずれも市街地に近いとはいうものの,わが国に比べればいずれも相当離れたところにあり,しかも広大な敷地を持っており,好条件にある.ただ,工業用水の取得及び排棄が同一河川によるところが多いので,この方面における公害問題の解釈が我国とは比較にならないほど深刻なものとなっている.現在化学産業の華となっている石油精製及び石油化学の分野においては何と言ってもアメリカが先鞭を付けているため,その方面の技術においては,我国と同様にアメリカナイズされているものが多いようであるが,保安に関する考え方または保安技術の面では,かつては世界第1級の化学産業を持った国だけに,長い経験と国民性による何かが加えられているようで,行政面においても企業の方針においても,それぞれ個性を活かしたものとなっているように見受けられる.英語一辺倒の我国において,なじみの少ないドイツ語で取付き難い国ではあるが,もう一度この国の実情をよく研究してみることはアメリカナイズされた我国の化学工業特に保安技術面では大いに参考となるものがあるのではないかと考える.西ドイツの保安の概要を次に述べて参考とする.